【佐藤優徹底解説:激動する北朝鮮問題】安倍外交はなぜ負けたのか

佐藤解説

北朝鮮情勢が急展開を見せている。4月の南北首脳会談に始まり、北朝鮮が拘束していた3人のアメリカ人の解放。そして6月12日にはトランプ大統領と金正恩朝鮮労働党委員長の会談がシンガポールで開かれることも明らかになった。

なぜ金正恩氏は突然対話路線に転じたのか。「非核化」はどこまで現実的なのか。トランプ大統領の真の狙いは……。作家で元外務省主席分析官の佐藤優氏に徹底解説してもらう。1回目は、一連の北朝鮮問題の中で、全く存在感のない日本外交について。

「対話と妥協の中韓」に押し込まれた日本

安倍晋三

REUTERS/Toru Hanai

浜田敬子BIJ統括編集長(以下、浜田): 5月8日に開かれた日中韓首脳会談ですが、佐藤さんはどうご覧になりましたか?

佐藤優さん(以下、佐藤):日本と中韓の温度差がはっきりしました。今回の議長は安倍晋三首相が務めたのですが、日本は十分なイニシアティブを発揮することができませんでした。

安倍首相は、発言の多くを北朝鮮問題に割いた。「現在生まれている朝鮮半島の完全な非核化と北東アジアの平和安定に向けた機運を国際社会と一層協力し、北朝鮮の具体的な行動につなげていかなくてはならない」と強調。3首脳が国連安全保障理事会の制裁決議の完全な履行で一致したと説明した。
ただ、これまで繰り返していた「完全かつ検証可能で不可逆的な核廃棄」との表現は使わず、南北首脳会談で署名された板門店宣言の「完全な非核化」との表現に合わせた。(5月9日「朝日新聞デジタル」

対北朝鮮政策について「対話と妥協」を追求する中国と韓国によって、「圧力と制裁」を強調する日本が、押し込まれたというのが実態と思います。今回の日中韓首脳会談で日本の外交力低下が可視化されました。

読売新聞と朝日新聞

日中韓首脳会談の前日には、朝日新聞に中国の李克強首相の寄稿が、読売新聞には韓国の文在寅大統領の書面インタビューの記事が掲載された。

浜田:日中韓会談前日の朝日新聞には李克強中国首相の寄稿が、一方、読売新聞には文在寅韓国大統領の書面インタビューが掲載されました。

佐藤:日本のメディアを通じて海外の首脳が非常に強力なシグナルを出したということは非常に珍しいことです。このようにメディアを使うのは首脳間の信頼レベルが低い時ですね。

浜田:安倍政権の信頼レベルが下がっているということなのか、外交ルートが機能していないということなんでしょうか?

佐藤:十分に機能していないと思います。今の北朝鮮を巡っては中国と韓国は「メジャーリーグ」、日本は「マイナーリーグ」です。つまり日中韓首脳会談は事実上、中韓首脳会談です。2(中韓)プラス1(日)。日本は対等の立場ではない。中韓は、安倍さんが言うことをテークノートするだけで実質的なことは何も決まらなかったのでしょう。

浜田:朝日、読売を通じて、中国も韓国もそれぞれ日韓、日中の関係改善についても言及してましたが、日中韓の会談を終えても、何ら前進はないようでした。

佐藤:韓国の慰安婦問題、中国の尖閣問題をそれぞれが譲歩できると思いますか。個別イシューで見れば、中国、韓国とも譲歩できるものは何一つない。こういう時に使われやすいのが文化です。「文化交流を強化」するという言葉が出てきたら、政治経済では何もできないということです。

日本にとっての脅威は黙認される

日中韓首脳会談

日中韓首脳会談で、3首脳の合意事項をまとめた共同宣言の発表は深夜にずれ込んだ。

REUTERS/Toru Hanai

浜田:一連の北朝鮮の交渉を見ていると、日本が外交面で蚊帳の外に置かれています。佐藤さんはどう見ていますか?

佐藤:北朝鮮の核開発問題を解決するための枠組みはこれまで6者協議でした。それが、米、朝、韓の3者協議、もしくは中を加えた4者協議と言われ始めた。日本とロシアが外された。

ただ、現時点で北朝鮮はモスクワまではミサイルを飛ばせない。だから、枠組みから外されても問題ない。一方、日本は全域が北朝鮮のミサイルの射程圏内。もし北朝鮮が核の小型化に成功したら、全域が核ミサイルの脅威に覆われる。つまり、これは結果としての「日本外し」です。日本の国際的な影響力は低下するでしょう。

浜田:近く予定される米朝首脳会談で、さらに「日本外し」は進むでしょうか?

