落合陽一、林文科大臣に問う!「日本再興戦略には大学改革が必要だ」

今日本でもっとも注目を集める研究者、落合陽一筑波大学准教授。最近、メディアでその名前を見ない日はない。

その落合氏が大きな関心を寄せるテーマの一つが、「大学改革」だ。

自身も学長補佐として大学の運営に関わり、著書『日本再興戦略』の中では「センター試験をやめよ」と独自の提言を行っている。

一方、政府も「人づくり革命」の重点項目として「大学改革」を掲げ、林芳正文部科学相が副議長を務める「人生100年時代構想会議」を中心に、検討を進めている。

大学をどう変えていくべきなのか、落合氏と林文科相が議論を交わした。

林文科大臣と落合陽一筑波大准教授

人口が逆ピラミッド構造の大学

Business Insider Japan(以下、BI):近年、世界ランキングで日本の大学が順位を下げるなど、大学の危機が叫ばれている。現状をどう認識しているか。

林芳正文部科学大臣(以下、林):イギリスの高等教育専門誌「タイムズ・ハイアー・エデュケーション(THE)」のランキングを見ると、日本の大学は以前は国際性が低くて、教育の内容や成果など国内で完結する項目は高かった。それが現在、国際性は向上する一方で、これまで高かった項目が落ちてきている。良いところをキープしながら、国際性をどう強化していくのかが課題だ。

落合陽一筑波大学准教授(以下、落合):人口が増加している時は、研究室の数がどんどん増え、師匠(教授)も増えていく。それが逆向きになると、師匠の数は多いままなのに、手を動かす人が少なくなり、「逆ピラミッド構造」になってしまう。どの産業でも同じことが起きているが、アカデミズムの分野では特に顕著になっている。

東京大学

THE世界大学ランキング2018では、日本最高位の東京大学が過去最低の46位となり、低迷を続けている。

BI:国の財政難のため、国立大学に支給される「運営費交付金」が減り、研究費が足りず、人材が流出しているとも言われる。

落合:十分な研究費が与えられている研究室では、人材の流出はほとんどない。なぜなら日本は「ブルーオーシャン(=競争相手のいない市場)」だから。トップ国際会議に論文採録されるような、すごい良い研究ができる人は日本にはそう多くない。少数の研究室に研究費が集まり、そこではうまくいっている。

ただ、全員がそういう方向に行こうとしても、現実には難しい。大学の雑務が多すぎて、研究に集中できない人もいる。逆ピラミッドになると、若手のポストもなくなる。

その点、IT分野は産業側の要請がものすごく大きいので、状況が異なる。研究レベルのことができるアカデミックなエンジニアは特に必要とされていて、産業へ転身したり、研究所のようなベンチャーモデルを構築し、うまくいっている人も多い。

一律ではなく、一部の大学以外は自由に

落合陽一筑波大准教授

落合陽一筑波大学准教授・学長補佐

BI:大学の雑務が多すぎて研究ができないという現状に対して文科省はどう取り組むのか。

林:研究を補佐する教職員をいかに増やせるかが大事。科研費の中で、その部分の割合を増やすなど、すでにさまざまな取り組みが始まっている。予算の制約がある中でどこまで強化できるかだ。

あとは、学生をティーチングアシスタント(TA)みたいな形で活用できたらいい。それぞれの大学で試行錯誤しているようだが、うまくいっているところとそうでないところがある。一律で制度を変えるのではなく、うまくいっていないところの原因を探り、政策で後押しする形がいいだろう。

科研費とは:科学研究助成基金助成金/科学研究費補助金の通称。審査を経て独創的・先駆的な研究に対する助成を行う競争的資金。

落合:人口減少時代に入った今、大学も統廃合や淘汰がありうる。対象大学をしぼって研究力強化を支援する「リサーチ・ユニバーシティ」が文科省の事業として行われているが、 旧帝大など主幹のところだけ制度で決めて、他はある程度それぞれの大学の裁量で自由化し、民間との交流を含め好きにやってください、というようなスタイルの方が良いのではないか。

投資・支援の対象を全部の大学に広げると、制度や予算配分基準をキャッチアップしているだけで労力や時間がかかってしまう。そうではなく、規模を縮小したり半官半民にしたりして、タスクを減らす。そういうアプローチを取らないと、たぶん地方の国立大学は回らない。

