Nintendo Laboのブースは、今年のメイカーフェアの中で間違いなくもっとも行列の長いブースとなった。ピーク時は入場に2時間近くかかったという。
世界最大のDIY(Do It Yourself)イベント「メイカーフェア」は、アメリカ・ベイエリアで2006年に始まり、今は世界44カ国・190カ所以上に広がっている。始まりの地ベイエリアでは、今も来場10万人を超える世界最大のメイカーフェアが開催されている。
サンマテオ・イベントセンターにて、5月18日~20日の3日間で行われた「メイカーフェア・ベイエリア 2018」では、初めて任天堂が、Nintendo Labo特設のパビリオンを作る形で参加した。Nintendo LaboはDIYを楽しむ人たちに熱狂的に受け入れられた。ベイエリアでの様子をレポートする。
4月20日に発売された、任天堂の新製品Nintendo Labo。Nintendo Switchと連携し、工作しつつ学べる知育玩具。
動画:Nintendo
オバマ政権下ではホワイトハウスでも開催
世界最大のDIYの祭典・メイカーフェアでは、さまざまなスケールの工作物が集まる。
2006年から行われているメイカーフェアは、シリコンバレーの起業ブームや、個人の制作物がクラウドファンディング等のコミュニティの支援を得て世界的な製品となる「メイカームーブメント」の後押しを経て拡大しつづけている。
オバマ政権下では全米の中学校に3Dプリンタなどの工作機械を備えた工作室が作られ、ホワイトハウスでメイカーフェアが開かれた。オバマ大統領は、「今日のDIYは明日のメイド・イン・アメリカ」と、ホワイトハウスメイカーフェアでのスピーチで語っている。
トランプ政権になりホワイトハウスでの開催はなくなったが、アップルやグーグルを生んだアメリカのガレージ文化は今も変わらず、毎年5月にアメリカ西海岸のサンマテオ・イベントセンターで行われるメイカーフェアは、全米・全世界から多くの出展者・来場者を集めている。
大人気のNintendo Laboパビリオン
PIANOキットを組み立てる来場者たち。親も子も脇目もふらず、段ボール製のキットに取り組んでいる。
Nintendo Laboの出展は、最上位のGoldsmithスポンサーをさらに超えるPresenting Sponsorsとして、専用のパビリオンを構える大規模なものとなった。
パビリオンには多くのNintendo Laboが並び、実際に遊んで試すことができる。展示されているのは販売されているものと同じもので、メイカーフェアならではの特別品ではない。まだ販売されたばかりのNintendo Laboは、名前は知られていても触ったことのない人が多い。
Nintendo Laboの醍醐味の一つは、ダンボールのキットとして販売されているNintendo Laboを、ゼロから組み立てることだ。メイカーフェアに来るような人なら興味がないわけがない。パビリオンの中では机の上に乗り出して、夢中でキットを組み立てる子どもたちであふれていた。
振動コントローラを使ったロボットで遊ぶ来場者。Nintendo Laboはテレビゲーム機であるSwitchの遊び方を拡張する。
組み立て後のキットを遊ぶのももちろんNintendo Laboの楽しみだ。
詳しくは冒頭にリンクしたビデオを見てほしいが、Make・Play・Discoverの3つがキャッチフレーズになっているとおり、遊ぶ(Play)と遊び方の発見(Discover)も大きな部分を占めている。また、組み立て後のキットにも、色を塗ったりパーツを付加する楽しみがある。それは「TVゲーム」という枠を大きく超えるものだ。
不思議なことに、組み立てるシーンは明らかに子どもが中心だが、遊ぶシーンになると親も参加しているように見えた。
3日間のフェアを通じてパビリオンには長蛇の列が並び、もっとも待ち時間の長いブースとなった。
「Nintendo Laboとメイカーフェアには親和性がある」任天堂・オリハラ氏
右がオリハラ氏。メイカーフェアにもNintendo Laboの成功にも熱狂し、アツく語ってくれた。
今回の出展について、任天堂アメリカでプロダクトマーケティングを担当しているダニエル・オリハラ氏に、最終日の午後に会場で話を聞いた。3日間での手応えは充分に感じられたようだ。
Q. 僕は任天堂とメイカーフェアはどちらも大好きだけど、2つがつながるなんて思わなかった。夢のようだ。なぜメイカーフェアに出展を?
A. SwitchとNintendo Laboはまさにこのメイカーフェアと同じような楽しみを持って作られた製品だ。実際に開発したのは東京のチームなので、コンセプトの深いところは僕にはわからないが、ブースで触るみんなが楽しそうにしてるのはわかる。外の長い行列を見ただろう?あれが3日間ずっと続いているんだ!
