ソニー吉田社長、収益力を強固にする3カ年をスタート —— Xperia赤字でも売却オプションは排除

ソニー本社

東京都品川のソニー本社ビルの会議場で、同社の今後3年間の方針を示す「第3次中期経営計画」が発表された。

ソニーは、5月22日に経営方針説明会を開催。2018年度から2020年度までの経営方針を示す「第3次中期経営計画」を発表した。その内容は、2018年3月期の決算発表で強調された「高い収益力を維持する」ための戦略といえる。

ソニー 吉田憲一郎社長

ソニー社長の吉田憲一郎氏。

会場には2018年度より社長に就任した吉田憲一郎氏が登壇。質疑応答では同日に発表された米国レコードレーベル・EMI Music Publishingの連結子会社化や、2018年3月期に減損損失を計上したモバイル事業に関する内容に集中した。

今回発表になった計画で示されたセグメント別の営業利益目標を合算すると、2020年度の営業利益は8000億円を超えることになる(金融分野を除く)。この3年間で、累計営業キャッシュフローは2兆円以上(金融分野を除く)、連結株主資本利益率(ROE)は10%以上を維持するとした。

事業方針のポイントは以下の通り。

  1. ユーザーに近いDTC(Direct to Consummer)サービスとクリエイターに近いコンテンツIPを強化する
  2. ソニーブランドのエレクトロニクス(ブランデッドハードウェア)を安定的なキャッシュフローを創出する事業とする
  3. CMOSイメージセンサーの領域で、イメージング用途世界No.1を維持。センシング用途でも世界No.1となる

EMIの連結子会社化で世界最大の音楽出版社に

ソニー EMI 連結子会社化のスライド

ソニーは、100%子会社のSony Corporation of Americaを通して、EMI Music Publishingの持分約90%を間接的に保有する見通し。

ポイント1の片翼を担う“DTCサービス”とは、同社のゲーム事業である「PlayStation」や金融事業である「ソニー銀行」などのユーザーと直接的な関係を持つサービスのことだ。

とくに、同社のゲーム事業は優良会員制サービス「PlayStation Plus」の会員数が3420万人(2018年3月末)を超える好調な分野だ。今後も、ユーザーエンゲージメントを基本指標として商品やサービスの展開をしていく方針だ。

また、“コンテンツIP”の強化については、音楽、映像、アニメ、ゲームの4分野が対象だ。音楽については、IP強化の第1歩として先述のEMI Music Publishingの連結子会社化が挙げられた。同取引が成功すれば100%子会社であるSony/ATV、ソニー・ミュージックエンタテインメントと合わせて、グループ内で230万曲を超える楽曲の権利を保有することになり、吉田氏は「名実ともに世界最大の音楽出版社のひとつとなる」と述べている。

Fateシリーズの多面展開のスライド

ソニーグループのアニプレックスによるゲーム・アニメ作品「Fate」の多面展開が、昨今のソニーの音楽分野を支えるひとつの柱となっている。

音楽事業に関してはIPの強化に加えて、メディアネットワーク事業での展開について触れた。これはひとつの作品をさまざまな媒体やビジネスに活用するということで、ソニー・ミュージックエンタテインメントの100%子会社であるアニプレックス管轄下にあるスマートフォンゲーム「Fate/Grand Order」の成功例を省みたものだ。

具体的な改善案は示されないが「Xperia売却」は否定

ソニーのブランデッドハードウェアのスライド

同社の認知度に大きく影響する「ブランデッドハードウェア」は、安定的なキャッシュフローの創出を目指す。

ポイント2にある、ブランデッドハードウェアとは、同社のテレビ「BRAVIA」や「ウォークマン」を担うホームエンタテインメント&サウンド事業、デジタルカメラの「α」や「サイバーショット」を担うイメージング・プロダクツ&ソリューション事業、スマートフォンの「Xperia」やISPである「So-net」を担うモバイル・コミュニケーションズ事業を合わせた分野を示す。

ソニースマートフォン分野の2017年度総括

ソニーのスマートフォンブランド「Xperia」のシェアは低下傾向にある。

出典:ソニー

これらの製品群のうち、最も大きな“荷物”となってしまっているのが、スマートフォン「Xperia」の不調だ。

IR資料によると、2016年度1460万台だった同社製スマートフォンの販売台数は、2017年度には1350万台まで落ち込み、収益に大きな影響を与えた。2018年度は1000万台まで下がると予想し、150億円の営業損失を見込んでいる。

ソニー 十時裕樹氏

ソニー 代表執行役EVP CFOの十時裕樹氏。

「モバイル事業に対して何からの立て直しが必要ではないか?」という質問に対し、同社の代表執行役EVP CFOの十時裕樹氏は「モバイルという事業をレバーのひとつとして持っていれば、今後の安定化に近づけられる」と回答。「モバイルを売却することは考えていない」(十時氏)とXperiaブランド売却の噂を明確に否定した。

エレクトロニクスとコンテンツの両方で「5G」の波に乗れるか

ソニーの5G時代の展開スライド

ソニーにとって、5Gはモバイルに限らず重要なキーワードだ。

出典:ソニー

同社経営陣が赤字を見込みつつも、モバイル部門から脱却しない理由は、日本で2020年を目処にスタートするとされている次世代通信規格「5G」にある。

5Gは現在の4G(LTE)での通信に比べ、通信の大容量化、低遅延化、多接続化といった特徴がある。そのため、5G時代には4Kや8Kでの映像中継や多数のIoTデバイスなどのセンシングおよびそのデータの収集が行われると予想される。

映像や音楽IPやコンテンツを制作する業務用カメラ事業などを持ち、さらに自動運転車などに代表されるCMOSセンサー分野のセンシング用途での成長を画策する同社にとって、5Gは必ず乗らなければいけない波だ。モバイル分野の研究・開発を続けることで5G時代へのスムーズな適応と、通信事業者との関係性の持続させたい狙いがあるわけだ。

ソニー 感動 スライド

ソニーは、吉田社長時代に突入するも平井前社長の唱えた「感動を提供する企業」でありつづけるという。

正直に評価すれば、今回の計画はとくに目新しい戦略があるわけではなく、非常に堅実で単調なものだったと言える。名称も第3次中期経営計画としており、吉田社長は「人々の“感動”を軸としているのは変わらない。それを突き詰めていく」と、2017年度までの平井社長時代から続く計画であると説明した。

(文、撮影・小林優多郎)

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