「学院ベンチャーズの会」早稲田高等学院が起業家を産むのは、あまりに自由な3年間があったからだ

毎年12月、大和証券グループ社長やGMOインターネット副社長、リブセンス社長ら、大企業から若手ベンチャーまで、日本を代表する企業の経営者が一同に集い、語り合う飲み会がある。通称、「学院ベンチャーズの会」。共通するのは早稲田大学の付属校、早稲田大学高等学院(以下、学院)の卒業生である点だ。聞けば、2年前から毎年集まっているという。

全員口を揃えて「学院生活は楽しかった」と語る。何がそこまで魅力的なのか。Business Insider Japanでは、会のメンバーに集まってもらって座談会を開催。多忙を極める経営者らが母校愛のために集結した。

学院ベンチャーズの会

左から、サイバーセキュリティクラウド代表取締役の大野さん、元レノボ・ジャパン社長で7月1日付で資生堂チーフストラテジーオフィサーに就任する留目さん、大和証券グループ社長の中田さん、GMOインターネット副社長の安田さん、リブセンス社長の村上さん、ココン代表取締役の倉富さん。

・中田誠司(なかた・せいじ):大和証券グループ本社執行役社長。1960年生まれ。1983年早稲田政治経済学部を卒業後、大和證券入社。執行役企画副担当兼人事副担当兼経営企画部長、専務執行役などを経て、2016年、代表執行役副社長、2017年4月大和証券グループ本社取締役兼代表執行役社長、最高経営責任者(CEO)、大和証券社長に就任。

・安田昌史(やすだ・まさし):GMOインターネット副社長。1971年生まれ。1994年早稲田大学法学部卒業後、公認会計士試験に合格し、KPMGセンチュリー監査法人(現・有限責任あずさ監査法人)へ。2000年にGMOインターネットに入社。経営戦略室長、専務などを歴任し、2015年3月から現職。

・留目真伸(とどめ・まさのぶ):HIZZLE(ヒズル)代表取締役、2018年7月に資生堂チーフストラテジーオフィサー(CSO)に就任。1971年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、総合商社トーメンに入社。戦略コンサルティングのモニター・グループ、デル、ファーストリテイリングを経て、2006年よりレノボ・ジャパン。2015年、レノボ・ジャパン社長兼NECパーソナルコンピュータ社長に就任。2018年5月経営者育成とプロジェクト組成を行うHIZZLEを創業。

・村上太一(むらかみ・たいち):リブセンス社長。1986年東京都生まれ。2005年早稲田大学政治経済学部入学。2006年大学1年時にリブセンス創業。2011年12月に東証マザーズ、2012年10月に東証一部へ史上最年少の25歳で上場。現在、人材領域・不動産領域においてWebサービスを展開。

・大野暉(おおの・ひかる):サイバーセキュリティクラウド代表取締役。 1990年生まれ。早稲田大学商学部卒業。18歳時にユニフェクト創業、大企業の廃棄物管理の最適化サービスをクラウド型システムで提供する事業を展開。事業譲渡の後、現職。サイバーセキュリティクラウド は導入社数・導入サイト数No.1の実績を誇るクラウド型WAF「攻撃遮断くん」をサービス展開。

・倉富佑也(くらとみ・ゆうや):ココン代表取締役。1992年神奈川県生まれ。2011年に早稲田大学高等学院を卒業、早稲田大学政治経済学部入学。在学中の2013年にココンを創業、代表取締役に就任。サイバーセキュリティ領域において、AIを活用したセキュリティ診断の他、先進的なセキュリティ技術に関する研究を推進。

Business Insider Japan(以下、BI):学院はとても自由な校風だと聞きますが、どのような生活を送られていたんですか?