国公私立の枠超えた持ち株会社型組織

林芳正文部科学大臣

林芳正文部科学大臣

BI:文科省は大学の統廃合を進めようとしている。

林:大学を3つの類型に区分しようとしている。1つは「指定国立大学法人」。これは世界の有力大学と伍して国際的に競争していく大学。それから、得意な分野を極める大学。最後に、地方における知の拠点となる大学だ。全ての大学が一律に世界のトップを目指すやり方は時代に合っていない。

すでに名古屋大学と岐阜大学が先行事例として走り始めている。お互いの強みを生かしながら、総務や財務、法務などの管理運営部門を共通化し、効率化を進めていこうとしている。

並行して「地域連携プラットフォーム(仮称)」を作る。地方大学は自治体と地域企業と膝を突き合わせ、どういう人材が欲しいのかをあらかじめ議論し、身の丈に合った人材育成を行う。

国公私立の枠を超えて「大学等連携推進法人(仮称)」という持ち株会社のような枠組みをつくって、連携を推し進めていく形も検討している。

落合:筑波大学には、特別研究事業でトヨタ自動車から企業の原資負担で教員として派遣されている人がいる。実は僕も、正規のポストを辞職して、自分の会社(ピクシーダストテクノロジーズ)から自分を派遣する形で教員をやっている。

これが面白いのは、企業に必要な人材を考えながら育てることができるところ。学生が社会の実問題が解けるだけでなく、(企業の研究費を使えるので)科研費などに比べ数倍のコストを数か月でかけることができる

ただし、そういうやり方を全部の会社と全部の大学に適用できるかというと、現実には厳しい。だが、地方の有力企業ならおそらくできる。都道府県でトップの数社は、地元の国立大学にラボ(研究室)を設置するくらいの余力がある。そこで育ったトップの学生には、絶対に自社に就職して欲しいと思うだろう。どのくらい仕事ができるのかあらかじめわかっているから、企業側のリスクも少ない。

地方こそ企業との連携を真剣に考えるべき

対談

産学連携が進んでいないのは「上の世代の教授のマインドも大きい」と語る落合陽一氏。

BI:理系は非常に想像しやすいが、文系はどうか。有識者の中には、哲学よりも簿記を学ぶべきだという意見もある。

林:いわゆる「リベラルアーツ」は必要だろう。人工知能(AI)がどんどん出てくる時代になればなるほど、本当に人間が考えるべきことは、倫理などになるのかもしれない。

では、そんな倫理を極めた人が、AIの設計がものすごくできる理系人材と同じように高待遇で採用されるかというと、難しい。

一方で、MBA(経営学修士)を持った人が企業の戦略を考え、大きな存在感を放つアメリカのような国もある。 日本の文系、とりわけ社会科学や経済学、法学は、もう少し企業側とニーズ合わせをした方が良いのではないか。

そういう意味では、産学連携も大学の一研究室と企業の一研究室の組み合わせに留まらず、大学全体と企業全体で組む、例えば東大と日立が連携するとか、そんな形があってもいい。理系がエンジニア人材を育てると同時に、法学部や経済学部がコーポレート部門の戦略を考えられる人材を育てる、といった重層的な育成ができるかもしれない。

落合:大学は遊休資産が多いので、ラボを設置するのは難しくない。企業にとって採用が楽になる上、新しい発見につながるコストは企業単独で研究するよりはるかに安くなる。大学をもっと、民間含め地域に開放的にしていくのはものすごく重要なことだと思う。トップ大学だけの話ではなく、敷地などに余裕がある地方の国立大学の方が、基礎条件は有利かもしれない。

BI:産学連携が進んでいかないのはなぜなのか。

落合:まず、半分は法律の問題。大学を独立行政法人化するまでは、そもそも(連携などを決める)自由がなかった。あとは、教授の「マインド」も大きい。

独法化した後に教員になった僕らの世代は、どうやったら新しいことができて、新しい価値を生み出せるかと考える。ところが、前の世代は公務員の考え方で、どうやってルールの中で安定した毎日を送れるかを考えている。世代間のズレは大きいというか、真逆のスタンスだ。だから、大学全体で舵を切ろうとしても、強力な反対に遭う。まずは意識改革が必要だ。

林:実は、国会議員になって最初に(国会で)質問したのが、産学連携の問題だった。当時はまだ人事院の中に「民間隔離の原則」というのがあった。民間とは、ごく一部の例外を除いてなるべく付き合ってはいけない、みたいな雰囲気があった。

