核攻撃の際に政府が移動、イギリスの元秘密地下施設

秘密施設の巨大な電話交換機

MoD / Crown Copyright

2004年12月、イギリス国防省のウェブサイトに短い声明文が投稿された。

「核戦争の際の移転先として準備されたウィルトシャー(Wiltshire)州コルシャム(Corsham)近くの政府の元秘密地下施設は、2004年末をもって機密扱いを解除する」

これにより、40年にわたってイギリス軍が最重要機密としてきた、風光明媚なイギリスの町、コルシャムの地下に横たわる要塞の存在が初めて公式に明らかになった。

1950年代、西側諸国では戦争の脅威が高まり、イギリス内閣府は最悪のシナリオに備えるために、政府の代替施設が必要と判断した。最悪のシナリオとは、全面核戦争だ。

1955年、本格的な作業がスタート。政府の文書では「バンカー(掩蔽壕・えんぺいごう)」と呼ばれることは決してなく、「バーリントン」が数あるコードネームの中で最も定着している。

240エーカー(約1平方キロメートル)の採石場跡に、35エーカーの地下都市が広がっている。そこには、秘密の入口、通路、食堂、政府あるいは、もしかするとロイヤルファミリーとともに首相を迎えるための専用の部屋がある。

施設は4000人の政府職員(家族は含まない)が、熱核戦争あるいはソ連との大規模衝突といった状況下で、90日間生き抜くために必要なものが全て揃っていた。100フィート(約30メートル)の深さの鉄筋コンクリートの壁、寝室とオフィス、有線電話、パン屋、病院、そして生存者とコミュニケーションするためのBBCのスタジオもあった。

Business Insiderは、イギリス国防省から写真を手に入れた。2005年に撮影されたものだ。2004年以降、この施設は機密扱いではなくなったが、その多くはすでに1982年から公に知られていた。ジャーナリストのダンカン・キャンベル(Duncan Campbell)氏がその存在を伝えたからだ。

「バーリントン・バンカー」を見てみよう。

コルシャムトンネルは地下採石場として使われ、バースストーンと呼ばれる石灰岩を産出した。

採石場の付近の地図

Google Maps / Business Insider

採石はローマ時代から行われていたが、1841年から1910年頃の間に「最盛期」を迎えた。イギリスの歴史に名を刻む技術者、イザムバード・キングダム・ブルネル(Isambard Kingdom Brunel)氏が、近くのボックス・トンネル(Box Tunnel)建設を指揮したためだ。トンネルはロンドンからブリストルまで鉄道を延伸するための巨大プロジェクトだった。

近隣のバースにある象徴的な建築物の多くは、ここで採石された石で作られた。

近隣のバースにある象徴的な建築物の多くは、ここから採石された石で作られた。

Wikimedia Commons

第2次世界大戦中は、別の役割を果たした。1940年、航空機生産省が手に入れ、地下の飛行機エンジン工場となった。戦争中に書かれた落書きが、まだ残っている。

地下に残る第2次世界大戦中の落書き。

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1943年、有名アーティストのオルガ・レーマン(Olga Lehmann)が工場の食堂の壁に絵を描くために招待された。

有名アーティストのオルガ・レーマンが食堂の壁に描いた壁画。

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レーマンは8カ月かけて、6つの壁画を完成させた。使用された油絵具は工場から提供された。飛行機の生産にも使用された絵具。

女王エリザベス2世、マーガレット王女、さらに俳優や有名人の写真が工場の壁に飾られた。

女王エリザベス2世、マーガレット王女、俳優や有名人の写真

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新たな世界大戦に備える非常時計画は、1950年代初めに始まった。西側とソ連の間で緊張が高まった頃だ。イギリス政府は核戦争という新たな現実に直面していた。ロンドン大空襲を行ったドイツ空軍よりもはるかに大きな被害をもたらす可能性があった。

1941年のロンドン大空襲。消防士が消火活動にあたる。

1941年のロンドン大空襲。消防士が消火活動にあたる。

National Archives

歴史家ニック・キャットフォード(Nick Catford)氏のバーリントン・バンカーに関する詳細な調査によると、1955年からの非常時計画では、戦争が起こった場合、イギリスには132個の原子爆弾が落とされ、そのうち35発はロンドンに落とされると想定していた。