Fishing Rodキットを組み立てる子どもたち。各テーブルには任天堂アメリカの社員がサポートについていた。
Q. 僕も3日間、メイカーフェアの会場にずっといて、何度もNintendo Laboブースの前を通った。間違いなく、大人気ブースの1つだ。なんでブースを?
A. Nintendo Laboとメイカーフェアに親和性があると知って、スポンサーシップについてイベントの運営チームと話し合う中で、専用のパビリオンを作って多くの人に実際に触ってもらう、このやり方を決めた。
実際、多くの人が行列を作ってくれた。それだけじゃなく、このパビリオンの中で、Nintendo Laboに触ったことでお互いがアイデアをシェアし、交流しているのがすばらしい。会ったこともない人同士が、Nintendo Laboを通じて、友達になっていくんだ。それはすばらしいことだ。
Q. 個人的な質問をするけど、君はこれまでメイカーフェアに来たことがある?
A. いや、今回が初めてだ。3日間いるので、会場をいろいろ見て回った。これは驚異的なイベントだ。ものすごくたくさんの人が、何もないところ、ゼロから作ったものを展示し、お互い楽しんでいる。
Nintendo LaboはNintendo Switchがあって機能するもので、楽しみ方のマニュアルもある。このメイカーフェアの会場に満ちている、ゼロから自力で作られたものとはちょっと違う。でも同じようにみんな楽しんでくれているのが、非常にポジティブな驚きだ。
Q. 僕はメイカーフェアが大好きなので、サポートしてくれて嬉しい。アメリカには他にもいっぱいメイカーフェアがあるし、僕は深センとシンガポールでメイカーフェアに関わっているけど、他のメイカーフェアにもスポンサードするつもりはある?
左のフロント・スケルトン・ロボットは日本から、右のロボットダンスパーティーはアメリカの名物出展者。
今回に関しては、ずっとパビリオンがいっぱいで、これまでNintendo Laboに触れたことのなかった人たちが長い時間楽しんでいてくれているので、イベントは大成功だと思う。
今後のことは、今回の結果を持ち帰って、たくさん会議をして決めるので、なんとも言えないけど、とにかくこの3日間は最高だった。
今後もいろいろなメイカーフェアでNintendo Laboを楽しんでもらえたら最高だと思う。今回は来てくれてありがとう。
作ることは、遊ぶことにもなりつつある
カップケーキ型の電気自動車から、IBMの量子コンピュータQまで、あらゆるカテゴリの工作物が並ぶ。
例えば楽器の演奏は、プロミュージシャンやBGM奏者のように仕事とする人も多くいるが、楽しみとして行う人も多くいる。庭をいじったり料理をしたりということも、仕事にも娯楽にもなりえる。
メイカーフェアは、そういう「自分自身の楽しみとしてのものづくり」を共有するものだ。趣味が高じてプロのミュージシャンになるように、プロデビューする人ももちろんいるが、それは「製造業への就職」とは似て非なるものだ。
Nintendo Laboはその「つくることの試行錯誤を楽しむ」を遊びにした製品だ。パビリオンでは子どもも大人も一緒になって、作ることとシェアすることを楽しんでいた。
思えば昔、ゲームはファミコンのある家に集まってみんなでやるものだった。試行錯誤し、失敗も含めて楽しむものだった。それは最先端の教育であるコンピューターが人間に勝つ時代の教育とは? 答えは超受験戦争地・香港にある等のテーマにも繋がる。
遊びも学びも仕事も、新しい時代を迎えつつある。
(文、写真・高須正和)