日大アメフト問題:中竹元早大ラグビー監督が語る「選手支配する虚像の恐怖」「指導者も観客も変わらねば」

日本大学

撮影:今村拓馬

日大アメリカンフットボール部の反則行為問題が注目を集めている。なぜ選手は「一線を越えた」のか。“グレーゾーン”もスポーツの醍醐味だと持て囃してきた私たちにも責任はないだろうか。

「日本一オーラのない監督」として早稲田ラグビーを2連覇に導き、コーチや企業のリーダー育成に携わる中竹竜二さんに話を聞いた。

恐怖コーチングを許して来たのは誰なのか

中竹竜二さん

中竹竜二さん。団体競技の監督経験者、指導者、1スポーツプレイヤーとして複雑な心境を語った。

撮影:伊藤有

5月6日に行われたアメフトの日本大と関西学院大の定期戦で、日大の守備選手が関学大の選手に悪質なタックルをして負傷させ、退場処分になった問題。監督・コーチは辞任、日大の選手も競技を辞める意思を発表しているが、反則行為に至った経緯には不透明な部分もある。

怪我をした関学大選手の保護者は警察に傷害容疑で被害届を提出しており、日大も第三者委員会を設けて調査する方針だ。

—— 日大は選手と内田正人前監督・井上奨コーチがそれぞれ会見を開きましたが、反則の指示についてなど、主張には食い違う点もありました。今回の件、率直にどう感じますか。

中竹:まず、日大アメフト部の組織に疑問があります。関西学院大学に謝罪したタイミングも遅すぎますし、会見での様子を拝見していると、真実を明らかにする仕組みそのものが機能していないように感じました。権力を持つと周囲からの助言がもらいづらくなることはありますが、それにしても……。

今回はたまたま彼(宮川選手)が当事者だったけれど、監督やコーチという絶対的な権力を持った人の下で、どんな指示でも従わなければならないという空気がチーム全体にあったのかもしれません。そういう組織の中にいると「プレイを辞めることは死を意味する」という、虚像の恐怖に支配されてしまうことがあるんです。

—— そういう場合はどうしたらいいんでしょうか。

中竹:こうした恐怖政治というか恐怖コーチングは今に始まったことではないと思うので、保護者や卒業生など、“その世界をすでに通過した人たち”が声を上げるべきだったと思います。「監督こわかったよね」と武勇伝のように語るのではなく、「あれはおかしかったよね」と問題提起できなかった過去の関係者たちも含めて、組織の問題ではないでしょうか。

スマホ時代には“理性を失った瞬間”も記録される

日大アメフト部のグラウンド

日大アメフト部のグラウンド。

撮影:今村拓馬

—— 選手本人が事前に思いとどまることは難しい、と。

中竹:その点は、1人のラグビー経験者の立場として、非常に残念です。監督やコーチからどんな指示があっても、まずはスポーツ選手として本当にやっていいことかどうか考えられたのではないか。選手として勝つために必要だと判断したとしても、人としての理性があれば、あんな反則プレイはできなかったはず。

日大の選手が、自分のしたことの大きさに本当に気づいたのはどのタイミングだったのか。退場したとき、試合後、報道やネットの反応を見て……。失敗を学びに変えて、今後こうしたことはいけないんだと主張できる人になって欲しいと思います。

彼自身もパワハラのようなつらい状況にあったのかもしれませんが、一番の被害者は怪我を負った関西学院大学の選手です。

—— 他大学や他の競技も含め、学生スポーツの世界では反則を取っても勝つことが推奨されるような雰囲気があるのでしょうか。

中竹:そういう空気が蔓延しているわけではありません。ただ、今回のように強豪校同士だったり、ここまであからさまなケースではなかったりして、見過ごされてきたものは過去にあったかもしれません。

昔は審判の判断にだけ頼っていたのが、撮影・録画されたビデオ映像(動画)を活用して判定を行うことが一般的になったのも大きいです。試合後もいくらでも検証が可能で、「見てなかったよね」「バレないだろう」ですまされる時代ではなくなっています。

