モンサントのメロン育種家ジェフ・ミルズ(Jeff Mills)氏。カリフォルニア州ウッドランドにある研究所のビニールハウス内で
Melia Robinson/Business Insider US
モンサントは、遺伝子組み換えばかりに取り組んでいるわけではない。
確かに1901年の創業以来、除草剤や殺虫剤に加えて、いまだ議論の的になっている遺伝子組み換え作物(GMO)で、モンサントは技術革新をけん引してきた。
しかし、この時価総額490億ドル(約5兆6000億円)の巨大バイオテクノロジー企業が野菜の種子のサプライヤーとしても世界最大のシェアを誇ることは、あまり知られていない。
アメリカ国内で栽培されているトウモロコシや大豆のほとんどには、モンサントが特許を取った遺伝形質が備わっている。近年、モンサントの主力である遺伝子組み換え作物の事業を、非遺伝子組み換え作物事業が補完しており、後者は2016年、売上高8億100万ドル(約914億6600万円)を計上した。
カリフォルニア州ウッドランドにある広大な施設では、研究者たちが既存の交配技術とハイテクを活用した品種改良に取り組んでいる。果汁たっぷりのメロン、常温で保存できる玉ねぎ、長持ちするトマトなどが研究開発されているのだ。
Business Insiderは今回、モンサントの野菜研究開発部門のグローバル本部であるこの施設を見学した。
2016 年、モンサントはアメリカで嫌われている企業の5位に選ばれた。
2015年、アルゼンチン・ブエノスアイレスの反モンサント抗議運動にてデモ行進する参加者たち
Enrique Marcarian/Reuters
モンサントの悪評は、同社の遺伝子組み換え事業に由来する。遺伝子組み換え作物は、食の安全を訴える活動家たちの間で絶えず議論を呼び起こしている。モンサントはその中心にある。
遺伝子組み換え作物の安全性について、2016年にアメリカ科学アカデミーは「問題はない」と発表したものの、社会的・環境的な懸念はぬぐい去られていない。
一方カリフォルニア州ウッドランドで、モンサントは農場に囲まれた広さ212エーカー(約85万7000平方メートル)の研究所で、遺伝子組み換えを必要としない昔ながらの手法で野菜の品種改良に取り組んでいる。
カリフォルニア州ウッドランドにあるモンサントの研究所。遺伝子組み換え技術を使わずに野菜の品種改良を行っている。
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2005年、モンサントは約10億ドルで果物や野菜の大手種子会社セミニス(Seminis)を買収し、世界最大の種子会社となった。
「これは自然な進化だ」と、同社野菜部門・研究開発のグローバル責任者ジョン・パーセル(John Purcell)氏は語った。
2016年、モンサントの野菜種子事業の売上高は8億100万ドル。遺伝子組み換え作物、農薬、農業ソフトウエア・ソリューションの売上高の10分の1以下だ。
野菜部門は、同社主力である2つの遺伝子組み換え作物(殺虫剤耐性のあるトウモロコシと大豆)ほどの利益は見込めない。それでも、2016年に1億ドルを野菜の研究開発に投じたとパーセル氏は述べた(同社が2016年、研究開発に投じた資金は総額約15億ドル)。
モンサントは、世界中で18の野菜(トマト、メロン、玉ねぎ、人参、ブロッコリー、レタスなど)と2000以上もの品種を栽培している。
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人間は長い間、よりよい作物を収穫するために手を加えてきた。伝統的な品種改良は、特徴的な2つの種を掛け合わせることで行われた。その特徴が親から子孫へと、そしてその後の世代へと受け継がれていくことを、農家は期待していたのだ。
一定の時間で成熟し、常温で長く保存でき、見た目も味も良い ―― そうした作物を開発するために、育種家は今日も伝統的な手法を続けている。ただしこのプロセスには、多大な時間とコストがかかる。理想の結果を出すには、何世代にもわたる交配を必要とするからだ。
10年以上をかけて、モンサントは実際に種を植える前の段階で野菜の特徴を予想できる品種改良技術を開発した。
遺伝子検査用に種を薄くスライスする高性能マシーン。2009年、ミズーリ州セントルイスのモンサント研究開発本部内に展示
Brent Stirton/Getty
その進歩の多くはウッドランドで起きている。現地の施設では、科学者、コンピュータエンジニア、統計学者などの有能な人材が力を合わせて、さらなる品種改良を重ねている。
モンサントのウッドランド研究所にて、野菜研究開発戦略オペレーションを管轄するマーク・オッペンフイゼン(Mark Oppenhuizen)氏
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州都サクラメントから車で30分もかからない距離にあるウッドランド研究所。果てしなく広がる土地に温室が並ぶ様子は、まるで火星に建設された研究基地。
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ウッドランドでは、モンサントの種を購入した農家からのリクエストにも対応する。「人間と同じで、植物も病気にかかりますから」と語るのは、ステーシー・ローゼンバーガー(Staci Rosenberger)氏。作物の診断を行う植物病理学チームの責任者だ。
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ローテクラボで、ローゼンバーガー氏がプラスチックケースを開けると、中にはレタスの芽が入っていた。葉には、けば状の白い斑点が見られる。「レタスべと病」と呼ばれる真菌病の症状だ。
顧客から預かった作物に現れている症状に似ている。彼らは作物の耐性の改良を望み、病気にかかってしまった作物のサンプルをウッドランドに送ってくるのだ。
ウッドランドの研究所にサンプルが到着すると、まず科学者たちは既知の病気による症状かどうかを判定する。次に遺伝子バンクと呼ばれるデータベースに入り、その病気に耐性のある品種を探し出す。
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数十万種類もの種子がストックされている「種子ライブラリー」の1つ。職員2人が常勤し管理する。
