失われた20年が生んだ「M&Aの世紀」、年間11兆円の”賭け” —— JPモルガン・インタビュー

「日本企業のクロスボーダーM&A(合併・買収)の勢いは、10年どころか100年のスパンで続いていく」

ビール、調味料、保険、コンビニ……。人口動態の変化に反応しやすい業界で、国内需要の鈍化に直面する企業が生き残りをかけて海外買収を加速させている。1990年代から続いた「失われた20年」は、やがて迫り来る経済の著しい縮小に対応するため、M&Aの大波をつくった。そして、この波は「Trend of decade(10年トレンド)ではない。Trend of century(1世紀のトレンド)である」と語るのは、JPモルガン証券・投資銀行部でM&Aグループ責任者の圡居浩一郎氏だ。

日本企業によるクロスボーダーM&Aが増加を始めたのは1990年代後半。海外買収の流れはその後、増加トレンドに乗る。圡居氏は、日本の海外買収の勢いは今後、長期にわたり継続し、毎年1兆円を超える大型買収が起こる可能性は高まると予想する。製造業であればイノベーションを獲得するための買収を行い、食品や飲料、保険、銀行は需要の成長が期待できる海外のプレーヤーを買収していくと説明する。

JPモルガン証券投資銀行部M&Aグループ責任者の圡居浩一郎氏

BUSINESS INSIDER JAPAN

現に、日本企業のクロスボーダーM&Aの総額は1999年、前年から5倍以上増加している。2008年にはさらに倍増し、700億ドル(約7兆6000億円)を超えた。リーマンショックの2009年には280億ドルまで落ち込むが、東日本大震災が起きた2011年には840億ドルの高水準まで回復。Dealogicのデータによると、翌年の2012年に1000億ドルの大台を超えると、昨年は1010億ドル(約11兆円)をマークした。

「グローバルのM&Aトレンドは株価と連動していて、シクリカリティ(循環)があるけれど、日本はそうではない。日本企業が海外の会社を買収するケースが増えていることは、長期トレンドである。このトレンドが変わることはない」と圡居氏はBUSINESS INSIDER JAPANとのインタビューで話した。

トヨタだけがランクイン

増え続けるM&Aとは対照的に、バブル崩壊を契機に「失われた20年」に突入した1990年以降、日本企業のグローバル市場におけるプレゼンスは低下し続けた。

少なくとも24の日本企業は1990年当時、世界の上場企業の時価総額ランキング上位50社に入っていた。それから20年後の2010年、日本のGDPは中国に抜かれて世界第3位となった。そして今年、トヨタを除く全ての日本企業が時価総額上位50社から姿を消した。代わりにランキング上位を独占したのは、アップルやグーグルのAlphabet、マイクロソフトなどのアメリカ企業だ。

「当然、マクロ要因が根底にある。人口が減る、経済が縮小する。遅かれ早かれ日本は、経済規模でインドにも抜かれるわけです。このような国内マーケットでずっとBtoCビジネスをやっていても成長がないとなれば、海外に出ていくしかない」と圡居氏は言う。「自動車を除くと、日本は製造業で稼ぐ、ハードウェアで稼ぐことが厳しくなっている。日本の製造業は、時価総額だけを見ればあの頃から成長していないことになる。一方、アメリカではその間に成長と合従連衡、ニューインダストリーの創出が起きた。1990年当時1位だったNTTの1590億ドルに比べ、今年1月現在1位のアップルの時価総額は6380億ドル(約65兆円)と、その規模は全く違うものになった」と続けた。

1月現在、上位10社を占めるアメリカ企業には、アマゾンやFacebook、エクソン・モービル、ジョンソン・アンド・ジョンソン、JPモルガンが名を連ねる。1990年時点では1社もランクインしていなかった中国企業も、アリババとテンセントが14位と15位に入った。

圡居氏は言う。「企業の中心はもちろんオーガニックな成長だが、それだけでは世界のビジネスについていけない。そのギャップを埋める手段がM&Aだ。ただ、日本の場合は国内企業同士のM&Aが経済合理性だけでは起こらず、国内ソリューションはほとんど期待できない。事実上、M&A=海外の企業を買収するという選択肢しかないだろう」

ターゲットはアメリカ

買収を仕掛ける上で、多くの日本企業は世界最大のマーケットであるアメリカを地理的ターゲットに置いていると圡居氏は話す。

ニューヨーク・マンハッタン島

John Moore/Getty

「為替変動による減損を避けたい企業からすれば、地政学的に考えて、安定的な成長が見込め、為替も比較的安定している世界最大のマーケット・アメリカがこれまでも、これからも1番の投資先になることは間違いない」と圡居氏は強調する。「新興国には新興国のリスクがある。成長率は高いが、為替リスクも高い。そして、イギリスのEU離脱やフランスの大統領選を控えるヨーロッパも、ユーロのリスクが引き続き高い」と圡居氏は加えた。

実際、日本企業によるクロスボーダーM&Aの実績を見れば、その傾向は明らかだ。

M&A(合併・買収)助言のレコフによると、今年1月~3月における金額順トップは、1月の武田薬品によるバイオ医薬品会社アリアド・ファーマシューティカルズの買収(約6300億円)、2月のソフトバンクグループおよび共同投資家によるフォートレス・インベストメント・グループの買収(約3600億円)、3月のソフトバンクグループによるインテルサット(ワンウェブ経営統合会社)への資本参加(約1900億円)と、すべてアメリカ市場におけるM&A。

一方、ローカルマーケットの停滞や為替リスクの増大を背景に、買収した海外事業を売却する日本企業もある。キリンは2月、2011年に買収したブラジルのビール・清涼飲料事業をハイネケン・グループに売却すると発表した。ブラジル通貨のレアルは、国内の政治汚職事件や財政状況の悪化などにより、昨年2月には円に対して1レアル=28円台を割り込み史上最安値を更新した。

1兆円ディール

「BtoCビジネス、特に人口が直接関係するコンシューマービジネスは、クロスボーダーM&Aで財を買うか、現地の販売ルートを手に入れるしかない」圡居氏の指摘をデータも裏付ける。

日本企業のM&Aの規模をセクターごとに見た場合、過去5年それぞれの年で最も金額が大きかったのは通信(12年)、金融(13年)、飲料・食品(14年)、保険(15年)、テクノロジー(16年)で、今年はヘルスケアだ。

「ニューインダストリーの創出が難しいコンシューマービジネスにとって、M&A以外のソリューションはない。今後も1兆円を超える規模のディールが起こる可能性は高い」と圡居氏は語った。

(編集:佐藤茂)

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