カシオ「デジカメ市場の完全撤退」の衝撃、戦犯にされた“カメラ事業 赤字49億円”

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カシオのデジカメ事業撤退を告げるスライド

4月末に流れた観測記事を裏付ける形で、赤字体質であるデジタルカメラ事業からの撤退が明言された。

5月9日、カシオ計算機は、同日開かれた2018年3月期(2017年度)決算説明会の場で、かねてより報道のあった「コンパクトデジタルカメラ市場からの撤退」を正式に発表した。同社は今後、マス市場向けの「カメラ」という形の製品からは一度撤退し、B2B用途やカメラ技術を応用した新ジャンル製品など、「カメラを別の形で活かした新しい製品」(同社・樫尾和宏社長)に事業を切り換えていく。


計画未達の「戦犯」になったデジカメ事業

2017年通期業績

2017年通期では、対前年比で緩やかなマイナスになった。

カシオの2017年通期の決算は、売上高3148億円(対前年比98%)、営業利益296億円(対前年比97%)と、ゆるやかな減少となった。

これは、カシオとしては「不満足な結果」(樫尾和宏社長)だ。経営計画では、通期で売上高3500億円・営業利益340億円を達成する予定で、その目標とは大きな開きがある。創業70周年にあたる2017年から反転攻勢する予定だったが、それがうまくいかなかったのだ。

カシオ計算機の樫尾和宏社長

2018年3月期決算説明会で、デジタルカメラ事業からの撤退を発表した、カシオ計算機の樫尾和宏社長。

西田宗千佳

「強い事業を伸ばし、赤字を2017年度をもってゼロにする。そして、カシオの強みであった新商品を生む出す体制を作るのがやりたかったことだが、それを2017年度中に達成することができなかった」

と樫尾社長は言う。

同社の事業を現在牽引しているのは、「Gショック」などを中心とした時計事業と、学校などを中心に売れている関数電卓「GAKUHAN」の事業。一方で、赤字だったのが、デジタルカメラ・楽器・プロジェクターの3事業だった。計画未達要因のうち、実に3分の2が「赤字3事業」だった。

計画の未達

2017年度が事業計画未達に終わった「理由」として、デジカメ・楽器・プロジェクターの3事業が名指しされた。

そして、営業利益の計画未達の「戦犯」として名指しされたのが、ほかならぬデジタルカメラ事業だった。「既存事業の中で、(構造改革後も)増収増益が見込めない唯一の事業領域がデジタルカメラ」と樫尾社長は言う。

というのも、2017年通期での赤字額が49億円にふくらんだ上、2018年1月から3月の期だけでも赤字は27億円。拡大傾向が止まらないのだ。

撤退領域は、実に「マス商品としてのデジタルカメラ」全体だ。同社には、いわゆる「コンパクトデジカメ」事業と、自撮りやアウトドアなどの特定用途に特化した、「独自性の高いカメラ」の事業がある。しかし、今回の事業判断により、すべての「完成品としてのカシオブランドのデジタルカメラ」ビジネスから撤退する。

今度は「復活」せず……スマホの波に沈んだカシオのデジカメ事業

QV-10

元祖デジカメといわれる「QV-10」。世界初の液晶モニター付き、1995年発売時の価格は6万5000円。解像度は320×240ドットだった。

カシオ計算機

今日の「デジタルカメラ」という製品の元になったのは、カシオが1994年11月に発表した「QV-10」と言われる。

その後同社のカメラ事業は、1999年・2000年前後に一度業績を落としたものの、2002年に薄型・軽量の「EXILIM」を発表、小型路線でシェアを伸ばした。

2010年以降は、特に中国の「自撮り」を楽しむ女性市場に向け、回転フレームを使った「EXILIM TRシリーズ」を発表、スマッシュヒットした。2015年にはTRシリーズおよび「FRシリーズ」が中国でヒットしたことにより、業績を上方修正したこともある。中国市場では、TRシリーズを専門に売る「TRショップ」を展開した時期すらあった。

EXILIM

2002年に発売した、薄型デジカメEXILIM「EX-S1」。重量約85g、当時の実売価格は3万円台前半。

カシオ計算機

だが、そんなカシオのカメラ事業も、一昨年から急速に業績悪化した。2016年度には5億円、2017年度は49億円と赤字幅が拡大し、回復に至れない、との判断が下された。

