左からポルシェ ジャパン執行役員 マーケティング部部長 山崎香織氏、ポルシェ ジャパン社長 七五三木 敏幸社長。車両は第3世代の新型カイエン。
生粋のスポーツカーメーカーの代表格の1つであるポルシェがいま、絶好調だ。
2017年、全世界で24万6375台(前年比4%増)を出荷し、売上高は235億ユーロ(同5%増、約2兆9965億円)。営業利益は41億ユーロ(同7%増、約5228億円)に達した。
ビジネスは極めて好調。営業利益率は世界最高の水準をうたう。
ポルシェ ジャパンが2018年5月28日に開催した「ポルシェ70周年記念 記者会見」では、勢いにのる同社の姿と、今後10年ほど先を見据えた具体的なビジョンを垣間見た。
ポルシェはこの日、70周年を記念した世界最大の折り込み広告を朝日新聞で実施したほか、既発表のポルシェ初の完全電気自動車「ミッションE」を、2020年早々に日本市場に投入することを公表した。
ポルシェはこれからどう変わっていくのか?
VWグループの組織再編、足元の国内出荷台数は過去最高
VWグループの一覧。
自動車に詳しい人なら知っているように、ポルシェはフォルクスワーゲン(VW)グループの1メーカーだ。2018年度のVWグループ再編では、ポルシェは3つあるユーザーセグメントのうち、最上位帯の「スーパープレミアム」として位置付けられる。
ポルシェ ジャパンの七五三木 敏幸(しめぎ・としゆき)社長は、ポルシェが大切にしている特別感を「エクスクルーシブ性」と表現する。全世界の自動車のなかで、ポルシェが占める割合は「0.3%」(七五三木社長)にすぎない。逆に、だからこそ高いブランド価値を維持でき、「競合他社のほぼ2倍の収益率。最も収益性の高いブランド」(同)だと誇る、17.6%もの高い営業利益率が創り出せる。
2017年はポルシェ本体のみならず、ポルシェ ジャパンにとっても販売台数や金額で記録的な年になった。2017年の出荷台数は6923台、これはリーマンショック直後の8年前・2009年の215%にあたる。
国内の出荷台数推移。2008年に比べて2倍以上にまでのびた。
いまや「30%がハイブリッド」の車種も
パナメーラTurbo S E-Hybrid Sport Turismo。
ポルシェ ジャパン
この勢いを後ろ盾に、ポルシェが打ち出すのは、「EV化」の推進だ。
ポルシェは中期計画の最も大事な目標として、“2025年に全販売台数の50%をバッテリーEV(=電気自動車=BEV)と、プラグインハイブリッド(PHEV)にする”ことを掲げている。その前哨戦はすでに始まっている。
最大5人乗りのサルーン「パナメーラ」は、2018年の現時点で国内購入者の30%がハイブリッド(PHEV)モデル(ポルシェはE-Hybridと呼ぶ)。年末にかけてはさらに比率を上げたいという。ちなみに30%という比率は、すでに2017年の2倍以上にあたる。またヨーロッパでは既に、パナメーラ購入者のハイブリッド比率は60%にもなるという。
ポルシェ ジャパンのマーケティング部長・山崎香織氏によると、パナメーラの高いハイブリッド比率は、ポルシェがハイブリッドを「単に燃費がよく環境に優しい」というだけの製品にしていないからだと説明する。燃費の改善は当然として、さらにエンジン+EVの総合性能が高出力、すなわち「速い」という、ポルシェオーナーの価値観をくすぐるパッケージとし、それが成功している。
スポーツカーの印象が強いブランドだけにEV推進はにわかに信じがたいかもしれないが、いまやポルシェも販売の主力は4ドア、いわゆる「4駆」的外観のSUV・カイエン、マカンといったモデルだ。運動性の点で、比較的重量増が許容されるタイプのモデルを積極的にEV化していく、というシナリオはリアリティがある。
初の完全電気自動車は2020年早々に日本発売、気になる「本気度」
ポルシェのEVへの真剣度は、2020年早々に国内発売する電気自動車「ミッションE」の生産にも垣間見える。
ミッションEを作る新工場は、ポルシェのアイコン的車種である「911」や、高性能な2シーターオープン「ボクスター」を作ってきたドイツ・ツフェンハウゼン工場のすぐ隣に建設中なのだという。中枢にEV工場を作ることで、内外に「本気度」をアピールする。
ツフェンハウゼンにつくられるミッションEの生産ライン。中枢に置くことでEVへのコミットメントを表明。
2018年3月のジュネーブモーターショーで初披露された「ミッションEクロスツーリスモ」は、その性能として、4ドア4シーターで、EVモーターの出力は440kW(600馬力相当)、0-100kmを3.5秒未満で走り抜け、最大航続距離500km以上をうたう。
ミッションE クロスツーリスモ。背の低いSUVのような、CUVというカテゴリー。
ポルシェ ジャパン
後ろ姿のシルエットは紛れもなくポルシェ。
ポルシェ ジャパン
七五三木社長はミッションEの特徴を「電動であることを生かした低重心、どちらかとえいばパナメーラではなく911に近い」と説明するが、その性能を表す数字は、EVや自動運転で先行するテスラのSUV「Model X」を意識したものにも見える。Model Xは0-100km最速3.1秒、最大航続距離565km(ただし最大7人乗り)だ。
ポルシェであり続けるために変わり続ける
いま自動車業界は大きな転換点に立っている。ラグジュアリーというその言葉は再定義されていく。だから、ポルシェはこの好調に「あぐらをかかない」(七五三木社長)。
自動車が持つ魅力を問い直す時期に、ピカピカのブランド看板を持ち続けるのは容易ではない。スポーツカーメーカーといえど、デジタル化、コネクテッド化、自動運転化といった要素を貪欲に取り入れて変わり続けなければいけない。記者発表には、そういう覚悟が見えた気がした。
5月28日に実施された世界最大の折り込み広告。ギネス認定計測が会場で行われた。
ギネス認定証を持つ七五三木社長(右)
広告面の面積約3.55平米というサイズが、最大の新聞折り込み広告に認定
イベントに合わせ7月21日発売が発表になった第3世代の新型カイエン
独特のボリューム感のある側面。価格は976万円から。
(文、写真・伊藤有)