法人向け不動産サービスCBRE日本本社は28日、日本国内に店舗を持つ小売企業の担当者にEコマース(EC)の影響についてアンケートした結果を公表した。
アメリカでは消費者がECで買い物する傾向が強まり、店舗の閉鎖やショッピングモールのゾンビ化が進んでいる。また、中国でもアリババなどEC大手による小売業の買収、統合が活発化しているが、CBREの調査結果によると、日本で出店する小売企業の60.2%が、2030年の自社ブランドのリアル店舗数を「今より増えている」と予測し、「今よりも減る」の23.3%を大きく上回った。日本の小売業はECの拡大と人口減少にも直面する中でも、米中とは逆に、リアル店舗の出店によって売り上げを増やそうと考えているようだ。
アメリカではアマゾンが無人店舗をオープンするなど、EC企業のリアル店舗への浸食が進んでいるが……
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調査を担当したCBREの栗栖郁リサーチアソシエイトディレクターは「日本は2017年の消費者向けEC市場が前年比9.1%増の16兆5054億円に拡大したが、小売売上高に占める比率は5.79%で、リアル店舗の市場規模はECの7.6倍もある。例えばアパレルメーカーは、『服が売れない』ことに問題意識を持ち、売り上げの増加を重要な課題としている一方、ECの脅威はそれほど実感していないようだ」と分析している。
半数が自社と他社のECサイト併用
調査は2018年3月、小売企業580社の969人を対象に実施。112社127人から有効回答を得た。業種はファッションが33.1%と最も多く、ラグジュアリーが11%、ドラッグストアが8.7%、アウトドア・スポーツ、家具・雑貨がそれぞれ7.9%だった。
調査によると、回答企業の9割がEC販路を持っており、自社サイトと、ゾゾタウン、アマゾンなど他社プラットフォームの販路を併せ持っている企業が48.8%と半数近くを占めた。自社サイトのみで商品販売しているのは34.1%だった。
自社・他社サイトを併用しているのはファション業界が多く、ラグジュアリーブランドの多くは、ブランド・アイデンティティを維持するため、自社の販路のみを使用していた。
EC販路の売り上げに占める比率は、4割が「5%未満」と回答。ただし、5%未満と回答した企業の半分以上が自社の販路しか持っておらず、業種はほとんどがラグジュアリーだった。自社と他社の販路を併せ持つ企業のEC売り上げ率はより高くなった。
「ショールーム化」を推奨
2017年、東京・銀座にオープンした加熱式たばこiQOSの旗艦店「iQOS ストア銀座」。外国人旅行者が集まる銀座は、体験型店舗が増えている。
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アメリカでは消費者がリアル店舗で商品を確認し、実際にはECで購入する「ショールーム化」が進み、小売業界に打撃を与えている。中国でもネットセール前にはリアル店舗の売り上げが低迷する。
しかしCBREのアンケートでは、「自社のリアル店舗がショールーム化している」との回答は19.3%にとどまった。ショールーム化している店舗があると答えた業種は、ファッションと家具・雑貨が多く、ネット店舗の方が色やサイズが豊富にそろっていることが理由だという。また、ショールーム化に関しても、ブランド力や認知度の向上につながるとポジティブに捉える回答が目立ち、実物を試着したり、現物を実際に手に取る過程で、消費者との関係を深め、ECなどでの購入につなげるショールーム化戦略を取っている企業もある。
「リアル店舗減らさない」8割
ECが拡大しても、新規出店の店舗の立地や形態に影響しないとの回答は、5割を超えた。さらに、今後リアル店舗数や新規出店を減らすかとの問いには、「どちらも減らさない」が約8割に達した。理由としては、「消費者に買い物体験を楽しんでもらうため」「認知度の向上を含むブランディングにはリアル店舗が重要なため」が最多だった。
リアル店舗の数を減らすと回答した割合は22.6%にとどまり、理由は、「ECの拡大によって消費者の購買行動が変化したため」が最多で、「ECが小売市場全体の構造に変化をもたらしたため」が続いた。
栗栖氏は、「ECの売り上げ比率は拡大傾向ではあるものの、リアル店舗に与える影響については様子見感がある。また、アンケートの回答者に店舗開発の責任者が多かったため、思った以上に新規出店にポジティブな姿勢が出ている」と話した。
郊外店、百貨店離れ鮮明
一方、今後閉店を検討する既存店舗の形態を聞くと、百貨店や郊外型ショッピングセンターという回答が上位となり、郊外店離れ、百貨店離れが鮮明となった。
今後出店を検討する立地として、現在郊外型ショッピングセンターに出店している企業は「都市型ショッピングセンター」を最も多く選択し、現在「百貨店」に出店している企業は「(商業中心地の)路面店舗」を最も多く選んだ。人口減少や住まいの都心回帰を踏まえ、外国人旅行者も含めた消費者が集まる場所が今後の出店のトレンドとなりそうだ。
無人店舗、VR……テクノロジーに期待
調査結果からは、ECがリアル店舗に与える影響は限定的と考えつつも、体験スペースなどECにはない機能をリアル店舗に加えたり、消費者がアクセスしやすい立地への出店を強化するなど、小売企業がリアル店舗を情報発信や消費者との接点を持つ場所として再定義する傾向がみられる。
また、回答者からは、「仮想現実(VR)で、店舗体験の付加価値を高められる」「自動運転車が普及すれば、リアル店舗への来店者が増える」「無人店舗が実現すれば、全国出店が可能になる」など、テクノロジーの進化をリアル店舗の追い風として期待する声も上がった。
(文・浦上早苗)