モバイル決済サービスのLINE Payを軸として、送金や小額ローンから株式投資や保険の購入まで幅広い金融サービスのプラットフォーム「LINEフィナンシャル」の準備が急ピッチで進んでいる。
2016年7月の東京・ニューヨーク上場から約2年。LINEの時価総額は現在、約9500億円。
LINEは2011年3月の東日本大震災の3、4カ月後にコミュニケーションアプリの「LINE」を一気に始めると、わずか半年強でアプリを爆発的に普及させた。そして5年後の2016年7月、株式を東京とニューヨーク証券所に二元上場(Dual Listing)させ、時価総額で1兆円企業を築き上げた。
そのLINEが大きな節目を迎えている。
証券アナリストたちは、LINEが新たにマネタイズできるサービスの必要性を強調する一方で、その挑戦はLINEのコスト上昇プレッシャーとなり、利益を圧迫することにつながると分析する。現に、LINEの営業利益は2018年1月〜3月期、前年同期から7割近く下落、営業費用は3割以上も拡大した。
LINEは従来の広告事業を柱とするコアビジネスの収益拡大を止めることなく、一方で戦略事業の中核を成す金融サービスの開発への投資を加速させている。進化するフィンテック(金融テクノロジー)が既存の金融サービスをディスラプト(破壊)して、新しい金融の形が作られようとしている今、LINEは2011年にLINEアプリを大ヒットさせたように、新たな金融サービス・プラットフォームを生み出せるのか。
LINEの出澤剛CEOに話を聞いた。
コミュニケーションから発想する金融
—— 第1四半期の決算は営業利益が大幅に減り、純損失を計上しました。しかし、LINEが戦略事業への投資を進める中、出澤さんにとっては想定内の決算内容だったのでは?
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2018年、LINEはLINEフィナンシャル拡大に向け、複数の金融サービス会社と業務提携を締結。
(2017年)12月期の通期決算の発表で、戦略事業に関してはだいたい300億円を投資に使っていきますよというお話をさせていただきました。その戦略の中でやっていますので、おっしゃる通りです。
では、なぜ今かというと、フィンテック領域に関しては、2018年非常に大きく動くと考えています。勝負するタイミングでしっかりシェアを取らないと、後からでは実らない事業だと思っています。今のタイミングで一気に勝負して、足場を築かないといけない。
(コミュニケーションアプリの)LINEがそうでした。振り返るとLINEが始まったのが2011年6月なんですけど、一気に普及したのはそれから半年くらいの2011年秋から2012年の春にかけてでした。あの時期を逃したら、今のユーザー数はないだろうと思っています。
我々がやろうとしている金融はコミュニケーションから発想していたりします。送金し合うことを考えると、ネットワークというか友達とのつながりやユーザー同士のつながりが強くなっていきます。
LINE決算説明会資料より
まわりを見れば、国内外を問わず多くの競合が参入しようとしています。外部環境を見ても、特に中国では先進的な取り組みが出てきていて、日本は遅い遅いと言われていたんですけど、政府もだいぶ規制緩和や産業育成に舵をとろうとしていると思います。
既存の金融業界も変わろうという動きがようやく出てきました。中国人のインバウンドのお客さんが非常に増えてきたことによって、店舗さんもQRコード決済を準備をする動きがあって、多くのドラッグストアチェーンや家電量販店は昨年くらいから対応するケースが増えてきています。今年は大きく(市場が)動く年ではないかと思うので、しっかり投資をしてフィンテックを次の大きな柱にしていこうと思っています。
金融業界はスマートフォンの洗礼を受けていない
—— LINEはこれから次世代のメガバンクになっていくのでしょうか?
「(金融業界で)大きな変革が起きるタイミングだろう」(出澤氏)。
REUTERS/Toru Hanai
我々はユーザー目線で発想する会社です。我々がやりたいことは、金融自体をリデザインしていくことだと思っています。
(コミュニケーションアプリの)LINEの話に戻ってしまうのですが、LINEを作った時にコンセプトとして掲げていたのは、非常にクローズドで近しい人とのコミュニケーションでした。もう一つは、情報やニュースのシェアではなく、エモーション(感情)をやり取りし合うということ。キーワードはスマートフォン、エモーション、クローズドでした。
金融業界はスマートフォンの洗礼をあまり受けていなくて、もっと言うとインターネットの洗礼もあまり受けていないですよね。なぜかと言えば、参入障壁が高くて、多額の資金が必要で、収益化まで非常に長い時間がかかって、規制が多いからです。
スタートアップや若いインターネット企業がチャレンジするには、なかなか難しい領域であったと思います。大手金融機関もインターネット化していますが、どちらかというと、インターネット企業がユーザー視点で発想して、新しいモデルにガラッと作り変えると言うよりは、既存の事業の延長の中でインターネットもやってます、スマートフォンもやってますという印象が強いですね。
だから、我々は金融というものをもう少しユーザー目線でリデザインしていくことに価値があると思っています。今非常に不便のまま残っているエリアが金融だと思うので、もっと便利なものを提供できるのではないかというのが根本的な発想です。
それが結果的に総合金融サービスになっていくのだろうと言う方がいるでしょうけど、我々の根本的な発想はそういうことです。なぜそれを今できるかというと、上場もして長期的な投資もできるようになりました。ブロックチェーンなどのいろいろな技術が発達したことでコストが下がってきたということもあります。
大きな変革が起きるタイミングだろうと思います。
LINE Payは一番の肝
—— LINEフィナンシャル構想では今、どこに注力していますか?
