ゲッティイメージズがモデルへのハラスメントを禁止、カメラマンは言動で評価される時代へ

2018年4月、報道や広告用に写真や映像を提供するゲッティイメージズが、モデルやタレントなど被写体へのハラスメントを禁止する新たな規定を発表した。カメラマンなど撮影者との権力関係にまで踏み込んだ画期的なものだ。背景には世界中で高まる「#MeToo」の動きがある。

カメラマン

芸術の名のもとに、搾取やハラスメントが見過ごされてきたことはなかっただろうか。

shutterstock/number-one

言動も作品と同じくらい大事

この新しい規定は、4月4日頃から世界中のゲッティイメージズで作品を販売するクリエイターなどに向けて「コントリビューター行動規範」としてメールなどで送信された。

制作の場における言動は、完成作品自体と同等に重要」だとし、「モデル・タレントが不快と感じたり、ハラスメントであると感じる、またはハラスメントの告発につながる環境に置かれないよう」にと呼びかけている。以下は規範の一部だ。

「モデル・タレントに求める仕事内容について、本人から明確な同意を得てください。また、モデル・タレントに、あなたが意図している作品のテーマ、および作品がどのように使用される可能性があるか明確に伝えてください」

「裸、透ける衣服、下着、水着、ドラッグやアルコールの使用を連想させるもの、暴力を連想させるもの、性的に刺激的なポーズ、またはその他注意を要するテーマの撮影を行う場合は、事前にモデル・タレントから承認を得てください」

「モデル・タレントが不快に思っていないと推測で判断しないでください。常に気を配り、不快に感じていないことを確認してください」

クリエイティブの名のもとにすべてが許されるわけではない

マーチング

#MeTooは広がり続ける。

shutterstock/SundryPhotography

ゲッティイメージズは1995年創業。アメリカに本社を置き、世界100カ国以上で写真や映像などを提供・管理するデジタルコンテンツの世界大手だ。コンテンツ提供者は20万人以上。その素材は提携する多くの報道機関や、企業の広告などで使われている。

これまでもモデルやタレントなど被写体に対して肖像権や使用目的などの権利関係に同意してもらう許諾書はあったが、ハラスメントについては触れていなかった。上記の内容はこれまで同社で撮影会をする際にカメラマンなどに口頭で伝えていたようなことを改めて規範にしたものだという。違反した場合は契約を破棄する可能性もあるとし、通報窓口も設けている。

ゲッティイメージズジャパンの社員は数多くの撮影に立ち会ってきたが、カメラマンの中には撮影に集中するあまりモデルの気持ちに注意が向かなくなる人もいて、その度に注意してきたという。

同社の島本久美子社長は言う。

「この規範を守ることで、みなさんが気持ちよい環境で撮影できることを願っています。カメラマンの方からは『こういうことが大切だったんだね』と初めて気づきを得たという声や、『今までとても気にしていたから、よくやってくれた』と賛同していただく声が多いです」

規範の中には「メディアが報じている最近の出来事からも、弱い立場にある人を守る必要性が示されています」という一文がある。これは、ハリウッドの大物プロデューサーであるハーヴィー・ワインスタインのセクハラを女優たちが告発したことに端を発した「#MeToo」運動のことなどを指している。

モデルの体型修正をした写真は取り扱わない

島本久美子

ゲッティイメージズジャパンの島本久美子社長。

撮影:竹下郁子

日本でも2018年4月1日、写真家のアラーキーこと荒木経惟さんのモデルをつとめていたKaoRiさんが書いたブログが話題になった。契約書も交わさないままヌードや普段の様子を撮影され、事前の相談もなく写真集が出版されたと告白したのだ。仕事かどうかも曖昧で、報酬もなく時間を拘束されることも多かったという。

ゲッティイメージズの規範には、以下のようなものもある。

ビジネス上の関係と個人的な関係の区別は常に明確にしてください」

そして、モデルとカメラマンの間にはハラスメントが起きやすいパワーバランスがあると強く指摘する。

「一般的に、フォトグラファーとモデルの関係など、誰かが相手のキャリアに影響を与える可能性がある場合は、力関係の不均衡が発生します。力関係の不均衡はどのような場面でも必ず存在します。撮影者は自らが影響力を持つ立場であることを認識し、誤解が生じたり、利益供与が意識されたりすることのないよう十分に注意してください」

「感じ方は人によって違います。フォトグラファーはただルールを守ればよいということではなく、モデルを尊重して確認を取りながら撮影してほしいです。私たちは常にグローバルで最も厳しい基準に合わせています。モデルに気持ちよく仕事をしてもらうのはもちろん、私たちの写真や映像を使う報道や広告関係者などお客さまにも安心してほしいからです」(島本さん)

2017年、フランスで極端に痩せたモデルの活動を禁止する動きに伴い、モデルのデジタル写真を修正した際は必ずそのことを記載しなければならないという法律ができた。ゲッティイメージズもすぐにモデルの体型を修正加工した写真の取り扱いを禁止している。

会社員は多様なのに働く女性はステレオタイプな日本

女性

2007年「女性」というキーワードで最も多くダウンロードされた写真。

stbd4sh9-11,Stephan Hoeck/Getty Images

同社はこれまでも女性のエンパワーメントに力を入れてきた。2013年からFacebookのCOOシェリル・サンドバーグ氏が立ち上げた女性支援団体と共に「 Lean-in Collection」を開始。タトゥーのある腕で赤ちゃんを抱く母親や、家事・育児をする男性などステレオタイプな女性像・男性像を打ち破る写真を集めている。

社会も変化しており、女性で最も多くダウンロードされた写真は、2007年はタオルに包まれ横たわる女性だったのに対し、2017年はハイキングしているスポーツウェアの女性だった。

今、島本さんが日本の課題だと感じているのが「働く女性」のイメージだ。海外ではエンジニアやデザイナーなどが幅広く使用されているのに対し、日本はオフィスで会議をしているような、いわゆる「OL」の写真がいまだに多いという。

女性

2017年に最も多くダウンロードされた女性の写真。

586653711,Jordan Siemens/Getty Images

一方で、男性像は海外に比べて多様性があるそうだ。悩んでいたり肩を落としていたり、「マッチョ」イメージではないものも多く使われている。

「 メディアや広告主にも偏りがあると感じます。家でリモートワークをしている母親の横に赤ちゃんがいたり、エンジニアや車の整備士、土木工事の現場で働く女性など、いろいろな職場で働く女性の写真を使って欲しい。働く女性=OLではそれ以外のイメージが持てなくなってしまいます。そのためにも私たちはこれからもステレオタイプではない写真を多く提供していきたいですね。コンテンツの中でどういう風に女性や家族を表現するか、大きな社会的責任があると感じています」(島本さん) (文・竹下郁子)

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