博多華丸の自由さ全開:「新生あさイチ」に見る好調組織の正しい引き継ぎ方

柳瀬唯夫元首相秘書官の参考人招致が、5月10日の午前9時から始まった。加計学園の関係者とは2015年に3回も会ったけど、そのことを首相に報告したことは一切なかったんだそうだ。そうだったのね、納得ですー。

な、わけないじゃん。

ったく、こんな衆院予算委員会のせいで、「みんな!ゴハンだよ」がなくなってしまった。笑えて、和めて、料理上手になれる。最高の番組なのにー。プンスカプン。

と怒ったところで、本題。「あさイチ」(NHK午前8時15分〜9時54分)だ。有働由美子アナウンサーとイノッチこと井ノ原快彦さんのコンビで一世を風靡し、3月末をもって2人は終了、近江友里恵アナウンサーと博多華丸・大吉に引き継がれた —— という、あの「あさイチ」。

「みんな!ゴハンだよ」は月曜から木曜のコーナーで、それが衆院予算委員会のせいで、飛ばされてしまった。という話だ。

「もっと声を張ってください」と視聴者

「あさイチ」はすごかった。2010年春のスタート以来、脇汗、セックスレス、朝ドラ受けと、たくさんの話題を作ってきた。そのまま続けることもできたはずだ。が、メンバー交代が決まり、有働さんはNHKを辞めた。

4月2日、近江&華丸・大吉の初回を何気なく見たのは、裏番組の民放ワイドショーに食傷しているからだ。どの局も結局のところ、エラそうなことには変わりがなく、鬱陶しいのだ。

で、新生あさイチ。「夫の転職。そのときどうする?」特集でスタート。途中で視聴者からの意見が読まれた。

「3人へ。もっと声を張ってください。声が小さくて、緊張がこちらにも伝わってきます」

読んだのは近江アナで、確かにちょっと緊張してるようだったが、でもおびえてはいなかった。だから、クスッと笑えた。そしてちょっと感心した。NHK、視聴者の「違和感」を前提として、引き継ぎをソフトランディングさせることにしたな、と。近江&華丸・大吉だからそうしたのか、そういう作戦ありきで3人を選んだのか。いずれにしろ、NHK、なかなかやるな、と思った。

ダメな組織を引き継ぐのは、比較的簡単だ。普通は、経験に基づく「解」のある人間を後任に置く。だから「ここが問題だよ」「そこを直して」で済む。難しいのは、うまくいっている組織を引き継ぐケースだ。無難に同じことを するのは簡単だが 、それ以上の発展は見込めない。だから何かしらの新しいこと、創造性が求められる。

と、そこで難しいのがさじ加減だ。ぶっ飛び過ぎれば、ユーザーは離れる。おそるおそるだと、見透かされる。

旧あさイチ最終回の視聴率は14.6%(ビデオリサーチ、関東地区)。さすがの高視聴率。新生あさイチ、初回の視聴率は10.1%。「急落」という報道も目にしたが、4月23日から29日の平均視聴率は10.8%で、着実に上がっている。うまくいっている組織の引き継ぎとしては、十分健闘していると言ってよいと思う。

お約束に縛られず可愛く暴走する華丸

鶏手羽元のさっぱり煮

5月2日に紹介された「鶏手羽元のさっぱり煮」藤井恵さん(料理研究家)

NHK「あさイチ」HPより

何気なく見始めた私だが、最近、とみに「あさイチ愛」が高まっている。前半の特集もよくできていると思うが、こよなく愛しているのが、柳瀬氏のせいでなくなってしまった 「みんな!ゴハンだよ」コーナー。担当は、博多華丸さん。華丸、サイコー。華丸、ゴーゴー。な今日この頃である。

そもそも博多華丸・大吉の漫才は、華丸が可愛く暴走するのを、大吉が止める構造だ。これが実に、「あさイチ」と合っている。うまくいっている組織を引き継ぐ時にほしい「創造的部門」を華丸が可愛い暴走で担い、「さじ加減部門」を止める大吉が担う。

ついでに書くなら、ジャニーズ(イノッチ)→吉本興業(華丸・大吉)で味が濃くなった分、有働→近江で「野心」という味付けが薄くなり、ここも上手なさじ加減だと思う。で、ここでやっと、マイフェイバリット「みんな!ゴハンだよ」の話。担当は博多華丸。アシスタントだが、ほとんど料理はしない。何をしているかというと、応援している。

5月2日は「鳥手羽元のさっぱり煮」、トロットロの半熟卵入りだ。華丸さんは卵のゆで時間を測る係。タイマーを片手に、「30秒経過ー」「5秒前、2、1」と盛り上げたのに、いざタイマーが鳴るとピピ、ピピピという音を止められず、飛び跳ねていた。先生が手羽元は煮る前、じっくり動かさずに焼くのだと説明すると、「なるほど。赤子、泣いても」とつぶやく。「赤子泣いても」はご飯の炊き方だけど、そうつぶやく。

華丸さんの自由さに心が引かれる。ルールに則り結果を出せと言われる日々だから、お約束に縛られない言動がまぶしい。威張ったところがまるでないから、「勝手なおっさん」でなく「自由な子ども」に見える。和む。

遅咲きの2人を抜擢したNHKの女子心配慮

「豚肉の醤油漬け」を作った5月7日は、肉をビニール袋に移す係になり、薄い手袋を渡された。手袋をした手で移すのだが、いざそのタイミングで、左手に手袋をしていることが発覚。華丸さん、「両手にするとばっかり(思っていた)。二宮くんのドラマ見たばかりだから」。そして、手術前の外科医のように両手を上げてみせる。「ブラックペアン」(二宮和也主演、TBS)は昨日の夜でしたねー、他局ですよーと見ていると、華丸さん、大きくな目を一層大きくして、ニンマリ。全て自覚の上。自由さのコントロールぶりが、さすがプロと心地よい。

5月9日は厚揚げを千切る係に任命された。先生と千切りながらつぶやいたのが、「今日は、誰とちぎりますかー」。えっ、何なに?よくわからないけど、先生もアシスタントも大爆笑。大吉さんが「五木ひろしさんの歌、いらないよ」と突っ込む。ああ、「契り」かー。「あなたは、誰と契りますかー」ですね。大吉さんは「思いついたこと、全部言えばいいという話じゃないからね」と華丸さんをたしなめていたが、むしろ思いついたこと、どんどん言ってほしい。そういう気持ち。

優しさが感じられるのもすごく良い。高齢そうな先生がちょっと手順を飛ばしてしまったときは、すっと後ろにまわって先生の両肩に手を置き、「リラックス、リラーックス」。ニッコリ笑いながら、励ましていた。自由な、優しい子ども。

華丸・大吉は、福岡から上京したのが35歳で、有名な遅咲きだ。そういうことも含めて、2人を抜擢したのなら、NHK、女子心、わかってる。

そんなこんなで、新生あさイチ、働く女子に録画することをオススメしたい。仕事して疲れて帰って、「みんな!ゴハンだよ」を見る。癒やされること、請け合いだ。

(文・矢部万紀子)


矢部万紀子(やべ・まきこ):1961年生まれ。コラムニスト。1983年朝日新聞社に入社、「AERA」や経済部、「週刊朝日」などに所属。「週刊朝日」で担当した松本人志著『遺書』『松本』がミリオンセラーに。「AERA」編集長代理、書籍編集部長を務めた後、2011年退社。シニア女性誌「いきいき(現「ハルメク」)」編集長に。2017年に退社し、フリーに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』。

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