アメリカのシリア爆撃にニューヨーカーは何を見たのか?

アメリカで24時間放映されるケーブルニュースでは、だいたいどの局でも常に「Breaking News」のテロップが流れている。話題に事欠かないトランプ政権になってからはなおさらだ。だから、いくら「速報! 速報!」と言われても、視聴者はどうせまた普通のニュースに毛が生えた程度のものだろうとしか思わない。

しかし、4月6日夜のアメリカ軍によるシリア爆撃は、正真正銘の「Breaking News」だった。オオカミ少年の嘘に慣れていた人々もこれには仰天し、翌朝、ソーシャルネットワーク上には、実に様々な反応が飛び交うことになった。

ニューヨークの街に出て、人々の「今」の気持ちや考えを聞いた。

「今回の行動はとりあえず正しかった」派

「今回の行動はとりあえず正しかった」という意見を持つ人々は、大半のニューヨーカー同様、トランプ大統領の言動には懐疑的だが、今回の行動に限っては人道的なものと前向きに評価している。爆撃の翌朝にNYC専用テレビ局が行った街頭インタビューでも、アメリカの軍事行動を擁護する論調が目立っていた。

マーティン・T(ファイナンス-IT)

ニューヨーク在住の男性

少なくとも化学兵器の使用をスローダウンさせることはできたんじゃないかな。

金子毎子

最初に湧いた感情は「ハッピー」だった。シリア市民のために正しいことをしたという意味でね。大統領になって唯一正しいことをしたなと思ったよ。少なくとも化学兵器の使用をスローダウンさせることはできたんじゃないかな。もっとも今回の爆撃も彼の直感的な行動だという気がしている。彼のツイートと同じさ。

レナード・P(デザイナー)

ニューヨーク在住の男性

これからのロシアとの関係が心配だな。

金子毎子

アメリカが世界の警察になるべきだとは思わない。でも今回の爆撃は大統領の本心がどうであれ人道的な行動だと思うし、「言葉より行動」という意味でいい例を示したと思う。彼のしていることには実際1%も賛成していないけどね。ただ、これからのロシアとの関係が心配だな。トランプ政権になってから、かなりニュースに注意を払うようになった。オバマ大統領は全面的に支持していたから、ある意味、任せていたような気持ちだったんだけど、今は自分の目で現実をしっかり確かめておかないと不安で仕方がないんだ。

「あれはトランプ政権の陰謀だ」派

今回のシリア爆撃を「トランプ政権の陰謀」と考える人々も少なからずいる。つまり、あの爆撃は、ロシア問題や中国との首脳会談のためのものであって、トランプ大統領が言っているような意味での人道的な措置ではないと考える人々だ。

ジョー・C(投資アナリスト)

爆撃について、特別な感情は湧かなかった。アメリカ軍が他国にミサイルを発射するなんて今に始まったことではないからね。ロシア問題から世間の目をそらせようとする意図があったのかもしれないとは思う。北朝鮮問題に関しても、同じように感情的な直感や政治的な思惑で動くかもしれないと考えるとそら恐ろしいな。

デイビッド・W(セールス)

ニューヨーク在住の男性

あの爆撃は完全に煙幕作戦だ。

金子毎子

あの爆撃は完全に煙幕作戦だ。トランプは選挙期間中から散々中国を悪者にしてあおりまくっていた。それが習近平といざ直接会談となれば、一方的な強気姿勢で十分な成果が得られないのはわかっていたから、注意を他に向けるためにやったんだ。攻撃のタイミングがそれを物語っている。「Wag the Dog」っていうアメリカのお家芸さ。クリントンがモニカ・スキャンダルの真っ只中でアフガニスタンとスーダンを次々に爆撃したのと同じだよ。スキャンダルにまみれた大統領が架空の戦争をでっちあげて、世間の目をそらそうとするブラックコメディ映画(『ウワサの真相/ワグ・ザ・ドッグ』)にちなんでそう呼ばれてるんだ。

「いったいこれからどうなってしまうの?」派

偶然かもしれないが、話を聞いた女性たちは皆、今回のシリア爆撃について、「確信のなさ」や「恐怖感」などの不安感情を抱いていた。

ロビン・T(左・ギャラリー勤務)

ニュースを聞いたときはショックで……。シリアの化学兵器攻撃のことは知っていたけど、爆撃はすごく唐突なことに思えたわ。理由は正当でも、プロセスが早急すぎてめちゃくちゃ。何かすっきりしない。『タイタニック』を観てワンワン泣いて、でも終わったあと何かしてやられたような気持ちになるのと同じ感じ。感情を操られた気がしてすっきりしないの。だって、大統領が主張する今回の人道的措置と移民の排斥は全く相容れないものね。

ナンシー・M(右・医療関係)

最初に感じたのは恐怖。すべての人のために恐ろしいことだと思いました。シリア市民への攻撃がこれをきっかけに悪化することはないのか、私たちの安全は大丈夫なのか、これまでもアサド政権の標的にされていた病院施設がもっとひどい攻撃をうけることになったら……。今でもその不安な気持ちは続いています。シリア内戦にさらなる当事者が、しかもこんな劇的なかたちで加わるなんて。

ニューヨーク在住の女性たち

ロビン(左)とナンシー(右)。今でも不安な気持ちは続いています。

金子毎子

「独善的なアメリカ外交政策で既視感」派

話をしてくれたイラン系アメリカ人の男性は、幼少時にイラン革命が起きて家族でアメリカに移住した。爆撃翌日にマンハッタンの2カ所であった抗議デモ参加者の主張と重なるところも多い。アメリカの軍事行動に対する不信感、反感は根強い。

モハマド・T(イラン系アメリカ人)

もうdéjà-vuとしかいいようがない。アメリカはありもしない大量破壊兵器がイラクにあると主張して主権国家に侵攻した。サダムは確かに戦争犯罪者だったけど、イラン・イラク戦争でその彼を支援したのはどこの国だった? あの8年間でも多くの子どもが犠牲になったし、クルド系イラン人に化学兵器を使ったのはアメリカが支援したサダムの方だ。本当にシリアの子どもの命を気にかけているなら、なぜこの国に来るのを拒む? それに罪のない子どもたちが死に続けている南スーダンやナイジェリアと何が違うのかと言いたい。アフリカ諸国で起きていることだって、化学兵器の使用と同じくらいれっきとした国際法違反だ。


金子毎子:フリーランスのライター、編集者、翻訳者。ニューヨークで日系情報新聞の編集長を5年ほど務めていたが、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチに憧れ、コンサルタントとして人権レポートを日本語訳するようになり、現在に至る。

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