VR防災技術はここまで来た——仮想現実で災害のリアルを体験する「防災訓練2.0」

津波被災地

津波にのみ込まれた岩手県宮古市の悲惨な光景(2011年4月)。悲劇を繰り返さないために、より実践的な避難訓練が求められている。

Reuters

震度6弱の揺れを体験したことのある人は、日本が災害大国と言えどもそう多くはいないのではないか。気象庁が公開している「震度とゆれの状況」によると、「立っていることが困難になる」震度とされている。

記者は新潟県中越地震(2004年)、東日本大震災(2011年)の取材中に震度6弱を2度体験しているが、いずれも気象庁が示す通り1秒たりとも立っていられず、床に手をつき揺れが収まるのを待つばかりだった。ちなみに、当時一緒にいた東京ガスの緊急支援要員(屈強な男性たちばかりだ)約40人も、一斉になぎ倒された。その驚くべき光景は、恐怖とともに深く記憶に刻まれている。

非常事態に面したとき、人はアタマもカラダもなかなか思い通りに動かせないものだ。津波や火事のように、物理的に危険が身に迫る状況ならなおさらだ。

東京消防庁はVRに「1億3000万円」投資した

阪神淡路、東日本など数多くの犠牲者を出した大震災を経て、学校や企業、施設などでの防災訓練がより積極的に行われるようになった。日頃の備えや避難訓練をより有効なものにするための努力だけでなく、近年はテクノロジー活用への期待が高まっている。

東京消防庁は2018年度から「仮想現実(VR)防災体験車」を導入。VRヘッドセット(ゴーグル型端末)をつけて、車両の荷台部分に設置されたシートに座ると、揺れたり、臭いや熱気が出てきて、災害現場をリアルに体験できる仕組みだ。同時に最大8人まで体験できる。

東京消防庁の防災体験車

東京消防庁が約1億3000万円を投じたVR防災体験車

東京消防庁HPより

大まかに言えば、映画館で近年採用されている体感型(4D)上映システムとVRヘッドセットを組み合わせた移動車で、1億3000万円が投じられた。東京消防庁が保有する起震車(地震を体験できる)の価格が4000万円前後とされているので、今回はかなり思い切った投資と言える。しかし、それほどに世間で防災へのニーズが高まっていることも間違いない。

仮想現実の世界で歩き、しゃがみ、跳ねる

前置きが長くなったが、本題はここから。レノボ・ジャパンが先頃発表した最新のVRヘッドセット「ミラージュ・ソロ」を活用した「体験型VR訓練ソリューション 避難体験VR」が、5月8日に理経(東京都新宿区)から発売された。ハードウエアとコンテンツのパッケージで70万円程度

VR避難訓練_1

「ミラージュ・ソロ」を装着し、「避難訓練VR」を体験中の記者。

撮影:小林優多郎

ミラージュ・ソロのおかげで、PCとケーブル接続したりスマホを装着したりすることなく、ゴーグルだけでVRを体験できる。また、グーグルが開発したVR技術「ワールドセンス」を採用したことで、これまでは頭を動かして上下左右を見ることしかできなかったのに対し、ユーザーが前後左右に移動しても映像が追従するようになり、ジャンプしたりしゃがんだり、覗き込んだりといった動きが可能となった。

こうした機能を活用した防災VRコンテンツが製品化されるのは日本で初めてだ。

臭いや熱気がなくても十分リアル

VR避難訓練_2

何もない空間でゴーグルを付けたまま跳ねたりしゃがんだりする光景は多少滑稽だが。

撮影:小林優多郎

この避難体験VR、東京消防庁の着席式VRとは臨場感の方向性がだいぶ異なる。

緑色に光る避難誘導灯を頼りに、自分で避難経路を判断しながら避難口を目指すのだが、障害物を回り込んで避けたり、煙の濃い場所では低い姿勢で移動したり、映像の世界と身体の感覚が一致する体験は、深く記憶に残る。

記者も実際に使ってみたが、火元から煙が出て視界が失われていく中をしゃがんで歩いていくのは、臭いや熱気が感じられなくても十分リアルで、緊張感を伴うものだった。

今回発売されたコンテンツはビル火災からの避難を想定した内容だが、かなり柔軟なカスタマイズが可能だという。理経新規事業推進室の石川大樹氏は「建物内部のレイアウトを特定のオフィスや施設と同じに変えるとか、避難の(ルートなど)選択肢を追加するなどのカスタマイズはさほど難しくありません」という。

ゼロからVRコンテンツを作ると、内容や規模にもよるが、500〜1000万円程度の製作費が必要。レイアウト変更や選択肢追加などのカスタマイズであれば、100〜300万円ほどでできるという。

エリア規模の津波避難訓練も可能になる

また、東日本大震災の被災地や、南海トラフ地震や東海地震の発生で津波被害が想定されるエリアでは、津波を想定した避難訓練が浸透しつつあるが、そうしたシーンをよりリアルに体験できるカスタマイズも可能だという。

「(津波来襲シミュレーションのデータ取得など)製作費は当然増えますが、ある街の浸水が想定されるエリアから安全エリアまで津波を逃れて避難するコンテンツも作れます」(石川氏)

VRコントローラー

「ミラージュ・ソロ」付属のコントローラーで、実際に歩いた距離より遠くまで(VR世界の中を)移動できる。

撮影:小林優多郎

ワイヤレスとは言え、ヘッドセットを装着したままどこまでも歩いて行けるわけではない(壁や柱など現実の障害物に衝突する)。しかし、付属のコントローラーを操作することで距離をスキップし、広いエリアでの避難訓練も体験することができる。

コンテンツをカスタマイズした場合でも、VR防災体験車に比べたらかなり現実味のあるコストで、より実践的な避難訓練を検討している自治体や企業にとって、有効な選択肢の1つになるのではないか。

(文・川村力、写真・小林優多郎)

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