UFO、ニコチン濃度、ザギトワの秋田犬…官僚たちを残業で追い詰める「大量の質問主意書」これでいいのか問題

国会議事堂

本会議や委員会での質問の他に、政府が7日以内に答弁する義務のある「質問主意書」が官僚の残業を増やしている。

写真:今村拓馬

衆議院参議院のホームページで全文公開されている「質問主意書」をご存知だろうか。

国会議員は国会の会期中、本会議や委員会での質疑とは別に、国政全般について内閣の見解を問うことができる。議員は質問を文書にまとめ(これを主意書と呼ぶ)、両院の議長を通じて内閣に送る。内閣は受け取った日から7日以内に、閣議決定を経て文書で答弁しなければならないことになっている。

本会議や委員会での質問時間は、原則として、所属する会派の議員数に応じて決まるため、少数会派や無所属の議員にとって、質問主意書は政府の意を問うための確実な手段となる。

ここ何年かで提出件数が3〜4倍に

紛糾する委員会

佐川宣寿前国税庁長官の答弁で紛糾した国会。取材すると、委員会で予定されていた質問が行われず、やむを得ず質問主意書に頼った議員も確かにいた。

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ところが、議論を活性化させるためのこの質問主意書に、未来を担う優秀な官僚たちが苦しめられている。

主意書の提出数が年々増加しているからだ。衆議院を見ると、2013年の通常国会で提出されたのは133件。その後、275件、464件、329件、438件とここ何年かで数倍に膨れ上がり、2018年も5月30日までに公開されたものだけで310件に達している。

今会期については、信頼性に疑問符のつく回答を繰り返す安倍政権と、その意を忖度して虚偽の答弁を行ったり、文書改ざんの指示を出したりする省庁幹部のために国会が空転。本来議論を深めるべきさまざまな国政の問題について質問する機会が減り、主意書に頼らざるをえなくなった面もある。

しかし、公開されている主意書やその答弁書をよく読むと、この制度によって本当に議論が深まっているのか、議論すべき国政のさまざまな問題を明るみに出すことにつながっているのか、疑わしく思えてくる。

衆議院ではわずか3議員の質問が全体の半数を占める

立憲民主党チラシ

自民党に議席数で差をつけられている立憲民主党。野党第一党として存在感を発揮したいところだが、大量の質問主意書は果たして功を奏しているだろうか。

写真:今村拓馬

まず、両院のホームページでは「最近(中略)制度を積極的に活用する議員が増えてきており、提出件数が大きく増加している」と説明されているが、本当だろうか。

実は、ここまでの会期中で衆議院に提出された310件のうち、4分の1を超える80件が、立憲民主党の逢坂誠二議員から提出されたものだ。さらに、6分の1超に当たる47件が同じく立憲民主党の初鹿明博議員から、10分の1超に当たる27件が国民民主党の山井和則議員から提出されている。この3議員の提出件数だけで154件、全体の半数を占めている

少数の議員が大量の質問主意書を提出すること自体は、問題とまでは言えないかもしれない。しかし、3議員を除いた提出件数は5年前とほぼ同水準であることを考えると、制度の活用が活発化しているという評価には違和感がある。

また参議院では、今会期中ここまでに119件の質問主意書が提出され、立憲民主党の川田龍平議員がダントツの29件、他に同党の有田芳生議員11件、牧山弘恵議員10件、自由党の山本太郎議員12件、無所属の小西洋之議員が14件。5議員計で76件、全体の6割超を占め、こちらもやはり少数議員の存在が際立つ

UFO、ニコチン濃度、固有種の馬、ザギトワの秋田犬……

質問主意書の提出件数の偏りもさることながら、問題はその中身だ。

多くは国政の重要な問題に関するものだが、中には両院のスタッフや省庁の官僚を動かしての調査や、多忙な国会会期中に閣議決定まで行うプロセスが必要なのか、疑いたくなる質問もけっこう含まれている。今会期中のものを、いくつか抜粋しておこう。前後の文脈を切り取った「揚げ足取り」と理解されては困るので、全文掲載されたサイトへのリンクをそれぞれに付す。

ダントツの提出件数を誇る逢坂誠二議員(立憲民主党)から。ある意味での重要性は分かるが、答弁書の閣議決定が必要な質問だろうか。

未確認飛行物体にかかわる政府の認識に関する質問主意書
政府は、地球外から飛来してきたと思われる未確認飛行物体の存在を確認したことはあるか。
答弁書
政府としては、御指摘の「地球外から飛来してきたと思われる未確認飛行物体」の存在を確認したことはない。