LINE Pay「コード決済」対応箇所を100万箇所に拡大する目標を掲げる。
一番大事なのはLINE Payの普及で、これが一番の肝だと思っています。LINE Payの活性化で、LINE Payがお客様のお財布になると、いろいろなニーズが発生するはずです。その受け皿になるのが、LINEフィナンシャルの中の証券業や保険などだと思います。
日本中どこでもLINE Payで買い物ができるようになって、多くの方が(コミュニケーションアプリの)LINEを使うイメージでLINE Payを使っていただきたい。気軽に送金をし合える状況を作ると、財布を持たずにスマホのLINE Payがあれば、多くのことが足りてしまうだろうと考えています。
例えば食事会でお金が少し足らないなんていう時に小額のローンを借りたり、ある程度の資金ができたので株式投資をしてみようだとか。あまり投資は分からないから、テーマ投資から始めようだとか。詳しい人であれば、アメリカの株を買ってみようだとか。
旅行へ行く時に、旅行保険をかけるとか。LINEであれば金融商品へのハードルが下がってくるだろうと。そういうことを考えていくと、金融サービスをかなり網羅的に提供していくことになると思います。
LINE Payとは:
LINEのアプリにあるLINE Pay「コード決済」画面も店舗でスキャンして決済処理を行うもの。LINEは2018年内にLINE Pay「コード決済」対応箇所を100万箇所に拡大する目標を掲げている。2017年のLINE Payの決済高は4500億円を超えている。
「LINE Payは日本の高齢者層に普及していく」
—— 日本は高齢者の数がますます増えていきますが、国内市場で高齢者はLINE Payを財布として使えますか?
2025年、団塊の世代は75歳を超えて後期高齢者となり、日本国民の3人に1人が65歳以上になると言われている。
REUTERS/Toru Hanai
ゆくゆくは使っていくことになると思います。まず我々がターゲットにしているのは若年層で、20代、30代の方にしっかり使っていただくことがファーストステップになると思います。
ただ、LINEもそうでしたが、実際20代の方に使っていただいて、その後にお母さんとやり取りをするのに、お母さんにLINEをインストールしてもらい、、次はお父さんもと広がりました。孫の顔も見たいので、おじいちゃんやおばあちゃんも使っています。
LINE証券とは:LINEは2018年3月、野村ホールディングスと証券ビジネスを中心とする金融事業における業務提携の検討を開始することに合意。提携の一環として、両社はLINEプラットフォーム上で、資産形成層をターゲットとした非対面の証券投資コンサルティングなどを提供することを目指す。
LINEテーマ投資とは:LINEは、LINE上で次世代型投資サービス「FOLIO」の展開に向けて、フォリオ(FOLIO)社と資本業務提携を結んでいる。「FOLIO」は、テーマを選び10万円前後から分散投資を始められるサービス。「ドローン」や「ガールズトレンド」などといったテーマを選ぶだけで複数の企業に投資ができる。
LINE保険とは:LINEは2018年4月、損保ジャパン日本興亜と業務提携を提携したと発表。スマートフォンで簡単に購入や相談、請求ができるスマホ特化型保険サービスの開発を目指していく。サービスの開始は2018年内としている。
(コミュニケーションアプリの)LINEで言えば、スマホユーザーのほとんどに使っていただいている状況ですし、年齢別で見てもほとんどすべての年齢で使っていただいてます。
LINE決算説明会資料より
LINE Payでも同じことが起きると思っています。例えば今、割り勘で使う学生が増えてきています。お金のやり取りは、家族や親しい友人とするもの。地方の両親に、仕送りをお願いする時だとか。
コアの層の20代、30代が使い出せば、自然にLINEのネットワークを使って広まっていく。我々が金融事業のアプローチで強みだと思っているのはそこで、家族、親しい友人、知人はLINEの中にある関係性なので、他のサービスよりも非常に地の利があると思います。
LINEは企業買収を考えているのか?
—— 今後、LINEフィナンシャルを拡大する上で、M&A(合併・買収)のオプションはあるのでしょうか?日本企業による1000億円を超える大型買収が目立つ2018年です。LINEでも規模の大きな企業買収はあり得るのでしょうか?
「我々がやりたいことは、金融自体をリデザインしていくこと」と語る出澤社長。
フォリオさんに対しては出資しています。野村さんとはジョイントベンチャー(合弁企業)という形です。すべてのオプションを考えていますので、M&Aも含まれますね。そして、積極的に考えているところです。すべてのオプションを考えているということです。
金額が大きくても、それに見合う成果があると見込めれば、それは成り立つものだと思います。時間的にも長くかけていくものではないので、時間を買うということは必要なことですし、規模の経済が働いてくるものですよね。
(聞き手/構成・佐藤茂、写真・岡田清孝)
出澤剛:長野県出身、44歳。早稲田大学政治経済学部を卒業後、朝日生命保険に入社。2002年にオン・ザ・エッジ(その後ライブドアに社名を変更)に入社し、2007年からライブドア社長に就任。2014年、LINE・COO(最高執行責任者)のポストを経て、2015年4月より現職。