「普通男子」は生きづらい?仮想通貨にも出会い系アプリにも乗れない僕らの生きる道

平成生まれ20代の「普通の男子」が生きづらいという。

世は女性活躍が叫ばれ、企業は軒並み女性社員の育成に力を入れている。#MeToo運動は世界的な盛り上がりをみせ、声を上げる女性は着実に増えている。

一方、スタートアップを立ち上げて起業したり、SNSで数万人規模のフォロワーをもつインフルエンサーになったり、仮想通貨で一山当てたりしているわけでもない“普通の”男子は、「男はこうあるべし」の価値観もいまだ根強い中、「むしろ若い男でワリを食っている」という。彼らの感じている生きづらさは、ホンモノなのか。

スマホで視聴する男性。

キラキラスタートアップ経営にも、ビッグやお金持ちになることにも、興味のない普通に生きたい20代の思うこと。

「キラキラのスタートアップ経営者でもなく、仮想通貨にぶっこんでいる訳でもなく、イケメンでもなく、ましてや女性活躍とか言われている女子でもない、僕みたいにまじめな普通の男って本当に生きづらいんですよ

とある平日の昼下がり、東京・渋谷のカフェで、都内のIT企業勤務の大樹さん(28、仮名)は、おもむろにそう話し出した。ランチタイムのピークが過ぎて、人もまばらな時間帯だ。

大樹さんは、2013年に都内の私立大学を卒業。その後は専門学校に通いながら、IT業界でアルバイト生活を続け、2016年から都内のIT企業に勤めている。

男女平等に違和感

社会人としてまず最初に感じたのは、同年代の女性との扱いの「差」だ。

「今は、女性活躍が言われていますよね。素晴らしいことだと思うんですが、実態に目を向けると、例えばあいさつや礼儀についても、男の上司は男性にはすごく厳しいのに、女性にはあまり厳しく言わない。仕事も男にはどんどん振るのに、女性にはそこまででもない。男女平等を目指すなら、ちゃんとやろうよと思います」

街に出れば出たで、レディースデーだ女子会限定だと、やっぱり女性は優遇されていると感じる。

「映画にしても、カフェや居酒屋でも、女性は割引があったりデザートがついてきたり。男にそんなのはありません」

手を組んだ男子。

世の中の女性活躍推進ばかりいう風潮に「違和感」。

撮影:滝川麻衣子

女性との比較だけではない。

30代と平成生まれの価値観の差も感じます。30代の先輩は仕事の仕方にしても、体育会系というかもっと泥臭い

「若手は、仕事の上でも笑いをとれ」とか、クライアントにとにかく頭を下げまくる。

「そういう世代じゃないんだけど」と、大樹さんは思っている。

半年前にはバブルを迎えていた、仮想通貨に関しては「男なら時代の先端、張っとけよ」という声も、年上男性を中心に周囲で巻き起こった。しかし「興味のない人間だっている」。

「女子力高いね」って言わないで

そもそも自分の中に「男は仕事、女は家庭」のような考えがない。

同年の男友達とは「男だけが稼ぐ時代は終わったよね」と話している。「周囲は、結婚して子どもが欲しいと言いますが、みんな共働き志向です」。

その割に、根強く従来の価値観も残っている。

「僕は地方出身で一人暮らしなので、当然、自炊するんですが。するとすぐに『女子力高いねー』と、周囲の女性に言われる。でも、普通のことやっているだけじゃないかと思うんです」

こういうのが普通の時代が早く来ればいいのに」と、いつも思う。

イケメンか遊び人の勝ち?

「イケメンだと話は違うと思います」

大樹さんは、身長約180センチ。肩幅が広くがっしりした体型で、ジムにも頻繁に通い、健康的だ。とりわけ美形などではないが、ごく人の良さそうな印象。それでも「イケメンは得です」としみじみ嘆く。

カップル

マッチングデートアプリは、イケメンのものか?

例えば一時期、盛り上がったマッチング(デーティング)アプリ「Tinder(ティンダー)」。彼女をつくろうと登録しても、「普通な自分」を思い知らされる。

「こっちはお金をつぎ込むだけつぎ込んでも、全然、相手にされません。結局、イケメンか遊び人しか(ティンダーユーザーに)残っていない」

半年使ってみたが「お金を使うだけで彼女はできない」と身に沁みて、やめてしまった。

比較的身近な同年代の女性たちも、同年代の男性だけを見ているわけではない。

「24、25歳の女性も、12歳上と付き合っていたりします。お父さんみたいな年上の人と食事したりとか。お金持っているからって。そんなのにかなうわけがない」

メディアはいつも、時代の寵児のような若手起業家を取り上げがちだ。

「たしかにすごいんでしょうが、ミレニアルの大半の人は、はっきり言ってどうでもいいと思っているのでは」

周囲にも学生起業家がいるけれど、「正直、昔から知っている身からすると、単なる目立ちたがり」に見えて仕方がない。

女優の石原さとみさんと交際報道の出た、SHOWROOM社長の前田裕二氏を見ても「単に男女の関係なだけなのに、あんなに追われて気の毒。有名だとは思いますが、うらやましいとは全然思わない

母から紹介された占い師を訪ねて

「今の自分は、何をやってもうまくいかない時期。人生の周期がそうらしいです」

都内の有名私大を卒業後、広告代理店に就職して2年目の翔太さん(24)は、昨年秋に占い師を訪ねたという。職場で退職者が相次ぎ、その分の仕事がどんどん肩にのしかかってきた。帰宅は午前の日が続き、疲労困憊していた。周囲がたくさん辞めると、入社1年目でも「このままでいいのか」と、身の振り方を考えて動揺した。

