中国最大の配車サービス滴滴で起きた殺人事件。それでも中国人は「必要不可欠な存在」

5月5日夜、中国で配車アプリ「滴滴出行(ディディ・チューシン)」を利用した客室乗務員の女性、李さん(21)が、ドライバーの男(27)に殺害される事件が発生した。その後、滴滴の管理体制の問題点などが次々と明らかになり、中国の社会に衝撃を与えている。

滴滴イメージ

中国最大の配車アプリ滴滴のドライバーが起こした殺人事件を巡り、中国が揺れている。

Reuters Pictures

被害者は21歳の客室乗務員

報道によると李さんはこの日、仕事で昆明から鄭州空港行きの航空機に乗務。鄭州駅に移動するために、滴滴の相乗りサービス「順風車(シュンフォンチャ)」を利用し、被害に遭った。

李さんは乗車後すぐ、ドライバーの言動に不安を抱き、メッセージアプリWeChat(微信)で同僚に「変態がいる」「ドライバーが私をきれいだ、キスをしたいと言ってくる」などとメッセージを送っている。

同僚は「夫と会話するようなふりをして」と返信し、実際に李さんに電話をしたものの、「大丈夫だから」と返され、それ以降連絡が取れなくなった。

何度電話しても応答がないことを心配した李さんの父親が、翌日警察に相談。家族の祈りむなしく、李さんは8日、遺体で発見された。遺体の下半身は何も身に着けておらず、性的暴行を受けた痕跡があった。また、ナイフで切られたと見られる傷が多数確認されたという。

滴滴は懸賞金をかけてドライバーの情報を求めたが、13日、鄭州市内の川でドライバーの遺体も発見された。自殺とみられる。

「顧客評価システム」で女性乗客の容姿シェア

滴滴の配車アプリは2012年に登場し、タクシーの乗車拒否や不透明な料金体系が横行する中国で、瞬く間に広がった。シェア自転車や出前アプリとともに、中国のシェアリングエコノミーをけん引する存在でもある。

だが今回の事件は、シェアサービスの根幹にある「安全」「信用」を崩壊させた。

滴滴はドライバーの登録にあたり、身分証明書や運転免許証の提出を求め、運転歴や車両の使用年数にも条件を課している。しかし、アプリに登録されている情報と、実際の車両やドライバーの情報が一致していないケースが多々報告されており、事件の容疑者も父親のアカウントを使ってサービスを提供していた。

didi広告

(左)乗客の容姿に対するコメントが並ぶ顧客評価システムの実態がネットに流出し、女性の怒りを買っている。(右)男女のデートを連想させる順風車の広告。

ミニブログ微博より

また、容疑者は過去、乗客からセクハラでクレームを受けていたにもかかわらず、滴滴は調査をしきれていなかった。

そして今回、私を含め多くの女性が憤ったのが、運転手が乗客を評価し、共有している「顧客評価システム」の実態だ。ネットに流出した顧客評価には、「美人」「ブス」など、容姿に関することが多く記載されていた。自分が乗った車の運転手にそんなことを言われ、共有されているなんて、女性を何だと思っているのだろう。

そう思えば、以前は気にしていなかったが、滴滴の広告は、ドライバーの男性と女性のデートを想像させるイラストと言葉が描かれている。

また、順風車のサービスに関するガイドラインには、乗客とドライバーの間で何が起きても、滴滴は責任を取らないと書いてあった。乗客が代金を支払い、滴滴はそこから手数料を徴収している以上、安全への責任を負っているはずだ。

割安料金で人気の相乗りサービス

運転手による殺人という大事件を受け、中国当局もさすがに、配車サービス業界の監督を強化する方針を表明した。そして滴滴も12日、相乗りサービスを一時停止し、業務改善に取り組むと発表した。

滴滴は、①正規のタクシーを呼ぶサービス、②Uberのように一般の車に乗せてもらうサービス、③一般の車に相乗りし、料金が安くなる順風車、④高級車のハイヤーサービス、⑤代行運転などのサービスを提供している。

スマホのアプリで車を呼べ、料金体系も透明な滴滴のサービスは本当に便利で、私もよく利用している。特に一般の車は正規のタクシーに比べて割安で、私たち若者には助かるサービスだ。私自身がこれまで出会ったドライバーはほとんどが親切で、優しく話しかけてくれた。たまに不愛想なドライバーもいるが、目的地まで送ってくれないことはなかった。

被害者と同世代の私は今回の事件にとてもショックを受け、それから一度も滴滴のサービスを利用していない。女友達(24)も、「これからはできるだけバスや地下鉄を利用する」と話している。ただし、私たちの声が世間の大勢かというと、そういうわけではない。

なくてはならないサービス、1週間で再開

didi改善後

(左)滴滴は業務再開にあたって、さまざまな措置を講じ、アプリで告知している。(右)プロフィール画像を個人が特定できないものに変えるよう求めている。

事件発生から2週間が経った5月19日、滴滴は相乗りサービス「順風車」を1週間ぶりに再開した。再開に先立ち、運転手による顧客評価システムを廃止し、午後10時から翌朝6時までは業務を提供しないなど、改善策も発表した。

業務再開後、顧客と運転手の双方には身分証明書の提出と顔認証を再度求め、プライバシーを保護するため、顧客プロフィールの写真を景色などの画像に変更するよう呼び掛けている。事件や事故を想定した保険制度も導入した。

順風車が業務を再開したと日本人の友人に話したところ、「こんな大きな事件を招いておいて、1週間で再開するなんて信じられない。日本だったら事業打ち切りになる」と驚かれた。

けれど、滴滴は中国人にとって、なくてはならないサービスになっており、滴滴のライバル会社も存在しない(出前アプリの美団が、今年配車サービスに進出したが、全国展開には至っていない。もし強力な競合企業があったら、状況は違っていたかもしれない)。サービスを停止している間、SNSでは再開を求める声があふれた。

事件後も以前と同じように滴滴を使っている知人はこう言った。

「滴滴は今回の事件を受け、真剣に反省し改革する必要がある。けれど滴滴のおかげで人々の生活が便利になったのも間違いない。滴滴が悪いと責めてばかりいても始まらない。子どもと同じで、信じて見守ることも必要だ」

(文・王夢夢、編集・浦上早苗)

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