この日大の問題をきっかけに、選手と監督・コーチとの関係性を見直すだけではなく、すべてのスポーツで(現代的な)理念や哲学を確立していく必要があると思います。

勝ち負け以上に大切なのは「誠実さ」と「考える力」

中竹竜二氏

撮影:伊藤有

中竹:近年、ラグビーで最も大切にしているのは「インテグリティ(誠実さ)」です。試合のルールを守り、ドーピングや賭博など規則違反をしないというのはもちろんですが、決まりごとだけではなく、人として、社会として“それは品位ある行動なのか”と常に考えるよう教育し呼びかけています。

例えばラグビーには「セービング」という、地面に転がってきたボールを確保するために体ごと覆いかぶさるプレイがあります。相手チームはボールを奪うために足でボールを蹴ろうとして、セービングをした選手を蹴ってしまっても反則になりません。

しかし、それをやってしまうと大怪我をしたり命に危険が及ぶ可能性もある。常にインテグリティを考えていれば、どんなに必死にボールを奪おうとしていても、相手選手の体が(足元に)入ってきた瞬間に、蹴り足の力を抜きます。その“一瞬”に、人としての判断ができるか、善意が働くかどうか。それが試合の勝ち負け以上に大切なんだと教えています。

こういう判断ができるかどうかは社会に出たときにも役に立ちますから。

「JRFU(日本ラグビーフットボール協会)戦略計画2016-2020行動指針」

Be Open・・・人々とつながり、社会に役立とう。
Play Globally・・・世界視点で考え、実行しよう。
Keep Integrity・・・常に真摯であり、誠実でいよう。

スポーツ界あげて「グレーゾーン」を議論すべき時が来ている

—— 今回の日大のようなことを繰り返さないためには、どうしたらいいでしょうか。

中竹:この一件をきっかけに反則などラフプレイに関する社会の目が一層厳しくなってくると思います。今まで「グレーゾーン」にしていたこともどんどん議論して、メスを入れた方がいい。

競技によっては、相手選手のユニフォームをつかんだり、実際よりも痛そうにパフォーマンスすることや、あるいは野球ではデッドボールをきっかけに乱闘のようになることもある。ラグビーでは笛が鳴った後にフィールドの内で胸ぐらをつかんで小競り合いになってしまうこともあります。しかも観客も含めて盛り上がったりするんですよね。「それも試合の醍醐味」「グレーゾーンがなくなると面白くない」と思う選手やファンもいるでしょうが、もうそんな時代じゃない。私は、やめた方がいいと思います。

インテグリティに反した指導をされ、(不誠実な行為が)許される環境に長くいると「このくらいよいだろう」という感覚がエスカレートしていく。その結果が、今回の日大のような事態にまで発展した、とも言えるかもしれない。ずるいことをして勝った過去を持つ人も多いかもしれませんが、過去は過去です。

これからは絶対にそういうことは許さないんだという決意を指導者、選手、観客、みんなが持つことが必要です。今が大きな転換点ですね。

(聞き手、構成・竹下郁子、伊藤有)


中竹竜二:1973年生まれ。早稲田大学人間科学部在学中、ラグビー蹴球部選手として全国大学選手権で準優勝。英レスター大学大学院を修了後、三菱総合研究所に入社。組織戦略に携わる。2006年、清宮克幸氏の後任として早稲田大学ラグビー蹴球部監督に就任。“日本一オーラのない監督”と言われるが、翌2007年度より2年連続で全国優勝。2010年、日本ラグビーフットボール協会初代コーチングディレクターに就任し、全国のコーチ育成に力を注ぐ。2012〜2014年にはU20日本代表ヘッドコーチも務める。企業のグローバルリーダー育成を独自のメソッドとして提供する株式会社チームボックスを設立。一部上場企業をはじめとする組織のリーダートレーニングを提供している。

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