そんな翔太さんを見かねた母親から占い師を紹介され、見てもらうことにしたのだ。

「僕は24歳なんですが、12の倍数の歳は、人生の周期としてうまく行かない、と言われて。2年間のトンネルを抜けるまで、転居、転職や結婚みたいな大きな決断は避けた方がいいらしいんです」

占い

「超自然的な理由」で言われると、気持ちは落ち着いた。

REUTERS

翔太さんは「何かあっても、今はうまくいかない周期だからと思うと、なんとなく開き直れるというか、落ち着いた」という。「今は動く時期ではないと、超自然的なものに言われた」ことで、とにかくは今の職場で頑張って、トンネルを抜けた時に跳躍すればいいと思っている。

かといって、バリバリ出世することにもさほど興味がないという。

お子さんがいるのに終電帰りの女性部長を見ると、女性活躍と言われる女性も大変そうだし、男性も課長になって部長になってと上がっていくキャリアに、むしろ閉塞感を感じます。出世したくないというより、出世を目的にしたくない」

組織の論理が「僕には無理」だった

組織に順応してなんとかうまくやる、というのが苦手なんです

地方の国立大学を卒業して社会人3年目の進太朗さん(24、仮名)は、人材サービスの営業職を辞めて、この春からライターの仕事を始めた。「いったん、正社員にはならない」と決めて、個人事業主の業態だ。短歌が趣味で、ブログやTwitterで発信すると共に、不定期にバンドや弾き語りでギターをやっている。

人材サービスの営業は「人手不足なので人材確保が大変で。厳しい状態をなんとか切り抜けるために『まあ、こんな感じでごまかしておこう』と言うような状況が生まれることもあるんです。でも、それが本当に嫌でした。組織のためにうまくやれる人もいるのでしょうが、僕は無理だった

将来への不安。

日本の若者の将来への希望は、格段に低い。

出典:内閣府「今を生きる若者の意識〜国際比較からみえてくるもの」

結局、2年で辞めて「組織のために働くことはできないし、長く一つの組織にいることもない」と考えている。収入は2割下がったが「許容範囲」だ。自分のことを自分で決められる今は「楽しい」という。

まだ生きづらさがあるとしたら、「20代男子なら夢があって恋愛もばりばりだろ、みたいな雰囲気は苦手です。やりにくいな、と。僕は、キラキラスタートアップやビッグになる!みたいな価値観とはあまり縁のないごく普通の20代男子です」。

金融危機、大震災……社会変化を早くに体感した世代

2018年現在、平成生まれ(1989年以降生まれ)はちょうど20代以下に当たる。日本は少子高齢化により、歴史上例のない急激な人口減少に見舞われており、実質経済成成長率はバブル崩壊後の1990年代で年率1.5%程度、2000年代は年率1%以下の水準と長く低迷。バブル崩壊後に生まれた彼らは、ずっと日本経済の停滞期を生きている。

さらに言えば平成生まれのうち、すでに社会に出ている人の多い20代は、物心がついてからリーマン・ショック(2008年)、東日本大震災(2011年)を経験しており、大きな社会変化を意識的にも無意識にも体感しているはずだ。

内閣府の「今を生きる若者の意識〜国際比較からみえてくるもの」によると、7カ国中、日本の若者(13〜29歳)は「自己肯定感」「意欲」などの項目でもっとも割合が低い。また、「将来への希望」を持っている人の割合は、各国80〜90%台を維持したのに対し、日本は約6割と格段に低いことが話題となった。

一方、インターネットを駆使する時代に生まれたデジタルネイティブであり、SNSを介して人との横の「つながり」を重視する20代の仕事観は、政府調査や民間調査でも「プライベートを重視したい」「仕事だけの人生はいや」と考える人が増加。経済成長と共に高収入や出世を目指すことが「当然」とされた時代とは、明らかに意識が違う。

街並み。

他人や社会の基準ではなく、自分軸で幸せになって、ほっこりしたい。

それぞれのクラスタに小さな宇宙

この低成長時代に、よりフラットな空気を求める「普通男子」の生きる道はどこにあるのか。

うなりたい、というモデルは正直ないのですが。こうなりたくない、というのははっきりしています。満員電車でくたびれたスーツを着て、目が死んでいるおじさんにだけはなりたくない

前出の、IT企業勤務の大樹さんは言う。

「有名になったるぜ!みたいなものはないのですが、結婚して普通に暮らしたい。やりたい仕事をやって、趣味もやりながら働けて、マスメディアや世間が作った評価軸ではなくて自分軸の幸せでいいんです。ほっこり安心して暮らせるのが一番いい

広告代理店で2年目の翔太さんは「50〜60代になった時に、ウィンウィンでつながれるお金のいらない生活を送っていたいです」と言う。

「お金がなくてもパンが欲しければパンを焼いてくれる人、美味しいお酒が飲みたかったらお酒を提供してくれる人とのつながりがあればいい。その代わり自分は今の仕事の延長で、PRやプロデュースでお返しできる、みたいな」

重視するのは「時間や場所にとらわれずに仕事をすることですね、今はその実現に近いのかなと」(ライターの進太朗さん)。

企業やマスメディアがタッグを組んで生み出してきた、かつてのメガトレンドや「誰もが憧れる理想の生活」「国民的スター」は、もはや普通男子にはピンとこない。

「20代全員に流行っているものとか、とくに思いつきません。小さなクラスタ(集団)がたくさんあって、それぞれの中の小さな宇宙で、幸せに生きていけたらいいんじゃないかと思っています」(大樹さん)

(文・滝川麻衣子、撮影・今村拓馬)

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