「金は出しても口は出さない」シャオミ、現地を訪ねて分かった驚異のベンチャー育成術

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世界企業との提携で確実に世界企業としての名声を高めつつあるシャオミ(写真右は上級副社長の王翔氏)。

Reuters

世界で最も売れているウェアラブル端末をご存知だろうか。

アップルウォッチやフィットビットも有名だが、忘れてはいけないのが、中国の大手スマートフォンメーカー、小米科技(シャオミ)が販売する「シャオミバンド」である。発売から2017年末までに累計4500万台を売り上げた。多機能で高価格のアップルウォッチと単純に比較することはできないが、2017年第3四半期には出荷台数世界ナンバーワン(IDC Japan調べ)の座も手にしており、目が離せない存在だ。

スマホメーカーとして世界第5位につけるシャオミだが、前回記事で書いたように「世界最大のIoTプラットフォーム」(中国・招商証券のレポートより)という顔も持つ。ハードウェア・ベンチャーに出資、製品を自社のECサイト「小米(シャオミ)商城」と直営店で販売し、育て上げていく。この好循環を実現するエコシステムを展開している。

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累計販売数4500万台を突破した「シャオミバンド」のイメージ写真。

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シャオミバンドはそうした製品の典型だ。シャオミの名を冠する商品ながら、設計・製造はベンチャー企業の「華米科技(ホワミ)」が担当している。ホワミは、シャオミとタブレットメーカーの合肥華恒電子科技が共同出資し、2013年末に設立された。シャオミバンドの大ヒットで急成長を遂げ、今年2月にはニューヨーク証券取引所への上場も果たした

ごく初期のスタートアップ企業に積極的に投資し、販売チャネルや製造ノウハウなどのリソースを提供することで大きく育て上げるシャオミのエコシステム。その実態に迫るべく、筆者は北京にある同社出資のスタートアップ「視感科技(PopuMusic)」を訪問した。

「初心者向け楽器」に勝算を見出した創業者

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「視感科技(Popumusic)」創業者の張博涵氏。フォーブス誌が選ぶ「2017年 アジアで活躍する30歳未満の30人(30 under 30 Asia 2017)」に。

PopuMusic

PopuMusicは、初心者向けの楽器を作るメーカーだ。

設立のきっかけとなったのは、創業者である張博涵(ザン・ボーハン)氏のアメリカ留学だった。アメリカでは大学のキャンパスや公園で楽器演奏を楽しんでいる人が多い。その姿が衝撃的だった。中国で音楽演奏を趣味とする人はさほど多くない。これでは文化は育たない。楽器を愛する人を増やす必要がある、張はそう考えた。

2015年、張氏は理想を現実のものとするため、PopuMusicを立ち上げた。最初の製品はIoTギター「Poputar」だった。2017年にはIoTウクレレの「Populele」をリリースしている。

楽器はいずれもBluetoothでスマホと接続される。ネック部分にLEDが埋め込まれており、どの弦、どのフレットを押さえればいいのか、光によって教えてくれるので、スマホアプリに収録されている曲を簡単に弾き語りすることができる。

楽しさが伝わってくる「Poputar」のプロモーション動画。

Poputar Official Videos

まだそのレベルにも達していない初心者のために、コードを学ぶためのゲームも付いている。画面に「C」「G#」などコードが書かれたブロックが出現したら、その音を出すというシンプルな作りだ。まずはゲームでコードを覚え、その後に曲の演奏にチャレンジする流れである(動画を参照)。ちなみに、スマホをギター、ウクレレの調弦チューナーとして使える機能もある。

10時間で3600万円稼いだクラウドファンディング

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熊本県のマスコットキャラクター「クマモン」とコラボした限定版「Populele」も登場。

PopuMusic HP

PopuMusicがシャオミ・エコシステムに加わったのは2016年10月。シャオミと順為基金(シュンウェイファンド)、真格基金(ツェンファンド)の3社から、合計3000万元(約5億円)の資金調達を行ったのがスタートだった。

順為基金は、シャオミCEOの雷軍(レイ・ジュン)氏が創設したベンチャーファンドで、シャオミ・エコシステムに名を連ねる多くの企業に資金を提供している。ベンチャー投資でシャオミを支える別働隊といった役どころだ。

2017年2月にシャオミ・クラウドファンディングを通じてPopuleleを売り出したところ、わずか10時間で214万元(約3600万円)もの売り上げを記録。それ以上売れても生産が追いつかないため、クラウドファンディングを繰り上げ終了するという人気ぶりだった。この成功が認められ、シャオミ商城と直営店での販売が決まった。