理由は、想像のとおり「スマホ」だ。

「2007年のピーク時には世界で1億台あった市場が、2、3年前には1300万台まで減った。コンデジだけをやっているメーカーで、収益をあげているメーカーは1社もないのではないか」(樫尾社長)

スマホの性能が上がり、自撮りにおいても、カシオの強みは活かせなくなった。結果、TRシリーズの売上も厳しい状態だ。2017年度、カシオのデジカメ販売台数は55万台まで落ち込んでおり、その半分が、利益が厳しいコンパクトデジカメだったという。

TR100

独創的なフレームデザインの「EX-TR100」。2011年7月発売、実売価格は3万5000円前後だった。

カシオ計算機

カシオは、撮像素子などの技術を持っていない。他社との差別化は、カメラとしての商品企画力や、撮像素子を「カメラモジュール」へと作り上げる技術で行なっていた。デジカメという製品の形が出来上がる過程の、アイデアと試行錯誤が重要な時代には、「カシオらしい発想」が商品の価値に大きく影響した。

しかし、現在のデジカメ市場は、撮像素子やレンズを持つ会社が「高画質」「高付加価値」で差別化し、高価格製品とブランド価値で戦う時代になっている。一眼レフやミラーレスといった製品群を持たないカシオにとって、きわめて戦いづらい市場だ。

そして、スマートフォンのカメラのように、ソフトウエアとサービスで商品性が変わるものは、スマートフォン自体を手がけていないカシオにとって、同様に厳しい競争相手になった。

カシオは回復の見込みが乏しい「コンシューマー向けのデジカメ事業」を切り、2018年度から反転成長を目指す。なお、同社のデジカメのほとんどは社外に生産を委託しており、製造設備などの減損は基本的にない。

時計事業は3年後に規模を「倍」にする強気路線

時計事業

時計事業はスマートウォッチも含め、3年で事業規模を倍に伸ばす強気の計画。

カシオ計算機

今後カシオは、時計・教育などの強い事業をさらに伸ばし、新規事業を開拓する。

時計については、「他社にない差別化要因がある。アナログ時計にBluetoothを搭載したモデルは、他社にない強いエンジンであり、もっと伸びる。Apple Watchで需要が顕在化したスマートウォッチも、時計メーカーであり(過去には)スマホも作っていたコンピュータメーカーである強みがある」(樫尾社長)として、3年後に事業規模を倍増させる計画だ。

教育向けには、中学・高校向けに出荷している関数電卓事業が堅調だ。「国内市場100万台のうち、60万台が中高生向け。毎年確実に売れていく強いビジネスモデル」だと樫尾社長は言う。今後、アメリカや中国市場などの開拓を進め、より強固なものにする構えだ。

新規事業としては、立体的な盛り上がりのある物体を「印刷」する、「2.5次元プリンター」などの展開を進め、新奇性の高い製品を開発する土壌の強化を図っている。

カシオの「デジカメ」は消えるのか?

では、デジカメはこのまま消えてしまうのだろうか? 樫尾社長は次のように話す。

「QV-10以降、弊社は新しいデジカメを提案してきた自負はある。今後、マス向けのコンデジは止めるが、画像認識などを活かした新ジャンルのカメラは生み出していく、と約束させていただきたい。TRも、その中身が中国のスマホ向けに生まれ変わって使われている。完成品に集中するのではなく、カメラ性能を違うジャンルの製品に活かし、みなさんに本当に使われる形にしていきたい。優れたモジュールであれば、それがスマートフォン用のカメラとして他社に使われてもいい」

カシオのカメラ技術は、まずB2Bにシフトする。そして結果的に「カメラ技術は使っているが、カメラではない機器」を生み出せる時、またコンシューマー市場に帰ってくることになる、ということだ。

(文・西田宗千佳)


西田宗千佳: フリージャーナリスト。得意ジャンルはパソコン・デジタルAV・家電、ネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主な著書に『ポケモンGOは終わらない』『ソニー復興の劇薬』『ネットフリックスの時代』『iPad VS. キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏』など 。

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