佐藤:北朝鮮は段階的に核廃絶を行い、ICBMも発射しない、既存の核以上は作らないし、それを検証可能にする、と金正恩(朝鮮労働党委員長)が表明し、それをトランプ(大統領)が支持したとする。そうすれば、ミサイル技術は進まないので北米大陸は核の脅威にさらされることはない。でも日本がミサイルの脅威にさらされる状況は変わりません。事実上黙認されるということ。これは日本にとってかなり厳しい状況です。

見誤ったトランプの性格と文政権の外交力

浜田:日本外交はなぜここまで厳しい状況に追い込まれたんでしょうか。

佐藤優氏

佐藤一つ目はトランプ氏の性格を見誤ったこと。彼には外交戦略がない。その場その場で自分の短期的生き残りや局地的な利益の極大化しか考えていない。こういう人間と同盟や戦略的な提携はできない。日本は、どんな人が大統領になっても日米同盟は盤石で、しかも大統領は合理性によって動くはずと考えていた。

例えばトランプ氏にとって自動車産業を復活させることは重要ですよね。アメリカの鉄鋼業では自動車用の薄い鉄板が作れないから、日本から輸入している。それに関税をかければアメリカの自動車産業にとってコストアップになる。でも、トランプ氏は輸入制限をかけると発表し、関税がかかることになっている。トランプ氏は貿易が赤字か黒字かしか見ていない。これが彼の考え方なんです。

二つ目は、文在寅政権の外交能力の過小評価。インテリジェンスというのは通常はGDPに比例するんですが、分断国家である韓国もGDPに比べてはるかにしのぐ外交力を持っているんです。そこを理解していなかった。

ここまできたら、日本は慌てない方がいい。慌てて日朝首脳会談をやろうとすると、安倍さんは国際協調の名のもと“白紙の小切手”を金正恩氏に渡すことになる。それより米朝首脳会談の推移をじっくりウオッチし、枠組みが固まった後で、北朝鮮が必要としている経済協力の応分負担をすればいいんです。

自ら欲するように世界を理解する反知性主義

浜田:安倍政権の外交力をどう評価していらっしゃいますか。

佐藤:ひどいですね。通常、首脳会談で合意する場合は事務方で基本事項をまとめますが、今回の米朝首脳会議ではそういうものはない。だから、トランプ氏はきっと誰かに相談するはず、日本は「関係が盤石だから、北朝鮮情勢に関しては安倍首相に相談してくれる」と確信していた。

でも、トランプ氏は習近平氏に相談し、日本だけが取り残された。TPPやFTAでもこけにされた。オウンゴールの連続なんです。こんなことが5回も6回も続くと、正解がわかっているのに、あえて逆を選んでいるとしか思えない。

佐藤優氏

なぜこうなったのかというと、安倍政権が「反知性主義」だからです。政権を支えるエリートも含めて実証性、客観性を軽視、もしくは無視して自らが欲するように世界を理解している。でも外交にも国内政治にも相手がある。事実を確認し、認識、評価するという三段階が必要です。これらがごちゃごちゃになっているんです。これはアメリカも同様です。

一方、これを冷静に見極めているのが、今の北朝鮮、韓国です。今回、「豚もおだてりゃ木に登る」という形で、韓国がトランプ政権を「あなたの強硬な姿勢が効いて、北が初めて動き出した」と徹底的におだてた。あらかじめ、北には「トランプにそう伝えるから怒らないでね。そうじゃないと動かないぜ、あのおっさん」と話し合っていたんでしょう。

外務官僚は「第2の佐川」を恐れている

浜田:日本は拉致問題という要素もあります。どうしたら解決できますか。

佐藤解決のためには対話と妥協が必要です。もし僕が日本の外務省にいるなら、拉致問題の国際化を図ります。6者協議の中で日本がイニシアティブを取って、板門店の南北双方にまたがって建つ、軍事停戦委員会本会議場で首脳会談を提案する。ロシアは外されたくないから積極的に乗ってくる、金正恩氏も習近平氏とプーチン氏が助けてくれるから乗ってくるでしょう。

浜田:それをなぜ今の外務省はやらないんでしょう。

外務省

北朝鮮問題では、存在感を発揮できていない外務省。

佐藤:外務官僚がみんな第二の佐川(宣寿・財務省前理財局長)になりたくないからですよ。あれだけ協力して、こんなに晒し者にされるなら、「バカだからできません」と俯いていたほうが、官僚の生き残り方としては正解でしょう。

浜田:日本外交の軌道修正をするために何が必要ですか。

佐藤:政官関係を立て直すことと、外務省の局長級に能力のある人が就くことですね。実際、2003年頃は北朝鮮の拉致問題を巡る6者協議の交渉などで日本がもっと指導的立場を発揮していましたから。

安倍政権の北朝鮮外交に関する失態は、それだけで内閣の存亡にかかわる危機的状況です。が、位相の違うことながら、まずは森友問題での昭恵夫人、佐川さん、それに続く文書改ざん問題、福田さん(淳一財務省前事務次官)のセクハラ問題、さらに言えば、山口達也さんの強制わいせつ事件などもあり、全部覆い隠されてしまった。むしろそのことこそ、危険なことだと思います。

(構成・宮本由貴子、写真・今村拓馬)


佐藤 優(さとう・まさる):作家、元外務省主任分析官。1960年東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了。85年外務省入省。在ロシア連邦日本国大使館勤務など、対ロシア外交の最前線で情報収集・分析のエキスパートとして活躍。主な著書に『国家の罠–外務省のラスプーチンと呼ばれて』(毎日出版文化賞特別賞)『自壊する帝国』(新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞)など。最新刊は『十五の夏』。

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