学生たちは、学業とフルタイムインターンをどう両立させるのか。企業から求められるのは、授業、サークル、バイトではなく、就労経験という。
REUTERS/Toru Hanai
学生時代に頑張ったことは?
面接で聞かれる定番の質問を、学生に投げかけてみた。「就活」。外資系コンサルで選考中の女子大生(21)は答えた。
就職活動は選考・面接の解禁時期が変わり、短期化しているはずだが、実は「就活に大学生活が奪われる不安」を持っている学生は少なくない。選考を左右するインターンシップが長期化していたり、厳しい就労条件になっていたりするためだ。
就活の“前哨戦”となるインターンシップの情報が6月1日から大手就活サイトに掲載される。2020年卒の就職活動が幕開けしようとしている。
平日週3以上のフルタイムインターン
学生時代に頑張ったことは「就活」という学生。
出典:Getty
「どこの業界に行きたいか、固まっていないので、インターンシップをしてみたい」
学習院大学3年生の女性(20)は、インターンシップの選考を4月ごろから受けている。これまで4社ほどのインターンの選考を受けた。
女子学生は、ワンデイのインターンよりも、長期の有給インターンを探す。しかし、目にするのは、「平日の昼間、週3以上、4時間以上」という求人ばかり。あらかじめ、授業を夕方にまとめて、インターンを経験できるよう調整した。「学生の本業は学業なのに」と正直、複雑な心境だ。
ある企業では「SNSのフォロワー数」「参考にしているインフルエンサー」を聞かれた。「こんなところ見ているんだ」と少し落胆している。
この女性が興味を持った人気企業は、3カ月間のフルタイム勤務のインターンを募集していた。「『学生は暇だよね』と言われるけど、そんなことありません」(女性)。授業やバイト、就活、課外活動と忙しい。フルタイムのインターンに時間を割くために授業時間の調整だけでなく、時間のやりくりに頭を悩ませる。
一方で、労働力として期待されていることも感じる。「ベンチャーは学生は人件費が安いし、使える人材だと思っているのかな」。
4月末には、就活のガイダンスが学内であり、就活が始まることを意識せざる得ない。インターンをしながら、就活にも臨む。「大学生活を奪われる不安がある」と複雑な心境のまま、インターンに突入しようとしている。
休学してインターンシップ
半日から1週間程度のインターンが全体の大半を占める。
出典:ディスコキャリタスリサーチ、インターンシップに関する調査
上記のような就業条件を企業が課す理由は、「働くことを経験するため」とWantedly広報の小山恵蓮さんは話す。同社は、インターンシップ生に「週3日以上」「週24時間以上」の就労条件を設けている。さらに法政大学とは提携し、長期インターンシップの単位化にも取り組んでいる。
「週2回になると、学生にお願いできることが限られて、アルバイトと違った実務経験ができない」と小山さん。
長期インターンシップをする企業は、ディスコキャリタスリサーチによると、2週間以上で全体の6.1%。1カ月以上は1.7%とまだまだ少ない。しかし、小山さんは「売り手市場で、企業は学生と接点を増やすために長期インターンの導入が増えている」という。
長期インターンは、2014年ごろからスタートアップを中心に求人が広まり、現在はエンジニアのほか、マーケティングやセールスの部門で募集が増えている。
学生の中には休学してまでインターンに臨む人もいるという。「休学して働くことを経験してからキャリアをどうするか考える学生が出てきている。地方の学生はインターン先がないので、休学して東京に住んでインターンシップをすることすらある」(小山さん)。
授業中に仕事をする学生
インターンの実施企業、参加学生ともに増加傾向にある。
出典:ディスコキャリタスリサーチ、インターンシップに関する調査
1週間以上のインターンの経験時期は、「大学2年生以前」「大学3年7〜9月」に多く、早期の傾向にある。
出典:リクルートキャリア就活みらい研究所「就活白書2018-インターンシップ編-」
「僕も半年休学して、インターンをしていました」
ある就活支援サービスで働くAさんも、自身の経験をそう振り返る。
Aさんが就活した10年ほど前は有給の長期インターンシップは珍しかったが、「2020年卒の大学3年生を見ていると、特に首都圏の上位校の学生の間で、長期インターンをする学生が増えている」と実感する。
学生たちの話を聞いていると、週に2、3回のインターンシップでも、「よりコミットしたい学生はノートを開いていても、仕事の企画を立てていることもある。それでも単位を取るのは比較的簡単」だと感じる。
就活で一番評価されるのが、就活そのものやインターンシップだという現状では、学生が授業やサークル活動などを頑張っても、就活の“成果”にはなかなか結びつかない。「より仕事に近いインターンシップをやった方が就活はうまくいきます」というのがAさんの実感だ。
もはや大学の意味とは?とAさんに尋ねてみた。
「企業の中には旧帝大はA、マーチはBとランクを分けて、接触をしているところがある。学生は、大学のブランドを取りに来ているのでは」
ブラックインターンに気付かない学生
バイト、パートがする業務の一部を経験するインターンも少なからずある。
出典:リクルートキャリア就活みらい研究所「就活白書2018-インターンシップ編-」
「フルタイムで月65万円」
そんな高時給のインターンシップが、外資系の金融などにある。
外資就活で掲載するインターンシップの倍率は3〜100倍。高時給や人気企業は倍率が高い。
特に外資系は、春休みや夏休みのインターンシップで内定を出すこともある。インターンシップが実質、選考になるため、「オフィスに泊まり込み、寝袋を持ち込んでインターンしている学生もいた」(ディスコ広報)。
インターンシップが増える中、 「時給は最低1000円を出さないと(学生は)来ません。業務として戦力になるので、バイトよりも時給が高い」と前述のAさん。学生はユーザー感覚に近い上に、即戦力になるからだ。ディスコ広報によると、時給のボリュームゾーンは1500円とやや高めだ。
だが、「社員やバイトと同じ仕事をしているのに、無給」。そんな“ブラックインターン”もある。
ディスコによると、ホテル・旅館業で働いていた学生の相談事例だ。自分のキャリアに役立つと思っていても、いつの間にかバイトと同じ仕事をしている。褒められたり、モチベーションを上げてくれたりするので最初はピンとこないが、後々に労働力の搾取だと気付くという。
ディスコキャリタスリサーチの武井房子さんは、「インターンシップ全体が2016年卒あたりから増え、黒いインターンが増えた側面があるかもしれない」。ただ、「今、ブラックインターンがあれば、炎上してしまいます。ブラック企業の烙印を就活生に押されると終わりです」(同社広報)。
(文・木許はるみ)