爆弾により約170万人が死亡、100万人が負傷、国内の家屋の4割と製造業の半数が破壊されると予測した。

1955年、数年におよぶ協議と会議を経て、当時のアンソニー・イーデン(Anthony Eden )首相は建設を正式に承認した。

バーリントン・バンカー付近の地図

Google Maps

この秘密計画は、コードネーム「サブタフュージ(Subterfuge)」と呼ばれることになった。他には、ストックウェル(Stockwell)、バーリントン(Burlington)、ターンスティル(Turnstile)、アイグラス(Eyeglass)などのコードネームが存在した。

おそらく、この施設で最も印象的なものは、巨大な1950年代の電話交換機。世界最大級だろう。建築から数十年、完璧に保存されてきた。

巨大な電話交換機

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現在は、湿気のため放置され「危険に晒されている」歴史的建物として登録されている。

1991年までメンテナンスされていたBBCの放送スタジオ。BBCの地上緊急センターを経由して、首相のメッセージを生存者に伝えることがその役割。

BBCの放送スタジオ

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巨大なトンネルネットワークは、アメリカ式の工程管理システムで計画された。写真は、施設内のノースウェスト・リングロード(北西環状道路)、近くにはパン屋と食堂がある。

地下の道路

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施設には2つの食堂があった。そのうち1つの外側の壁にあったメニューボード。

メニューボード

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歴史家キャットフォード氏によると、1961年までに施設に保管された物資のリストは、その桁違いの規模を物語っている。例えば、キッチンとダイニングの物資には、225脚のテーブル、2320枚のディナー皿、2320客のティーカップ、1152個のタンブラー、11台のティーワゴンが含まれていた。

オーブンのタグはそのまま。使われなかったことが分かる。

オーブン

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食堂に置かれたピカピカのコーヒーマシン。もちろん未使用。

コーヒーマシン

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左側の錆びたエスカレーターは、バンカーの外に人を運ぶためのもの。本来はロンドン地下鉄のホルボーン駅で使われるはずだった。

外へ出るためのエスカレーター

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住人は電動バギーで巨大な施設内を移動するはずだったのだろうか。

電動バギー

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レコードプレーヤーは、バンカーの放送システムの一部。施設の廊下を通して、音楽を流すことができた。

レコードプレーヤー

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電話機は梱包されたまま。何千ものオフィスチェア、電話、寝具、トイレットペーパー、灰皿など、大量の物資が数十年間、保管されていた。

電話機

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写真が現像できる暗室もあった。

暗室

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ここはオフィスになるはずだった。ケーブルが天井から垂れ下がっている。外の世界に電報を送るためにテレタイプライターが設置されるはずだった。

オフィスになるはずだった部屋

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スタッフのベッドルームエリア近くの洗面台。

洗面台

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病院の排水室。

病院の排水室

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イギリス国防省はここを首相専用のバスルームとしている。施設の中で塗装された数少ない部屋の1つ。

首相専用のバスルーム

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だが、このバスルームは、ロイヤルファミリーのために作られたと多くの人が信じている。このエリアは入口が1つしかなく、施設の他の部分とは違って、天井が高く、塗装されている。

ロイヤルファミリーに関する憶測が確定されることはほとんどない。なぜなら、政府文書におけるロイヤルファミリーについての公にしにくい記述は、機密扱いが解かれたとしても、ほぼ修正されるから。

地上と施設を結ぶエレベーター。

エレベーター

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換気システムの内部の巨大なバタフライ弁。ガス攻撃や放射性降下物が発生したときに、外気の循環を遮断するためのもの。

バタフライ弁

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施設は、1991年まで維持された。だが、荒廃しすぎて維持に費用がかかりすぎると見なされた。2004年に閉鎖。

データセンターのサーバー類

アイスランドにあるデータセンターにあるデータストレージ用のサーバー類。2015年8月7日。

Reuters / Sigtryggur Ari

政府はトンネルとその地上部分を民間に売却しようとしている。想定される用途には、巨大なワインセラーや写真のようなデータストレージセンターなどがある。

[原文:25 pictures of Britain's secret underground city — built to protect the government from nuclear attack

(翻訳:conyac、編集:増田隆幸)

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