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ローゼンバーガー氏のチームは病気に強い種を農家に送る。農家は、それらをうまく交配させる。「レタスのお見合いサイトみたいなものです」とパーセル氏は語る。
遺伝子組み換えでない何百種類ものスイートコーンの種が袋分けされた状態で保管されている。モンサントのウッドランド研究所にある種子ライブラリーにて
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モンサントによる品種改良の取り組みは、受動的かつ能動的だ。病気に対して耐性を強めると同時に、より好ましい特徴を備えた新種の作物を生み出す。
品種改良に活用されているテクノロジー。2009年、ミズーリ州セントルイスのモンサント本部にて展示
Brent Stirton/Getty
2011年、モンサントはブロッコリーを品種改良し、「ベネフォルテ(Beneforté)」と名付けた。抗酸化物質を豊富に含む野生のブロッコリーと商業用ブロッコリーを掛け合わせ、栄養豊富な種を作り出した。
モンサントがこれまでに開発した遺伝子組み換えでない改良種としては、切っても涙の出ない玉ねぎ「エバーマイルド」(EverMild)や、シャキシャキ感が長持ちするレタス「フレスカーダ」(Frescada)、一口サイズのパプリカ「ベラフィーナ」(Bellafina)がある。
例えば、従来よりも甘いカンタロープメロンを生み出すには、まず果肉の糖度を左右する遺伝子を見つけ出す。
モンサントのウッドランド研究所にあるメロン。2011年冬に発売された代表作「メロランジュ」(Melorange)とは異なる品種
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そのために、モンサントはより甘いと思われる品種と、対照群としてあまり甘くないと思われる品種の種子をそれぞれ使用する。
出典:Wired
モンサントが独自開発した「シード・チッパー」と呼ばれる装置。これで2種類のメロンの種子をそれぞれ薄くスライスし、殻を空気圧で除去する。
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スライスされた種は小さなビーズの入ったトレーに移され、細かく粉砕される。その後、別の装置でゲノム配列を読み取る。
Brent Stirton/Getty
粉砕された種子片は、小さなくぼみが多数ある特殊なシートに移される。 そこへ植物のDNAに付着する合成着色料を加え、ターゲットの形質を染色して識別。
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好ましい特徴(今回のカンタロープメロンの例でいえば甘み)を作物のDNAにマッピング。その後、世界中にいる同社の育種家60人のうち1人にデータレポートを送付する。レポートを受け取った育種家が実験を進める。
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ウッドランドのメロン育種家ジェフ・ミルズ(Jeff Mills)氏が管理するハウスでは、約1200のメロン苗が育つ。研究所から送られてきた遺伝子検査結果に基づいて他の種と何度も掛け合わせることで、品種改良を行っている。
メロン育種家のジェフ・ミルズ氏
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ミルズ氏によると、新種のメロンは開発から店頭販売までにおよそ7年かかる。こつこつと変化させていくことが大切だという。「完璧なんてものはありませんから」と同氏。
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発売間近となった新しい品種は、厳正な消費者試験にかけられる。モンサントの消費者食味試験主任チョウミン・リー(Chow-Ming Lee)氏は、毎年欧米で100~150人規模の食味試験を何度も実施している。
モンサントのウッドランド・キャンパスにて、取材陣を前に正しい食味試験の方法を披露するチョウミン・リー氏。「唾入れカップ」にツバを吐くとき、口を覆うようにアドバイスしている。
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食味試験トレーの一例。一口サイズにカットされた野菜のサンプル、水、「唾入れカップ」、採点データ送信用のボタン付き機器が用意される。
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食味試験中、リー氏は糖度の高いミニトマトに10点満点中6点が付けられたことに気付いた(6点を付けたのはわたしだ。おいしかったけれど、もう1個食べたいとは思わなかった)。
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6点は微妙な点数に聞こえるかもしれないが、リー氏によるとトマトとしては高評価だという。「チョコレートじゃありませんからね」と彼は言う。
ウッドランドで革新的な取り組みを続けるモンサントだが、批判的な人々は種子業界におけるこの巨大企業の影響力に懸念を抱いている。
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モンサントが品種改良から手を引くと、実質的に絶滅してしまう品種もある。
2000年、種子会社のセミニス(Seminis)が、より小さな規模の同業他社を複数買収し、2000種を超えるハイブリッド品種の生産を終了した。こうした品種の大多数は、独占所有権のあるものだったために消えてしまった。
野菜の種子業界は数社による寡占状態になっている。この状況は、生物多様性を脅かし、小規模育種家を苦しめ、健全な市場競争を妨げかねないとして、批判的な人々から懸念されている。
それでも資本力、人材力、種子ビジネスを掌握することで、モンサントは私たちの食生活を変えていく。
Melia Robinson/Business Insider
[原文:Inside the little-known Monsanto campus where scientists are changing the way you eat]
(翻訳:近松瑛真)