「シェアリングエコノミーが成長する中、相互送客に努めたい。Airbnbさんをどんどん宣伝する」
とファミリーマートの澤田貴司社長が声をあげれば、
「すでに地元のハブであるファミリーマートさんに地域のことを教えてもらいながら、日本隅々で体験型の旅を作りたい」
とAirbnb Japanの田邉泰之代表取締役が返す。
「Airbnbさんと一緒に地域を盛り上げたい」と澤田社長(5月21日の記者会見で)
撮影:吉岡秀子
ファミリーマートと民泊仲介サイトAirbnbが宿泊事業等で業務提携会見を開いたのは5月21日。業界大手同士のマッチングとあって、多くのマスコミが会見場に詰めかけた。
以来、6月15日の住宅宿泊事業法(民泊新法)施行をにらみ、「大手コンビニ 民泊サービスへ続々参入」とか「コンビニ インバウンドの囲い込みを狙う」といったニュースが数多く流れた。
今、コンビニ各社は民泊新法スタート後の新サービス展開の準備を着々と進めている。
「暮らすような体験型の宿泊市場を広げたい」とAirbnbの田邉代表取締役(5月21日の記者会見で)
撮影:吉岡秀子
ローソンはすでに2018年1月からキーカフェ・ジャパンと組んで“鍵の受け渡しサービス”をスタートさせているし、セブン-イレブン・ジャパン(以下セブン)も6月15日からJTBと共同開発した“民泊チェックイン機”を都内の一部店舗に設置する。
いずれも「実験」で終わらせることなく、ローソンは2018年度末までに東名阪地区を中心に100店規模に、セブンにいたっては2020年度までに1000店の展開を目指すと公言している。目標数字をなかなか明言しないセブンがいうのだから、勝算があるに違いない。
そんな“民泊ウエルカム”の雰囲気の中に民泊の代名詞にもなったAirbnbがファミリーマートと組んで参戦した。さながらコンビニ民泊サービス戦争となっている。
だが筆者は、コンビニが民泊に関わるサービスを展開することに何ら驚きはなかった。むしろ、東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年を前に民泊整備が進む中、コンビニが手をあげなくて誰がやる、くらいに思っている。訪日外国人ゲストとコンビニとの蜜月は、とっくに始まっているからだ。
コンビニの訪日客へのおもてなし力
コンビニには、すでに知る人ぞ知る“おもてなし力”が備わっている。主なものを3つあげてみたい。
1.必須サービスを完備
売り場には外国人観光客にとっての神器がそろっている。Wi-Fi・ATM・免税対応レジ(一部、観光地の店舗など)だ。
免税対応レジは、観光地だけでなく都心の店舗にも広がってきた(豊島区のファミ リーマートで)
提供:ファミリーマート
インターネットが情報源となっている今、フリーWi-Fiはマストだし、多言語対応しているATMは旅先で心強い。中でもセブン銀行ATMの12言語対応(海外発行カード利用時)は多くの外国人観光客に知れ渡っているようで、東京・浅草雷門前のセブンにはよく、ATM前に外国人の長い行列ができている。免税対応レジの便利さは、言わずもがなだ。
2.安全・安心を提供
コンビニは2000年に警視庁から「まちの安全・安心の拠点」としての活動要請を受け、2005年から本格的に「セーフティーステーション」活動をスタートさせている。何かあったとき、SOSに対応してくれるというわけだ。
長年続く取り組みだが、知っている人はどれほどいるだろう。交番の少ない地方の民泊では、困った時の駆け込み先として時にコンビニが命綱になる。
3.「買い場」としての存在感
観光庁の「訪日外国人の消費動向」(平成29年次報告書)によれば、2017年の外国人旅行消費額は4兆4千億円超。どこで買い物をしたかの調査では、空港の免税店やドラッグストアを抜き、コンビニが67.1%を占めて1位だ。
外国人にとってコンビニは、観光後の深夜も開いている便利な「よろず屋」であり、日本文化を知ることができる「おみやげ屋」として有名だ。わざわざ民泊サービスを始めましたと宣伝しなくても、すでに外国人観光客にとってコンビニは欠かせない存在となっている。
ということを頭に入れて、各社が今、進めている民泊事業をおさらいしてみよう。
サービスは無人対応の鍵の受け渡し
ファミマのキーボックス。6月15日からはタブレットを配置し、本人確認等を行う予定
提供:ファミリーマート
セブン、ファミマ、ローソンとも共通しているのは「(ホストが提供する)家の鍵の受け渡しサービス」を主眼としていること。
ファミマの澤田社長は会見で、「宿泊者向けに店内で使えるクーポンなども提供したい」と話していたが、各社とも従業員に作業負荷がかからない「無人対応」が基本だ。
ローソン店内に設置されたキーカフェのIOTキーボックス。GINZA SIX店では月に50件ほどの利用がある
提供:ローソン
現に先行しているローソン、実験中のファミマの都内店舗ではキーボックスが売り場の壁にかかっていたが、利用者でなければ見逃しそうなほどシンプルな造り。新法施行後はルールに従い、端末やアプリを通じて本人確認や宿泊者名簿を作成するという。
セブンはATMよりも小さめの「民泊チェックイン機」をJTBと共同開発した。「画面でパスポート写真と照らし合わせて本人確認、台帳記入をし、チェックインができる」という。まさに24時間対応の無人フロントデスクが店内に登場する格好だ。
JTBと共同開発したセブンの民泊チェックイン機。トラブルには24時間、多言語コールセンターが対応
提供:セブン-イレブン
ただ3社に話を聞いて思うのは、マスコミが煽るほど、コンビニ各社の姿勢はそれほど前のめりではない。
もちろん客が鍵の受け渡しにやってくればそれは集客につながるし、「ついで買い」も期待できる。一方で、国土交通大臣への登録を義務付けられた住宅宿泊管理業者(民泊運営代行会社)の業務をフォローする形で“(鍵受け渡し機器の)スペース貸し”を始めたという冷静さも感じる。
「新法では鍵の受け渡しは住宅の近隣で行わなければならないので、自然とコンビニの出番となる」と話す関係者もいる。
とはいえ15年以上前、金融業界の猛反対を押し切って大化けしたコンビニATMの歴史を振り返ると、売り場に突如現れたキーボックスが、打ち出の小づちに変身する可能性はゼロではない。
民泊新法施行までカウントダウン。店内のPOPが多言語表記になり、一部商品パッケージも英文字併記になった。知らぬ間にグローバル化してゆくコンビニの売り場に、6月15日以降、どんな化学反応が起きるのか注目したい。
吉岡 秀子:コンビニジャーナリスト。2002年から日本人のライフスタイルに応じた「新しいモノ・サービス」を生み出す拠点としてコンビニ業界を徹底取材。現在、コンビニ専門家として執筆のほかメディア出演等も。著書に『セブン-イレブン金の法則』など。