男女候補者均等法成立でも女性議員に2期目の壁:約3割が立候補できない理由

2017年7月の都議選からもうすぐ1年。地方の女性議員の比率が平均12.6%にとどまる中、小池百合子東京都知事率いる都民ファーストの会の躍進で、都議会では3割を女性議員が占めるまでになった。

しかし女性たちからは、3年後の「2期目」に向けて早くも不安の声が上がっている。

小池百合子

都民ファの圧勝で終わった都議選。しかし“ベンチャー政党”の女性議員たちは葛藤も抱えている。

撮影:今村拓馬

女性3割だと「子連れ」もタブーじゃない

都議会、都民ファーストの会ともに女性議員は約3割で、子育て中の議員も多い。都議会では全国2例目となる「家族の看護や介護」を理由に本会議を欠席できる会議規則改正案が全会一致で可決され、都民ファは議員らの要求で、幼稚園が休みの日などに都議会の控え室に子どもを連れて来ることや、赤ちゃん同席で議員や都庁職員との打ち合わせもできるようになった。週末には選挙区で開かれる地域のイベントに子どもを連れて参加する議員もいる。

上智大学法学部の三浦まり教授が著書『日本の女性議員どうすれば増えるのか』の中で、「固定的な『女性』イメージから解放され、自分たちの望むような成果を上げるためには、女性政治家がクリティカル・マスといわれる一定以上の比率を占めるようにならないと難しいが、それがだいたい3割程度」と述べているように、その数の効果はすでにさまざまな場面で出てきているようだ。

都民ファーストの会に所属する東京都議会議員の森澤恭子さん(39)は、小学1年生の娘(7)と幼稚園の息子(4)を育てるママ議員だ。日本テレビ記者や企業広報などを経て、子育て世代の声を都政にいかしたいと都議会議員に立候補した。

実際にママたちからヒアリングした内容をもとに議会の質問をつくり、その結果をフィードバックしている。待機児童問題対策も急務だが、在宅で保育をしたい母親への支援も必要だ。フルタイムで仕事復帰しなければ認可保育園に入りづらい現状では、ゆるく働きたい母親の希望は叶わない。女性活躍がうたわれる中で疲弊したママたちのリアルな声を届けることが、自身の役割だと思っている。

支持基盤固めか、ママたちのリアルな声か

森澤恭子

都民ファの森澤恭子さん。「ロールモデルがいないというのは女性管理職にも共通する問題」と話す。

撮影:竹下郁子

しかし今、あるジレンマを抱えている。

忙しくなるほどママたちとの接点が少なくなりがちです。平日の夜は会合、週末は地域の行事に参加しているのですが、そういう場にはまだまだ高齢の男性が多くて……。もちろん勉強になりますし、次の選挙に向けて支持基盤を固めるためにも必要だと分かっているのですが、私に投票してくれた人たちが求めているのは、こういうことなんだろうか?と」(森澤さん)

週末の子どもの面倒は夫が見ることも多く、ママ友とのランチ会にも夫が参加することが増えた。

ベンチャー政党」(森澤さん)の都民ファでは、スタッフのフォローが少なく議員個人でやらなければならないことも多い。何よりやりたいことは無限にあり、「24時間戦えますか」と常に自分自身に問うような状態だという。周囲のママ友も政治に興味を持ってくれる人が増えたが、「あまりにも忙しくて友人に立候補を勧めることはできない」のが現実だ。

「“風”で当選して議員になれましたが、次に落選したら『やっぱり女性はダメだったね』と言われてしまう。私は2期目を目指しますし、女性が3割という状態は絶対に後退させたくない。本当は半数を目指したいんです。そのために何をすべきか、子育て世代をどう巻き込んでいくか。試行錯誤ですね」(森澤さん)

「暗黙のルール」が分からず、疎外感

都議会

2期目に立候補しない女性たちは、民間企業に戻ったり専業主婦になったりしているという。

shutterstock/Osugi

2期目に当選するかどうかも課題だが、そもそも立候補を諦める女性議員も多い。若手女性地方議員のネットワーク「WOMAN SHIFT」が、統一地方選挙で2011年に当選したが2015年に立候補しなかった都内の20〜30代の女性議員を調べたところ、その比率は3割以上だった。

