日本でも人気を集まる「ベースフード」の完全食「ベースパスタ」。厚生労働省が定める人間に必要な栄養素31種が麺に練りこまれている。
食品・飲料のビジネスをテクノロジーで変革する「フードテック」が日本とアメリカで注目を集めている。
アメリカでは、ベンチャーキャピタル(VC)がフードテック・ベンチャーへの投資を拡大する一方で、食品・飲料分野におけるM&A(合併・買収)は過去5年で著しく増加。国内でも、日本のフード系スタートアップへのベンチャー投資に勢いが増している。
日本のフードテック・ベンチャーの先頭集団を走るのが、「完全食」のパスタを作るベースフード社。(※注1)
2018年2月、スタートアップの登竜門と言われる「スタートアップ・カタパルト」(ICC FUKUOKA 2018で開催)では、1位にmellow社のフードトラック・プラットフォーム「TLUNCH」に続き、ベースフードの完全食は2位にランクインした。
※注1 栄養素等表示基準値に基づき、脂質・飽和脂肪酸・n-6系脂肪酸・炭水化物・ナトリウム・熱量を除いて、すべての栄養素で1日分の基準値の1/3以上を含む。
日本の完全食が米国に進出
スタートアップ・カタパルトでプレゼンをする橋本舜代表。
出典:ICCパートナーズ
橋本舜代表(30)が率いるベースフードは、2017年に完全食パスタ「ベースパスタ」の製造を開始。ベースパスタには、厚生労働省が定める人間に必要な栄養素31種が麺に練りこんである。販売はeコマースを活用した。
ターゲットは30〜40代のビジネスパーソンで、すでに10万食を売り上げ、2018年7月にもアメリカでの発売を計画している。シリコンバレーの製麺所で製造し、原材料も現地調達するという。
外食や自炊でもバランスのとれた食事を取ることは難しい。「(ターゲット層は)仕事の進め方は詳しいのに、根本的な食事がおざなりになっている。こんなガラ空きの分野があるんだ」と橋本さんは言う。
年間200件のフードテックに投資
海外におけるフードテックの投資案件と投資規模の推移。2014年以降、急激に成長している。
CB insightsのデータより。
ベースフードは、アメリカで2013年に販売が始まった完全食飲料「ソイレント」に発想の原点があるという。アメリカではソイレントの発売翌年の2014年ごろから、フードテック分野がベンチャーキャピタルから注目を集めた。
国内ベンチャーキャピタルのグローバル・ブレインは、こうした盛り上がりを受け、フードテックの分野に投資を決め、2017年にベースフードに1億円を投資した。グローバル・ブレインによると、アメリカなどの海外で2014年以降、VCによるフードテックへの投資は、件数・金額ともに急拡大し、2017年の投資案件は200件を超えた。
一方、アメリカの食品と飲料の分野におけるM&Aは、2016年第三四半期から120社近くの実績が出始め、2017年第三四半期に、180社を超えている。「すでにブランドが確立している、比較的大きな規模の企業が買収された」(同社資料より)。
アメリカにおける食品・飲料分野のM&Aの実績。2017年以降、各四半期で150件以上のM&Aが続いている。
CB insightsのデータより。
世界の大手VCにおいても食品・飲料分野での資本投下が目立つ。例えば、GV(グーグル・ベンチャーズ)は、ブルーボトルコーヒーや植物性タンパク質で作られた植物肉のハンバーガー「インポッシブル・バーガー」などに投資している。海外食品大手もCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)を組成して、ベンチャー投資を活発化させている。子会社にハーゲンダッツを持つアメリカの大手食品会社、ゼネラル・ミルズ(GENERAL MILLS)は2015年10月に、キャンベル社やケロッグ社は2016年にCVCを設立している。
ECを通じてブランドを確立できる
食品のスタートアップが注目を集める理由は何か?
グローバル・ブレインでベンチャーパートナーを務める木塚健太さんは、「(化粧品や食品など)消費財の分野では、ブランドを理解しやすく、M&Aに向いている」と話す。また、日本の強みは「OEM(委託製造)が多い。企画とアイデアがあれば、ブランドを立ち上げられる。eコマースを利用することで流通コストを下げられる」。
「パスタのみ、スムージーのみ」といった単品商材が可能で、加工食にすれば、越境ECで海外にも輸出できる。 「マーケティング、企画力があれば、ブランドをつくりやすい。地域のご当地商品のように少量多品種の製造ができ、スタートアップがパイを増やしやすい分野だ」と木塚さんは言う。
製造は地方の空き工場に委託
スナックミーの服部代表。同社は、地方の中小菓子メーカーに製造を委託、地元の菓子も取り扱う。
「中小企業の工場の空き時間を使って、ベンチャーでも製品が作れる」と話すのは、「スナックミー」(snaq.me)の服部慎太郎代表(37)。
スナックミーは、個人の好みにパーソナライズした菓子を定期的に届けるサービス。8種類の菓子をボックスに詰め、種類は170種類、累計600種類に上る。
菓子のレシピは自社で開発し、製造は主に、地方の中小菓子メーカーに委託する。工場は、北海道から九州の全国30カ所以上に点在する。
地元メーカーの商品もスナックミーに取り入れ、「地方には良いものを作っていても、売り先のマーケティングができないメーカーがある」(服部さん)。製造を委託する代わりに、同社が一部販売を担い、win-winな関係を地元と築く。
SNS、オウンドメディアでブランド化
スナックミーは、インスタ映えするパッケージで、SNSを通じて顧客を獲得している。
スナックミー、ベースフードともに、ブランディングはインターネット上で行う。
スナックミーは、「インスタ映え」するパッケージで、SNSを通じた口コミで顧客を獲得した。2016年2月のサービス開始から、現在は数千人が利用する。菓子のパーソナライズは、自社サイトで簡単な設問に答えたり、テイスティングボックスの中身を評価したりして、判定する。
「ソーシャルでブランドを作れる時代」と服部さん。個人の好みに関するデータを収集し、「*zozosuitのお菓子版」になることを目指しているという。
zozosuitとは:体型のデータを計測するボディスーツ。ZOZOTOWNを展開する「スタートトゥデイ」が扱う。同社は、zozosuitで測った体型データに基づき、プライベートブランドのTシャツとデニムを販売する。
前出のベースフードは、自前のオウンドメディアを持ち、ブランディングに磨きをかけている。オウンドメディアで、オススメの食べ方や美容・健康の情報を発信し、ファンを獲得する。
小さな企業でも物流や製造へアクセスすることができるようになり、起業をしやすくなったフードテックの分野。
「スーパーの棚は大手が抑えている。だから革新的な新商品が出てこなかった。 今はスーパー以外の棚で売れる」と橋本さんは言う。
「世界を見ている人が、(食分野のスタートアップを)いち早く始めている。日本には美味しいもの、健康なものがある。日本のフードテックが世界で大化けするかもしれない」
(文、撮影・木許はるみ)