中田誠司(以下、中田):最初は東大を目指して部活にも入っていなかったんですが、学院の自由な校風に負けて、麻雀やバンドでドラムボーカルをしたりして青春を謳歌していました。

中田誠司

1971年学院卒業生の中田さん。現在は大和証券グループ本社代表執行役社長。

留目真伸(以下、留目):安田さんとは同じ学年で隣のクラスだったんです。部活はテニス部だったんですが、すごくブラックな部活で、朝や授業の合間にもコートの整備をしてました。70人ぐらい入部するけど最後には十数人ぐらいしか残らないんです。

安田昌史(以下、安田):兄も学院だったので、自由を求めて学院に入ったんですが、あまりにも自由で、大学生活を3年間前倒ししたような感じでした。留目さんはハードな部活を頑張っていましたが、私は男女の友達作りに励んでいました。

村上太一(以下、村上):私もテニス部で、部活のために毎朝6時30分に学校に行ってました。他に文化祭の委員もやっていて、組織をまとめたり仲間で何かを作り上げる経験は起業にも生きていると思います。図書館で生徒が本を購入し放題だったのでいろんな本を買ってもらって、授業中に簿記の勉強をしたり、起業に向けて準備をしたりしていました。

大野暉(以下、大野):学内の活動は英語ディベート部と天文学の勉強ぐらいしかやっていなくて、放課後は渋谷とかで遊んでいました。あとは高校生の時からビジネスをやっていたので、夜になったらシェアオフィスでずっと仕事をしていました。

倉富佑也(以下、倉富):最初の2年間は空手部で部活中心の生活を送っていましたが、3年からは生徒会長に相当する、中央幹事長をしていました。幹事会では、予算が1000万円ほどあり、自由に生徒会活動ができる環境でした。もともと自分で事業をやりたいと思っていたので、3年の後半からは、自主的にゲーム会社でインターンをして授業中に企画書を作ったりもしていました。

「自分が好きなことをしていいんだ」

早稲田学院

東京都練馬区にある私立男子校、早稲田大学高等学院。2010年には中学部が新設された。

撮影:室橋祐貴

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BI:他の高校だと3年になると受験勉強一色になりますが、学院はそのまま早稲田大学に進学できます。大学受験を心配しないで良いというのは大きいですか?

留目:大学受験がないだけじゃなくて、学校の先生も含めて、学院の雰囲気が大学っぽいんですよね。

中田:校歌も早稲田大学と同じで、早慶戦の時は学校が休みになる。

留目真伸

1990年学院卒業生の留目さん。レノボ・ジャパン社長を退任後、HIZZLEを創業、資生堂のCSOに転身した。

BI:15歳ぐらいから大学みたいに自由だと戸惑いませんか?

村上:何をやれば良いのかわからないので、自分で考えて動くタイプと何もしないタイプに分かれます。ずっと遊んでる人もいたり。

BI:中田さん世代(50代)から倉富さん(20代)世代まで校風が変わっていないのがすごいですね。

中田:成績表の付け方も変わっていない。体育祭や文化祭も自由参加で、当時の先生は「学院が一番自由だ」と豪語していました。

留目:先生も自由で、教えたいことしか教えない。大学みたいに休講も多い。けど、「自分が好きなことをして良いんだ」と思えたのは良かったです。

興味が広がりやすい環境

BI:村上さんや大野さんは高校時代に既に起業を意識していたそうですが、いつぐらいに自分がやりたいことに気付いたんですか?

村上太一

2005年学院卒業生の村上さん。リブセンス社長。史上最年少の25歳で上場した。

村上:大きな会社に就職すれば確かに大きなことはできるんですが、最前線に行くまでに時間がかかる。インターネットが普及して低コストで起業できる時代になっていたので、自分で挑戦しよう、と。大学1年の時に、高校で同じクラスだった人と一緒に起業しました。

大野:最初は授業料を稼がないといけないという事情から。最初は稼ぐ方に注力していたんですが、高校2年ぐらいの時から何が社会的な価値になるか考え始めました。当時電通や博報堂と仕事をしている中で、自分が提案した内容で商品が売れた経験があって、クリエーティビティや若者らしい発想を生かしたいと思い始めました。

倉富:高校入学の頃から自分で事業を作りたいと思い始めていました。高校1年の時にSCP(スチューデント・カンパニー・プログラム)という学院のプログラムに参加して、擬似的に設立した会社でフリーペーパーを作って、企業から広告収益を得る経験をしたり。高校3年の時には、5つ上の先輩にあたる、村上さんが上場されてとても刺激を受けました

大野暉

2009年学院卒業生の大野さん。サイバーセキュリティクラウド代表取締役。

BI:大人になるのが早いですよね。自由な環境が大人にさせるんですかね。

大野:触れる情報が他の高校とは違う気がします。先ほど村上さんが本を購入できるという話をしていましたが、他の高校には置いていないような難しい本やビジネス系の本が置いてある。

生徒にもオタク気質な人、ゲームやスポーツ、研究分野など何かを追求している人が多い。そういう友人と話していると興味が広がる。人や学校に興味が広がりやすい素地が整っていると思います。

生徒を信用して放置すると何か始める

BI:今多くの学校がキャリア教育を行い、生徒に“好きなこと”を見つけてもらおうとしている。学院ではそういうことはやらないんですか?

