複数の取材を元にまとめた、日本で人気の中国系アプリ。
図:Business Insider Japanが制作
10代から20代の若者を中心に「中国発」のモバイルアプリが人気を爆発させている。
アプリの分析などをするAppAnnieの調査によると、2018年第1四半期(1月〜3月)の日本のアプリダウンロード数ランキングではバトルロワイヤル系ゲーム「荒野行動」がトップに立った。ゲームを除いたランキングでは、バズ動画アプリ「BuzzVideo」が6位、音楽動画アプリ「Tik Tok」が7位と、ランキング上位には中国系が目立つ。
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4月下旬の渋谷の「アズールレーン」のジャック広告。「艦船が少女に擬人化する」というコンセプトが、DMMが配信するゲーム「艦これ」に似ている。
4月下旬には、中国版「艦隊これくしょん -艦これ-」とも言われるゲームアプリ「アズールレーン」が渋谷駅や新宿駅でジャック広告を出したほか、ライブ配信アプリ「Live.me(ライブミー)」は5月上旬、渋谷に巨大看板広告を打ち出した。
5月16日には「元祖荒野行動」と呼ばれるパソコンゲーム「PUBG」のモバイルアプリ版「PUBG Mobile」が日本に上陸、事前登録の時点で100万人を突破し、Twitterでもトレンド入りを果たした。
これら人気アプリはすべて、中国企業がリリースしている。
「荒野行動ならクラスのみんなでできる」
「荒野行動」のプレイ画面。武器を探し、敵を見つけて倒し、最後のひとりになるまで戦う。
中国系アプリの中でも今もっともアツいのは、バトルロワイヤル系ゲームアプリ「荒野行動」だ。
フィールドにランダムに集められた100人のうち、たった1人の生き残りをかけて争うという内容で、1プレイあたりの時間は20分から30分ほど。
都内でデザイナーとして働くハルナさん(26、仮名)は2018年1月頃、iPhoneのApp Storeのランキング1位だった「荒野行動」に興味を持ち、ダウンロードしてみた。
今までほとんどゲームにハマったことはなかったが「荒野行動」は違った。シンプルなルール、綺麗なグラフィック、ボイスチャットをしながらチーム戦ができるソーシャルな要素があったからだという。
高校1年生のひよこさん(15、仮名)は、中3で初めてスマホを買ってもらった。初めて出合ったゲームが「荒野行動」だった。
「電車で座れた時とかにやっていますね。(20分くらいで終わるという)時間がちょうどいいんです。乗っている時間が50分あったら、ちょうど2回プレイできる」
10代にとっては、“無料のまま最後まで遊べる”という要素も大きい。課金の要素はあるが、バトルに影響しないコスチュームなどが多く、初心者でも十分に楽しめるようになっている。
「お金がかかったりすると、クラスでできない人が出てくる。僕もパソコンを買えない友だちがいて、荒野行動だったらスマホで、みんなでできるじゃんって」
中学のクラスのお別れ会では、みんなでスマホを持ち寄り「荒野行動」を楽しんだ。
「有名ゲームをみんなが使えるようにしてくれる」
10代に中国アプリの魅力を語ってもらった。左端が亀屋聖奈さん、左から3番目がひよこさん、右奥がみやざきさん。
10代に話を聞いてみると、彼らはフォントや日本語の不自然さなどから「中国系」ゲームだと認識はしていて、フラットにゲームの面白さ、手軽さを評価して遊んでいるという。
「中国系アプリは設定が面倒くさくない。気軽に使えて、有名ゲームをみんなが簡単にできるようにしてくれる」という声もあった。
ライブ配信アプリ「Live.me」を使っているという亀屋聖奈さん(18)は、「人が多すぎず、少なすぎずなのがいい。ツイキャスは人が多すぎるし、Twitterと連携されちゃうのが苦手」
一方で、興亡の激しいアプリ界ならではの批判も。
音楽動画アプリ「Tik Tok」はいま、世界でもっともダウンロードされているiPhoneアプリだが、「ユーザーが激増したためにつまらなくなった」と言う人もいる。
みやざきさん(15、仮名)は、こう語る。
「Tik Tokは、2017年の夏、広告もまだなかったころにやっていました。でもユーザーが増えて“イキリスト”(調子に乗ってナルシストな動画をあげる人のこと)の集いみたいになってしまった。今はもうアンインストールしました」
時価総額 3兆円規模の中国アプリ企業も
中国のアプリゲーム企業の海外進出はここ数年で飛躍して伸びている。2017年の中国ゲーム企業の国外3大市場は、アメリカ・日本・台湾だ。
出典:AppAnnie「2017年アプリ市場総括レポート」
中国アプリの日本進出などを手がけるBitStar社で海外事業責任者を務める毛延煕(マオ・マーク)さんは、中国系アプリの日本での躍進の理由として、「(予算が莫大なので)やはり日本市場に対して、ほぼ無制限に広告の予算をつけられるのは大きい」という。
日本は課金をするユーザーが多く、中国のゲーム企業にとって日本はアメリカに次ぐ第2の市場だ。
実際に中国アプリ企業の企業価値を比較してみると、「荒野行動」を運営するNetEase(網易)社のNASDAQ市場における時価総額は約3兆8500億円。また、中国政府の3月下旬の報告によると、「Tik Tok」「BuzzVideo」などを展開するBytedance(今日頭条)社の企業価値は約2兆2000億円だった。
日本のモバイルゲーム大手ミクシィの5月16日時点での時価総額、約2860億円と比較しても“ケタ違い”の規模だ。
一方で、日本進出の戦略は企業によって異なる、と毛さんは語る。
「例えばTencentは中国本土で成功しているので、そこまで日本進出には力を入れていません。一方で、最初から中国市場ではなく、戦略的に海外市場を主軸としている企業もある。(Live.meの)キングソフトや(アズールレーンの)Yostarはそうだと思います」
訴訟、パクリ……中国アプリならではの問題も
実は上記の「荒野行動」には訴訟問題が起きている。「PUBG」の運営を担うPUBG社がNetEase社に対し、著作権侵害の訴えを起こしたのだ。
これに対して「荒野行動」の公式アカウントは「オリジナルの遊び方、設計、風景」など「沢山の要素を組み込んでおります」と発表し、著作権侵害には当たらないと主張している。
荒野行動の公式ツイッターアカウントが公表した訴訟報道に関する説明文。
Twitter上ではPUBGファンたちが「#荒野行動を許すな」というハッシュタグでバッシングをする一方、荒野行動ファンによる「#荒野行動を守ろう」という応援ツイートも多数見られ、ファンの間でも争いが過熱している。
5月16日には「PUBG」モバイルアプリ版が日本でリリースされた。すでにアメリカや中国などでは日本に先駆けてリリースされており、2018年第1四半期(1月〜3月)の世界アプリダウンロード数ランキングでは1位になっている。
日本でもリリースを受けて5月16日、「PUBGモバイル」「#PUBG_MOBILE」がツイッターのトレンド入りを果たした。
「中国系アプリ激動の時代」は、まだまだ続きそうだ。
(文・写真、西山里緒)