オーストラリアのクイーンズランド州バンダバーグの北東80キロに位置する、レディー・エリオット島に沈む夕日と浜辺の乾いたサンゴの山。
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- オーストラリア上院がまとめた報告書によると、気候変動はオーストラリアに「進行中の、存在に関わる安全保障上のリスク」を突き付けている。
- 報告書は、アジア太平洋地域が気候変動に関するリスクに「最も弱く」、それが紛争の可能性を高めていると指摘する。
- オーストラリアは先進国の中で最も気候変動の被害を受けやすい国の1つだ。
オーストラリアでは5月17日(現地時間)、気候変動がオーストラリアに「進行中の、存在に関わる安全保障上のリスク」を付き付けているとする報告書が公表された。
この報告書は上院の外交・防衛・貿易委員会がまとめたもので、気候変動がオーストラリアの国家安全保障に及ぼす影響を検討した。その結果は衝撃的なものだった。
クリントン政権で国防次席次官補を務めた気候安全保障の専門家、シェリー・グッドマン(Sherri Goodman)氏は委員会に対し、気候変動は「オーストラリアの国家安全保障に直接的な脅威」をもたらし、「世界的な、存在に関わる危機」を生み出すと指摘した。
「あなた方の地域(オーストラリア)がいま経験している災害は、部分的には気候変動リスクによって加速されている。この問題は、遠い将来の話ではなく今の話だ」グッドマン氏は述べた。
同氏はまた、気候変動は「脅威を増倍させ」、既存の安全保障上の課題を悪化させると委員会に述べた。
政府および防衛関係者は委員会に対し、地政学的な課題や社会経済的な課題、水、エネルギー、食料、健康に関する課題といった安全保障上の課題は、紛争の可能性を高めると述べた。オーストラリア国防軍のクリス・バリー(Chris Barrie)元司令官は、7大陸の中で最も気候変動の影響による被害を受けるのはオーストラリアである可能性が高いとの評価を委員会に提出した。
加えて、アジア太平洋地域内の国々はこうしたリスクの影響に「最も弱く」、「存在に関わる脅威」に直面していると、報告書は指摘する。オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)の研究者たちは、気候変動がもたらした極端な天候が「強制移住や資源をめぐる紛争、食料や水の不足、さらなる環境の悪化、脆弱な国々のさらなる弱体化」を招くかもしれないという。
報告書はまた、オーストラリア政府に対し、アジア太平洋地域内で気候変動のリスクを軽減するための海外援助を増やすとともに、気候変動のリスクに協力して対応する包括的な計画を策定すべきだと提言している。
気候変動は太平洋地域の優先課題
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気候変動は、オーストラリアにとっての優先課題だ。なぜなら、先進国の中で最も気候変動の影響を受けやすいからだ。
二酸化炭素の排出量削減のための対策を実施し、2015年のパリ協定では2030年までにその排出量を26〜28%、大幅に削減すると宣言していた。しかし、最新の報告書によると、オーストラリアの排出量の削減は順調に進んでいるものの、大気汚染は過去5年間、毎年悪化している。
フランスのマクロン大統領は5月初め、オーストラリアのターンブル首相と会談し、「我々が行動を起こさなければ、太平洋の多くの国々が2、3年以内に完全に消滅してしまうリスクがある」と言って、気候変動を食い止めるための対策をすぐに取ろうと呼びかけた。
太平洋の他の国々も、気候変動の脅威に対抗する措置を取り始めている。
ニュージーランドは5月18日、インフラを強化し、気候変動による強制移住を防ぐため、太平洋の国々への支援を拡大、数百ドルを投じると発表した。
また、気候変動により太平洋地域で大量の難民が発生した場合の対策として、「気候変動ビザ」の発給も検討しているという。
[原文:Climate change is one of Australia's biggest national security risks]
(翻訳:R. Yamaguchi、編集:山口佳美)