中田:逆に放ったらかした方が何か考える。もちろん全員が全員そうなるわけではないが、自分で考えるようになる人が多い。

留目:(先生が)好きなことをしている姿を見せた方が、じゃあ自分も、とやりたくなる。高校生ですが、生徒を大人扱いしているように感じます。先生も上から目線で接してこない。

BI:大人が信用して放り出すのが大事。

中田:「好きなことを見つけなさい」と言うと、指示になるから、見つからないと焦る。逆に、「君たち何もしなくて良いですよ」と言うと、何か始める。

倉富佑也

2011年学院卒業生の倉富さん。ココン代表取締役。

BI:先生は授業以外ではあまり接点がないんですか?

村上:先生は授業の時間に学校にいれば良いので、朝はいない時もある。担任の先生はいますが、ホームルームはない。大学の教員と兼務している先生もいるので授業が終わったらすぐ帰ったりする

BI:先に大人になると「社会はこういうもんだ」と冷めた目で見るようになる可能性もあると思うんですが……。

中田:逆に日本の普通の高校教育だと、世界の同年代に比べると、大人になっていない。そういう意味では良いことだと思っています。ただ、全員が全員そういう教育が合っているわけではない。私の友人でやりたいことが見つからず、留年して大学をすぐに辞めた人もいる。功罪両方ありますが、トータルとしては良いことかなと思います。

安田:自由な校風というと緩く聞こえるかもしれませんが、意外と進級基準は厳しくて、留年する生徒もいます。試験の前はすごい必死で勉強している。

倉富:学部も定員が決まっているので、普段遊んでるような、髪を紫色に染めている生徒も試験前は図書館で集中して勉強していますね。

安田:入るまではそこそこ勉強できる人たちの集まりなんだけど、自由な環境に入ることですごい才能に目覚めていく。そこでまた刺激を受ける。私はこれまでの人生でもっとも学院の友人に刺激を受けたと思う。あとはやっぱり自主性。あそこまで放置されたら自分で考えざるを得ない。保護者の方は放置されると心配かもしれませんが、今思うと放置されていて良かったと思う。あれがあったからこそ自主性が育まれた。

多様な選択肢がある時代だからこそ

安田昌史

1990年学院卒業生の安田さん。GMOインターネット副社長。

BI:お話を伺っていると、学院ではこれから必要とされる教育を先取りしていたのだと思えます。

留目:今後一つの価値基準にとらわれない社会になっていく。多様な選択肢が出てくる、そういう時代にこうした自由な教育は合っていると思う。すぐに陳腐化する知識ではなく、自分で考えていく力が身につけられる。

倉富:学院には一般入試と自己推薦入試があって、3分の1程度が小論文と面談で入学してくる。そういう仕組みがあることによって、生徒にも多様性が生まれています。一般入試の内容も、暗記で対応できるものではなく、思考力が求められるものが多い。

大野:自分も自己推薦で入ったんですが、面接でずっと英語で話し掛けられたり、その場の対応力を見られたりします。学院には本当に多様な生徒が多く、まさに“みんな違って、みんな良い”雰囲気になっています。学校側で何か当てはめるのではなく、自然発生的なケミストリー(化学現象)が起こるのを待っている。そういう許容できる力が大事だと思います。

倉富:大学入学後に上海で実業を経験しましたが、そのきっかけとなったのは学院で聞いた講演会です。これから必要な教育という観点では、さまざまな価値観や人生の選択肢について知る機会を提供し、生徒の可能性を広げていってほしいと思います。

私は村上さんが上場された時にとても刺激を受けました。今、ちょうどその頃の村上さんと同じ年齢になり、私も後輩に対して良い刺激を与えられるよう頑張りたいですね。

(聞き手・浜田敬子、構成・室橋祐貴、写真・今村拓馬)

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