シャオミ商城のサイトを覗くと、実に様々な商品が販売されていることが一見して分かるが、どんな製品でも受け入れているわけではない。セレクトショップとして、シャオミのユーザー層に「刺さる」製品、つまり一定数以上の販売が見込める商品を厳選している。PopuMusicも、クラウドファンディングという登竜門をくぐり抜けて、その仲間入りを果たしたわけだ。

資金のみならず、在庫リスクもシャオミが負担する

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シャオミが投資・育成する「視感科技(Popumusic)」のオフィス。

撮影:高口康太

PopuMusicの李維(リー・ウェイ)マーケティング・ディレクターは、シャオミからの支援についてこう語ってくれた。

「資金提供だけではありません。コストダウンのためのサプライヤー探しでも、シャオミの豊富なネットワークが生きました。何よりシャオミの販売力が大きい。今、私たちの販売ルートはシャオミが過半を占めています。買い上げ方式なので、在庫リスクもシャオミに負担してもらえるのです

ハードウェア・スタートアップに詳しい高須正和氏(メイカーフェア深セン/シンガポール)によると、「Hardware is hard」(ハードウェアは大変だ)という言葉があるという。ソフトウェア開発と違って、初期費用がかさむ、在庫リスクがある、不具合があってもソフトウェアならアップデートで修正できるが、ハードウェアではできないなど、問題が山積みだ。それらをクリアできずに、志半ばで討ち死にするベンチャーがいかに多いことか。

シャオミは「ハードウェアのインキュベーター(孵化器)を目指す」との言葉通り、資金力と販売力、さらには製造ノウハウを駆使して、未熟なベンチャーをサポートしているのである。

ベンチャー投資の見返りは「株式」ではない

しかし本当に驚くべきは、そうした献身的とも言えるサポートにもかかわらず、シャオミが見返りに取得した株式は少数にとどまり、PopuMusicはいまも独立性を保っていることだ。

ほぼ唯一といってもいいシャオミからの要求は、「ハードウェアの利益率を5%以下に抑えること」だった。雷軍CEOが強調するシャオミのポリシーである。コストパフォーマンスに優れた製品でユーザーを獲得し、その後に広告やサービスで利益を上げる。ハードウェア製品はいわばユーザー獲得のための入り口であり、このセクターで稼ぐ必要はないのだ。

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シャオミの家電(写真は炊飯器の展示)は販売台数を伸ばすだけでなく、ブランドとして世界中の注目を集めつつある。「グローバル・モバイル・インターネット・カンファレンス2016」の会場にて。

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このシャオミの思想は、PopuMusicにも通底するものだった。

「私たちの製品の中核は楽器単体ではなく、楽器とソフトの一体的運用です。将来的にはソフトウェアが中心となります。雑音がある場所でも正しいコードで弾けているのかを正確に判定できる技術こそが、私たちのストロングポイント。ハードではなく、ソフトが中核という思想が共通していたので、シャオミの要求は難なく受け入れられるものでした」(李維氏)

あまりの人気で量産が追いつかない

飛ぶ鳥を落とす勢いのPopuMusicが、今直面している課題がある。量産体制の構築だ。

「楽器の製造は想像以上に難しい。手作りの工程が多いからです。日本の大手楽器メーカーの中国工場を視察させてもらいましたが、先進的な製造管理を行っている彼らですら、工程の40%は人間が担っています。私たちはまだ及びもつかない状況ですよ」(李維氏)

最初期に比べると、生産台数は約3倍の月6000台にまで達したが、シャオミが求める数にはまだまだ及ばない。その上、世界中から販売代理店になりたいという要望が押し寄せている状況だという。

年末には広東省深セン市で自社工場の操業を始める。次期モデルでは、量産に配慮した設計を取り入れる予定だ。それも一朝一夕で解決する問題ではない。

PopuMusicが量産に苦しむ姿は、シャオミのそれとも重なってみえる。シャオミのスマホはフラッグシップモデルを出すたびに売り切れ、品薄が続き、一種の「飢餓商法(=出荷量を意図的に減らして、ユーザーの購買欲を煽る手法)」ではないかと揶揄されてきた。しかし、筆者が見たところでは、あまりの売れ行きに製造管理が追いつかないというのが現実ではないか。

生みの苦しみと向き合いながら、PopuMusicもシャオミも、製造ノウハウを蓄積し、改善を続けている。この問題を解決することができれば、さらなる飛躍が期待できそうだ。


高口康太(たかぐち・こうた):ジャーナリスト、翻訳家。 1976年生まれ。二度の中国留学を経て、中国の経済、社会、文化を専門とするジャーナリストに。雑誌、ウェブメディアに多数の記事を寄稿している。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』『現代中国経営者列伝』。

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