2017年は価格高騰に沸いた仮想通貨業界。コインチェックから巨額の仮想通貨NEMが流出した事件や、その後の金融庁による監督強化で、業界の風景は大きく変わった。
2017年12月に200万円を超えたビットコインは2018年5月16日現在、94万円ほどの価格になっている。
3カ月前の2018年2月には大混戦模様だったが、みなし仮想通貨交換業者の撤退が相次ぎ、選別と淘汰が一気に進んだ。これまで仮想通貨の業界は、多くのスタートアップ企業が競い合う市場だったが、市場の拡大に伴い、取引所を運営する企業は、一定の経営体制と、それを確保できる資金規模が求められるようになっている。
この数カ月の動きを中心に、仮想通貨業界の変動を見てみよう。
制作:枝常暢子
仮想通貨の事業者の3つの分類
仮想通貨に関連する事業を手がける企業は3つに分類できる。
仮想通貨交換業者は、金融庁の審査を経て、登録を済ませている業者のことだ。2017年4月の改正資金決済法の施行で、登録をしていない業者は違法になる。同法の施行で、登録が義務付けられ、同年9月末から業者の登録が始まった。
みなし仮想通貨交換業者は、改正資金決済法施行以前から、仮想通貨の取引所などを運営していた企業で、現在も審査中の企業をいう。
新規参入の企業はみなし業者以外で、新たに参入を決め、金融庁の審査を受けているか、今後、審査を受ける企業だ。
みなし業者は16社から8社に
みなし仮想通貨交換業者は、コインチェックを含め16社あった。コインチェック事件を受け、金融庁はみなし業者全社を対象に立ち入り検査した。その結果、金融庁から指摘を受けたセキュリティの水準や内部の管理態勢などの整備について、十分な対応ができないと判断する企業が相次いだ。
関連記事:“みなし”仮想通貨取引所に淘汰の波 —— CAMPFIREら6社が登録断念
取引所クラーケンを運営していたPayward Japanは、日本からの撤退を決めた。deBitについては、金融庁の調査で、取引所としての営業をしておらず、「みなし」の要件に該当しないことが判明。新規の登録を目指すという。
金融庁は「撤退を決めた業者の中には顧客の財産を預かっている業者もあるため、返還の状況を見守っている」と話す。
以下の8社が、これまでに撤退を決めたか、「みなし」の要件に該当していないことがわかった事業者だ。
- 来夢(三重県鈴鹿市)
- ビットステーション(名古屋市)
- bitExpress(那覇市)
- ミスターエクスチェンジ(福岡市)
- 東京ゲートウェイ(東京都新宿区)
- CAMPFIRE(東京都渋谷区)
- Payward Japan(東京都千代田区)
- deBit(東京都渋谷区)→「みなし」に該当せず、新規の登録を目指す
撤退しない全社が行政処分受ける
マネックスグループは4月6日、コインチェックを36億円で買収すると発表した。
撮影:木許はるみ
コインチェックは、4月にネット証券大手のマネックスグループの傘下に入り、早期の登録を目指している。8社のみなし業者は、全社が金融庁から業務停止命令や業務改善命令を受けている。
関連記事:コインチェック和田社長の「求心力」を頼ったマネックス
- エターナルリンク=業務停止命令2カ月間、業務改善命令
- FSHO=業務停止命令2カ月間、業務改善命令(2度目の業務停止命令と業務改善命令)
- BMEX=業務停止命令2カ月間、業務改善命令
- ブルードリームジャパン=業務停止命令2カ月間、業務改善命令
- コインチェック=業務改善命令(2度)
- バイクリメンツ=業務改善命令
- LastRoots=業務改善命令
- みんなのビットコイン=業務改善命令
みなし業者各社に対して、金融庁が指摘した問題は、セキュリティや、顧客の資産と会社側の資産を分けて管理する「分別管理」などの体制の不備だ。高度なセキュリティの確保には、新たなシステムの導入や人材の確保などが必要となるため、残る8社も、最終的に何社が正式な登録に至るかは不透明な情勢だ。
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登録済み16社は「協会」設立
