「丸投げオープンイノベーション」では世界は変えられない —— シリコンバレー発イノベーションラボの成功条件

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パロアルトインサイトCEOの石角友愛です。ここ数年の日本企業で多く見られるようになったのが、オープンイノベーションを扱う新しい組織です。企業により名称こそ違いますが、基本的にはその位置付けは「トップダウンで会社全体のイノベーションを担う組織」です。先日大手日本企業のオープンイノベーションセンターを訪問してきたのですが、トップのリーダーが自ら指揮を取り「自社の課題をオープンにしていく時代だ」と言っていました。

社内外の人材が交流するこうした施設は、数年前に一気にもてはやされました。形ばかりの施設運営というケースもありますが、一方で最近のトレンドとして見受けられるのは、事業会社が自社の中に存在するビジネスの課題を抽出して、その答えをオープンイノベーションセンターで扱うスタイルです。重要なのは、課題に対する答えを外部連携に丸投げで求めるのではなく、

(1)答えを出すまでのアプローチを細分化(課題のモジュール化)して

(2)各スタートアップや教育機関などの異なるコミュニティーと連携して解決する

という設計にあります。今回はオープンイノベーションの本質とその成功条件について、シリコンバレーの目線でお話したいと思います。

成功条件(A)課題のモジュール化と、オープンイノベーションに求めることを明確にする

柏の葉オープンイノベーションラボ

国内でもオープンイノベーションラボと名付けた施設を設置する例は近年増えている。写真は「31VENTURES KOIL(柏の葉オープンイノベーションラボ)」の一角(編集部)。

アメリカで見られるオープンイノベーションラボの成功事例は、事業会社が主体で運営しているものも、センター主体のものもあります。共通しているのは具体的な経営課題を解決するためにある、ということです。

例えば米大手化粧品小売業のセフォラ社は、化粧品業界には珍しくサンフランシスコに本社を置き、セフォラオープンイノベーションラボを2015年に開設しました。ラボの位置付けは、「化粧品の情報を消費者にいかに的確に届けるか」という課題を解決する技術を集める場所、と非常に明確です。長年課題だった化粧品を試せないという課題に対して、VRベンチャーModifaceと連携して、バーチャルアーティストというVRアプリをオープンイノベーションラボ発で開発しました。

これは私もユーザーの一人ですが、とてもVRの性能が高く、色々なタイプのメイクアップがVRで試せて(例えばまつげ一つとっても長さがそれぞれ違い、私が瞬きをするとちゃんとまつげも一緒に画面上で動く)セフォラのデジタルイノベーション戦略の重要な存在です。

sephora

バーチャルアーティストアプリ画面。下の色々な化粧タイプを選ぶとその瞬間に自分の顔にその化粧が施される。気に入った商品は画面上で購入できる。全く化粧をしていなくてもVR技術で写真のようになる。

成功条件(B)データサイエンティストコミュニティーを活用する

kaggle

日本国内でもデータを豊富に持つ企業からデータサイエンスを得意とする「Kaggle人材」獲得戦がはじまっている。写真は4月にSansan本社で開催された勉強会「Kagglerが伝える、Kaggleの楽しみ方」。

写真:伊藤有

企業が自社の課題を解決するために外部連携を求める場所は実際のイノベーションラボのような物理的な場所である必要はありません。

最近日本でも注目されはじめた「Kaggle」(カグル)は、世界中の優秀なデータサイエンティストと課題をデータで解決したい企業が集まるバーチャルコンペサイトです。

例えば、メルカリもKaggleでコンペに参加しています。その依頼内容は「メルカリプラットフォーム上に出品される商品の買値を予測するモデルを開発してほしい」というもので、実際に過去の商品の売値と買値のデータをKaggle上で公開しています。

メルカリのKaggleコンペ

メルカリのKaggleコンペの内容。

コンペに参加したデータサイエンティストの中で、一番精度が高いモデルを作ったチームが優勝、賞金やその他特典を手にすることになります。一方、メルカリ側には、その精度の高いモデルを手にすることができます(メルカリの場合、賞金総額が10万ドル、同時にメルカリ社からの就職面接にご招待、という特典付きでした)。

不動産売買を促すマッチングプラットフォームZillowも同様に、家の売値と買値を予測するアルゴリズムをコンペに出しており、その賞金額はなんと120万ドル(約1億3050万円)。会社の競争力に直結する非常に大事なタスクを、オープンイノベーションで作っている好例です。

Zillow

Zillowのコンペ。賞金総額は日本円にして1億円以上。

こうした形でより良いモデルを求めていることは、会社のブランディングにもなる側面があります。例えば私の知り合いのデータサイエンティストは、

「Kaggleでコンペを出している会社Aと、コンペを出していない会社Bがあれば、会社Aの方がイメージランクは高くなる」

と言っていました。それは、自社内のデータサイエンス能力の有無とは一切関係なく、その企業が何をやっているかの透明性が得られ、データサイエンスで問題解決をしようとしていることが分かるからだ、と言います。

成功条件(C)研究結果は積極的に公開する

facebook

データサイエンティストのような特殊で高度な能力を持つ人材は、会社の透明性も重視します。

特にデータ会社やIT企業に言えることですが、グーグルやFacebook、最近ではアップルですらも、社員が論文を書いて学会で発表することを奨励しています。

下の図は特許庁のビッグデータ関連の特許数に関する統計です。注目論文の過半数が、米国IT企業(グーグル、IBM、ヤフーなど)によるもので、日本企業によるものは0でした。

fig

なぜ、グーグルやFacebookなどの企業が研究成果をオープンにするのでしょうか。例えば、オープンソースの予測モデル『プロフェット』は、Facebookのエンジニア2人が論文を発表したものです。実際に弊社でもこの論文を読んでプロジェクトにプロフェットを使うかどうか検討したことがありました。

Prophet

プロフェットのGithubページ。

関連リンク:プロフェットの論文はこちらから

Facebookの狙いとしては、プロフェットの使用事例を増やしたいだけではなく、論文を社員が出すことで社員のモチベーション向上にもつながります。また、これからFacebookに就職を考えているエンジニアやデータサイエンティストがこのような論文を読めば、「こんなプロジェクトをやっているんだな」とイメージがつかめて、より高い透明性を外部コミュニティーにアピールすることにつながります。

そして重要な点ですが、研究成果の良し悪しに関わらず、「研究内容やプロジェクト内容を公開しない企業に良いエンジニアは来ない」のです。

シリコンバレー流オープンイノベーションとは、外部連携を図る目的意識をはっきりと持った課題ドリブンなものや、優秀なエンジニアを集めるための透明性構築の場として機能していることが特徴です。

日本企業でもこれからどんどん、形に捉われない課題解決型のオープンイノベーション戦略が必要とされてくると思います。自社の弱点ともとられがちな経営課題や問題をオープンに出来るかどうか。そして、必要であればデータを公開して外部連携できるかどうか。

その意思決定をスムーズにできる企業から、新たなイノベーションの階段をのぼっていくのだと思います。

(文・石角友愛)


石角友愛/Tomoe Ishizumi:2010年にハーバード経営大学院でMBAを取得したのち、シリコンバレーのグーグル本社で多数のAIプロジェクトをリードし、AIを活用した職業マッチングサイトのJobArriveを起業。2016年に同社を売却し、流通系AIベンチャーを経て2017年にPalo Alto Insightを起業。


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