WOMAN SHIFTは台東区議会議員の本目さよさん(36)が、自身が2期目になった2015年に立ち上げた。実は、自身も2期目に立候補するか悩んでいたからだ。

民間企業とのスピード感の違いに戸惑っていました。政策を提案してから実現するまでに何年もかかるので、私は何もできてないんじゃないかという焦りから自信をなくしていたんです。でも他の女性議員に相談したらも同じ葛藤を抱えていた。WOMAN SHIFT をつくったのは、政策実現ができる女性議員を増やしたいという思いからです」(本目さん)

会では勉強会や視察を行うほか、議会独自の「暗黙のルール」を共有し合っている。立候補をためらう理由として、男性議員がタバコ部屋や夜の会食などの「オールド・ボーイズ・ネットワーク」で共有し合うようなルールが共有されず、トラブルや疎外感に悩む女性議員が多いからだ。

例えば、陳情を受けた場合に役所の担当課に直接頼みに行った方がいいケースと議会で質問した方がいいケース、議会の質問でも追及しすぎないように逃げ道を残した方がいいケース、課長と交代して部長が答弁に出てきたら1回は引いた方がいい、などだ。こうした暗黙のルールは議会によって異なるが、たとえ他の議会のことでも知っているのといないのでは大きな違いがある。

結婚・妊娠が選挙にどう影響するか

本目さよ

台東区議会議員の本目さよさん。今後は女性議員の悩みに答えるハンドブックを作成したいと言う。

撮影:竹下郁子

「保険で申し込んでいる人はいませんかね?子どもは親が、肌にあてて育てなきゃ」

台東区議会の子育て支援特別委員会で保育ニーズが議題に上がったとき、男性議員から出た言葉だ。“保険”とは、子どもの面倒を家庭でも見られるのに、あえて保育園に申し込んでいるのではないかという批判のニュアンス。周囲の議員からは笑いが起きた。

本目さんはその場で「母親だけに子育てを押し付けるような発信は母親を苦しめます。虐待防止のためにも社会全体で子育てを支えるという意思を示すべき」だと反論し、ブログでも発信した。男性議員だからといってこうした無理解が許されるわけではないが、それを正す女性議員の存在は貴重だろう。

無理解なのは有権者も同じ。女性議員ならではの課題として、結婚・妊娠・出産などのライフイベントに対する社会の目も大きな壁になっている。2017年7月には鈴木貴子衆院議員が出産予定や切迫早産と診断されて安静にしていることを公表したところ、「任期中の妊娠はいかがなものか」「辞職すべきだ」という声が届いたとブログに書き、大きな話題になった。

結婚・出産のタイミング周りへの報告をどうするか。これらが議員活動や選挙にどのように影響するかが気になっている女性議員は少なからずいると思います」(本目さん)

本目さんは3期目も立候補する予定だ。妊婦健診や病児保育など、1期目から提案し続けてきたことがやっと政策に反映されるようになり、やりがいも感じているという。

「1期目でやめてしまうのはもったいないです。忙しいし、つらいことも多いですが、批判に凹んだりもする、弱い人の気持ちもわかる人が議会にはいてほしい。一般的な女性たちがどうやったら傷つきながらも政治家としてやっていけるか、議員同士が支え合う仕組みを今後も強化していきます」(本目さん)

政治の世界に特殊な女性しか生き残れないのであれば、そこで実現する政策は民意から遠いものになってしまうだろう。選挙で男女の候補者をできるだけ均等にするよう政党に求める「政治分野における男女共同参画推進法案」が5月16日の参院本会議で成立する見通しだ。だが、立候補したその先の「2期目問題」をどうするかはまだまだ議論不足だ。

(文・竹下郁子)

編集部より:初出時、「WOMAN SHIFT」が、統一地方選挙で2011年に当選したが2015年に立候補しなかった都内の女性議員を調べた、としておりましたが、正しくは「都内の20〜30代の女性議員を調べた」です。訂正致します。 2018年5月18日 13:00

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