登録済みの16社は4月24日、自主規制団体を立ち上げた。
撮影:小島寛明
金融庁に正式に登録されている仮想通貨交換業者は16社ある。bitFlyer(ビットフライヤー)、Zaif(ザイフ)を運営するテックビューロ、GMOコイン、DMM Bitcoinなどがある。
4月には、交換業者16社全社が参加して、自主規制団体「仮想通貨交換業協会」を立ち上げた。
関連記事:日本仮想通貨交換業協会が発足 —— 求められる「金融機関としての自覚」
ビットアルゴ取引所東京には、4月にヤフーグループのZコーポレーションが出資した。2018年秋の取引所としてのサービス開始を目指すという。
16社ある登録済みの業者のうち数社は、取引所としてのサービスを始めていない。ビットアルゴ取引所東京もサービスを始めていない業者の1社だ。セキュリティの確保などに高いハードルがあることが背景にあるようだ。
その最たる例は、SBIグループのSBIバーチャル・カレンシーズだ。正式な登録が始まった2017年9月29日に交換業者として登録されたものの、これまで「安全性を徹底的に追求する」(北尾吉孝・SBIホールディングス社長)として、正式なサービスは始めていない。SBIバーチャル・カレンシーズは2018年夏にも、正式なサービスを始める見通しだ。
関連記事:【独占】SBI北尾社長「仮想通貨でNo.1目指す」「取引所買収は全く考えない」——手数料革命からマイニングまで
新規参入は後回し
サイバーエージェントビットコインは取引所の参入を断念し、独自コインの発行を目指す。
撮影:小島寛明
金融庁がコインチェック事件後に登録済みの交換業者とみなし業者に対する監督を強化した影響で、新規参入業者の登録は進んでいない。サイバーエージェントビットコインは、取引所の設置を目指していたが、競争の激化と登録手続きの長期化で、取引所の設置を断念した。今後は、独自の仮想通貨の発行に注力するという。
関連記事:サイバーエージェント、2019年中に独自の仮想通貨発行へ ── 取引所参入は断念
メガバンクの一角である三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は、独自の仮想通貨「MUFGコイン」の開発を進めている。2018年1月には、このMUFGコインを日本円などと交換する取引所の開設を目指していると報じられた。みずほフィナンシャルグループも、「Jコイン」の開発を進めている。
チャットアプリなどを展開するLINEは2018年1月31日、仮想通貨事業を担うLINE Financialを設立したと発表した。LINEで仮想通貨を交換できるサービスなどを展開するという。すでに金融庁への登録を申請しており、審査を受けている。
メルカリの子会社で金融関連の事業を担うメルペイも、仮想通貨による決済の導入を目指している。楽天グループや、大手証券数社も参入を目指しているとみられる。
金融庁による交換業者の審査は現在、「100社待ち」とも言われたが、コインチェック事件後の審査は明らかにハードルが上がった。みなし業者と同様に、最終的にどれだけの事業者が正式な登録に至るかは見通しにくい。
金融庁は「既存の業者への対応にリソースを割いている状況の中で、限られたリソースで、新規参入に関するご相談に応じている」としている。
海外事業者も相次ぎ撤退
海外の事業者も日本市場からの撤退が相次いでいる。
香港に本社を置いていた世界最大級の取引所バイナンスは3月、無登録のまま日本で営業していたとして、金融庁から資金決済法に基づく警告を受けた。これを受けてバイナンスは日本市場での運営を停止している。バイナンスは本社のある香港当局からも警告を受け、マルタに拠点を移すと報じられた。
サンフランシスコに本社を置く取引所大手・クラーケンは、みなし業者として運営していたが、日本居住者向けのサービスから撤退するとを表明した。マカオに本社を置くブロックチェーンラボも無登録で日本国内で営業していたとして警告を受け、国内での運営を停止した。
(文・小島寛明、西山里緒)
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