それが23年前のことで、その頃の人たちがまだ現役でやっている。だから、中にはこのまま静かに定年を迎えたいという方もいるだろう。

ある私立大学で、民間企業から学長になった方と話す機会があった。他の教授たちとあまりにマインドセット(価値観)が違うから、「どうしてもっといろいろやろうとしないんですか」と聞くと、「そういうのが苦手だから、私は大学の教員をやっているんです」と返ってきたとか(笑)。そういうマインドセットは、やはり変えていく必要があると思う。

給与を業績ベースの変動給に

文部科学省

現在政府は「人生100年時代構想会議」で国公私立の枠を超えた大学統合など大学改革について議論を進めている。

写真:室橋祐貴

BI:若手の研究環境の悪化も指摘されている。現状をどう考えているか。

林:「卓越研究員事業」など、若手研究者の優遇施策はすでに数多く打ち出している。その中から業績を上げて、「ああいう風にできるんだな」というモデルになる人材が登場してくれたらと思う。落合さんがその良い例ではないか。

BI:業績を上げても、ポストが空かないために「テニュア(教職員の終身雇用資格)」を得られず、任期付では生活もままならないとの声を聞く。

落合:給与を変えれば良いだろう。テニュアの解雇はできないが、変動給にするのは意外とできるのではないか。教員の業績を単純に並べると、会議で一番権威のありそうな席に座っている先生が、意外と論文を書いていなかったりするのはよくあること。業績と給与が全然マッチしていない。

ただ、自分自身について言えば、テニュアを積極的に取ろうと思ったことはあまりない。産学の融合領域でイケてる研究者になれば、テニュアなど要らないからだ。逆にテニュアで「上がること」が必要なのは、イケてない研究者だと言っていい。

つまり産業とマッチしていて、自分のやるべきことがわかっている研究者にテニュアは要らない。そういう人は、研究予算を自分で取ってこれる。自分で自分の給与を生み出せる。理工系で起業しているアメリカの教員はだいたいそう。ただし、工学以外の他の分野では必ずしも成立する条件ではないので注意は必要だろう。

一発入試で決めるのがナンセンス

BI:大学改革について、他の視点はないだろうか。

落合:センター試験を見直す必要があると思う。大学の合否がセンター試験などのペーパーテストで決まる現行の制度は、格差を最も少なくする点では良いのかもしれない。面接や文化教養に関する小論文で決まるようにすると、小さい頃からコストをかけていろんな教育や経験をさせられる家庭とそうじゃない家庭で大きな差がついてしまう。

一方で、一律ペーパーで測った能力だけでは、研究の能力はほとんど分からない。偏差値が良くても研究ができない人はいて、そこには相関関係があまりないように思う

BI:センター試験は2020年から「大学入学共通テスト」に変わる。

林:記述式に大きく舵を切る。英語に外部の試験を導入するなど、高大接続改革を進めていく。最も大事なのは、検索エンジンで何でも調べられる時代になった今、細かいところまで何もかも覚える能力ではなく、ソリューション(問題解決)を発見するとか、アクティブに何かをやるとか、従来とは異なる能力が求められている現実を直視することだと思う。

それぞれの大学が偏差値で上から採っていくやり方ではなく、特徴を持った方法を取り入れていく形が良いのではないか。その場合でも、公平性確保の問題がある。論文や面接は採点者の主観が混じりがちで、そのあたりをどうするかは難しい。

落合:仲間うちの研究者の間では、よく「査読ガチャ」という言葉が使われる。査読者(=学術論文の査定をする教員、専門家)は同じ人が全て見るわけではないから。査読ガチャでも、何回か真っ当な論文を送れば「当たり」が出るというわけだ。でも、そんな気持ちで(良い採点者に当たるまで受け続けるまで)入試を受けたい人はいないだろう。

ひょっとしたら、一発入試で決めるのが、そもそもナンセンスなのかもしれない。1回しかないものだから公平性が大きな問題になる。2、3回にすれば、そこまで公平性にこだわる必要がなくなるのではないか。


林芳正(はやし・よしまさ):文部科学大臣、参議院議員。防衛大臣、内閣府特命担当大臣、農林水産大臣などを歴任し、2017年から現職。

落合陽一(おちあい・よういち):メディアアーティスト、博士(学際情報学/東京大学)。筑波大学准教授・学長補佐、筑波大学デジタルネイチャー推進戦略研究基盤代表。Pixie Dust Technologies,Inc. CEO。VRコンソーシアム理事。一般社団法人未踏理事。電通ISIDメディアアルケミスト。博報堂プロダクツフェロー。

(聞き手・室橋祐貴、構成・室橋祐貴/川村力、写真・今村拓馬)

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