迷走続く米朝首脳会談の背景とは——「中国の影」とトランプ側近同士の確執

朝鮮半島情勢が半日ごとに転変し迷走している。

トランプ大統領は5月24日、米朝首脳会談の中止を発表。慌てた北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は26日に韓国の文在寅大統領と南北首脳会談を開き、米朝会談に「確固たる意志」を表明すると、トランプ氏も予定通りの開催姿勢に戻った。

いったい何が超大国のリーダーを迷走させているのか。注目すべきは、北朝鮮の主張を支持し、「後見役」として影響力を強める中国の存在である。

金正恩朝鮮労働党委員長と習近平国家主席の会談

米朝首脳会談を前に2回目の習近平氏との会談に望んだ金正恩氏。中国に傾斜する姿勢に、トランプ氏は警戒感を強めている。

KCNA/via REUTERS ATTENTION EDITORS

「世界一流のポーカープレーヤー」と習氏を批判

トランプ氏は中止理由として、

  1. ペンス副大統領を「マヌケ」とののしった北朝鮮外務次官談話は「敵対心の表れ」
  2. シンガポール予備会談に北朝鮮は人員を派遣せず
  3. 豊渓里(プンゲリ)核実験場爆破に専門家を立ち会わせず

を具体的に挙げた。どれも本当だろう。特に①の挑発発言は大統領の性格からみれば「カチンときた」に違いない。

米朝首脳会談開催に暗雲が立ち込めたのは、強硬派のボルトン大統領補佐官が、非核化の方法として、完全な核放棄の後に経済制裁緩和を実施する「リビア方式」に言及したのが契機。リビアのカダフィ政権は核開発を放棄した後に崩壊した。北朝鮮は猛反発し、金桂冠第1外務次官が16日、首脳会談取りやめを示唆した。

このころから、トランプ発言に「中国の影」がつきまとい始める。これまでほめちぎってきた中国の習近平国家主席を「世界一流のポーカープレーヤー」と皮肉った。5月7、8の両日、大連での2回目の中朝首脳会談後からの「北朝鮮の態度変化は、中国が影響力を行使したため」と言わんばかりに、「習介入」を批判したのだった。

側近ポンペオ氏とボルトン氏の確執

ポンペオ氏と金正恩朝鮮労働党委員長の会談

トランプ政権内でも北朝鮮を巡っては側近の対立が続いていると見られている。

KCNA/via REUTERS ATTENTION EDITORS

迷走させたもう一つの要因は、トランプ氏自身の性格と側近同士の確執。トランプ氏自身はシンガポール会談に前のめりだった。3月8日、韓国高官から正恩氏が会談を持ちかけたと聞かされ、「直感で」受け入れた。「ノーベル平和賞」というおだてにまんざらでもない表情を見せ、北朝鮮に核放棄を実現させれば「歴代大統領の誰もやったことがない」と自慢できる。

低迷する支持率が上がり、秋の中間選挙にもプラスに働くチャンスだ。この間の外交駆け引きで、拘束されていた韓国系米国人3人の解放と、豊渓里の核実験場の「廃棄」という果実も勝ち取った。

側近同士の確執とは、正恩氏と二度会談したポンペオ国務長官と、「先制攻撃は当然」と主張するボルトン大統領補佐官の対立だ。会談中止は「ポンペオ氏の対話路線が気にくわないボルトン氏が巻き返した結果」とみる米政府関係者は少なくない。

中朝の同盟復活はない

中国・北朝鮮間の国境

中朝国境付近では、経済制裁期間中にもかかわらず人と物の往来が活発化してきたという情報もある。

REUTERS/Damir Sagolj

中国の影響力に話を戻す。

確かに2回目の中朝首脳会談以来、中朝両国の改善と緊密化に拍車がかかっている。朴泰成朝鮮労働党副委員長ら党地方組織のトップが参加する参観団が14日から10日間にわたり、上海や西安、杭州を訪れハイテクや農業などを見学、習主席や地方政府トップとも面談した。正恩氏は4月の党中央委総会で経済建設に集中する新路線を発表。参観団も「全ての力を経済発展と生活の改善に注ぐ」と表明したという。中国が北朝鮮の経済発展を側面支援する姿勢は明らかであろう。

中国は2017年9月、国連安保理が採択した北朝鮮への経済制裁を厳格に実行していると自負してきた。事実、中国の北朝鮮からの輸入は大幅減が続き、1~4月の輸入額は前年同期比87%減。一方、ここにきて中朝国境地域では人や物資の往来が活発化し、中国側には輸入禁止の北朝鮮産商品が並び、制裁にほころびが見え始めているとの報道もある。

しかし関係改善が進んだといっても、1960年代のような「同盟関係」が復活するわけではない。北朝鮮は2017年5月から中国への名指し批判を始めた。一方、9月9日の北朝鮮建国記念日では、習氏は祝電を平壌に送らなかった。関係改善は、非核化をめぐる対米協調の意味が強い。

東アジアのパワーシフト加速も

迷走騒ぎに隠れあまり目立たなかったニュースがある。

トランプ氏は5月25日、中国の通信機器大手、中興通訊(ZTE)への制裁緩和で習主席と合意に達したと、米FOXテレビが報じた。ZTEはアメリカによる制裁で、米本土でのスマートフォンの生産や販売の停止に追い込まれていた。制裁が緩和されれば、米中貿易協議に弾みが付く。制裁緩和に応じたのは「中朝接近を牽制する狙い」というのが大方の見方。経済利益と政治利益を取引する「コリア・ディール」だ。

非核化については、短期間に非核化を求めるアメリカと、段階的に進め見返りを求める平壌との溝は埋まったわけではない。首脳会談では、実務者協議の枠組みで合意するだけに終わるかもしれない。

しかし、会談は非核化問題にとどまらない歴史的な意味を持つ。米朝和解が進み平和協定が結ばれれば、北東アジアの冷戦構造の一角が崩れ、アメリカの同盟関係の基盤が失われることを意味する。さらに米中のパワーシフト(大国の重心移動)を加速させるため、冷戦の受益者と被害者の利害は真っ向から対立する。関係国の利害のみならず、国内対立をも引き起こすから一筋縄ではいかない。迷走はその表れでもある。


岡田充(おかだ・たかし):共同通信客員論説委員、桜美林大非常勤講師。共同通信時代、香港、モスクワ、台北各支局長などを歴任。「21世紀中国総研」で「海峡両岸論」を連載中。

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