国民民主党の大西健介議員はこうだ。そもそも質問主意書が必要だろうか。

喫煙時の室内におけるニコチン濃度に関する質問主意書
厚生労働省は、本調査(喫煙時の室内におけるニコチン濃度)が行われた条件について「換気のない狭い室内で喫煙した場合」としているが、「狭い室内」とは具体的には何平方メートルだったのか明らかにされたい。
答弁書
本件調査においては、縦及び横の辺の長さが〇・八メートルで面積が〇・六四平方メートル、高さが二・二メートルの部屋(以下「実験室」という。)でニコチン濃度の測定等が行われたと承知している。

次は立憲民主党の生方幸夫議員。加計学園問題に関連するものとはいえ、これも政府を通じて確認させる必要性がイマイチ分からない。

今治市が文化財指定している日本固有の馬、野間馬に関する質問主意書
野間馬のように濃い血統の種は、研究者にとってはなかなか扱えない貴重な検体といえるが、野間馬が動物実験の検体として利用されることはないのか。
答弁書
「のまうまハイランドで飼育されているウマを対象とし、教員が実施する定期健康診断及び繁殖検診を含む産業動物診療に同行する」と(加計学園提出の書類に)記載されているが、いずれにせよ、お尋ねについては、愛媛県今治市の指定文化財の取扱いに関するものであり、同市において適切に判断されるべきものと考えている。

秋田犬のマサルと安倍晋三首相

ザギトワ選手に秋田犬「マサル」を贈呈して笑顔の安倍晋三首相。秋田犬保存会の顔を立てろとの意見も分かるが……。

REUTERS

最後に国民民主党の緑川貴士議員。まずは秋田犬保存会に意見聴取してから質問してはどうか。

秋田犬保存会によるロシア・ザギトワ選手への秋田犬贈呈に関する質問主意書
贈呈のセレモニーにおいて、ザギトワ選手本人に直接手渡しすることは、秋田犬保存会や関係者の熱意や苦労が報われる集大成の場であり、安倍総理からではなく、マサルのブリーダーや秋田犬保存会関係者などから直接ザギトワ選手に手渡しされるべきであると考えるが、政府の見解を尋ねたい。
答弁書
公益社団法人秋田犬保存会会長からの要請等を踏まえ、平成三十年五月二十六日(現地時間)にモスクワで同会が行うザギトワ選手への秋田犬の贈呈式に、安倍内閣総理大臣が立ち会う方向で調整を行っているところである。

他にもまだまだ謎の質問があるので、両院ホームページで確認されたい。

一方、質問主意書は明らかに重要な内容で、政府の説明が十分でない点を鋭く突いたものであるにもかかわらず、答弁書の記述が木で鼻をくくったような内容であることも多い

よく見られるのは、「□□の具体的に意味するところが必ずしも明らかではないが」「○○のおそれがあるため、お答えを差し控えたい」という、逃げの記述だ。質問主意書の数が増え、答弁書の内容が不十分になってきているとの指摘もあるが、そうした多忙さゆえの定型句とは別に、全面的に答弁を避けるための常套句と化している面もある。

職員の残業の大きな原因の一つが「国会対応」

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残業に次ぐ残業。このままでは霞が関の「働き方改革」は進みそうにない。

写真:今村拓馬

Business Insider Japanは、2018年3〜4月に官僚の働き方についてアンケートを実施。その結果、9割の職員がほぼ毎日残業し、その大きな原因の一つが「国会対応」にあることが明らかになっている。

関連記事:「霞が関で働きたい人はいなくなる」官僚の長時間労働は“機能不全”な国会のせい

上記のような答弁書を作成するために、調査に当たる政府のスタッフや省庁の官僚たちの時間が奪われていく。民間企業で働き方改革への真剣な取り組みが続く一方で、霞が関では優秀な若手人材たちが自らの仕事に対する疑問を押し殺し、残業を続けている。

国民の代表者である国会議員に認められた権利とはいえ、我が国が抱えるいくつもの重大な問題に取り組む労力や時間と、常にトレードオフの関係にあることを忘れてはならない。その観点から、質問主意書制度のあり方、使い方を今一度見直す必要があるのではないか。

(文・川村力)

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