「リーダーは大きな目標を立てよ。そうすれば会社の仕組みと風土は変わる」松本晃カルビー会長(前編)

松本晃氏

9年間のカルビー生活を終え、RIZAPのCOOに転じる松本晃。ポストリーダー世代に伝える言葉とは。

“プロ経営者”松本晃が、カルビーの会長兼CEOからRIZAPのCOO(最高経営責任者)に転じる。

カルビーの9年間における最大の功績は、「カルビー」という企業を「働きやすい会社」として有名にしたことだ。

伊藤忠商事を45歳で退職し、世界的医療機器メーカー、ジョンソン・エンド・ジョンソンの日本法人に移籍。トップとして売り上げを6年で4倍に伸ばした手腕を見込まれ、創業家に請われて2009年、カルビーの経営トップに就いた 。猛スピードで効率化と合理化を進め、9年で売り上げは 1.8倍に、営業利益は6.1倍弱に伸びた。

「ミスターダイバーシティ」とも呼ばれる松本により、女性役員比率は26.4パーセントに(2010年当時は5.9パーセント)。2011年には東証一部への上場を果たしている。

松本により、カルビー社員の意識、働き方、会社の仕組みは大きく変わり、その策は注目を集めた。

社員の意識が変わる力となったのは、松本が伝え続けてきた「言葉」である。

松本は、自らのメッセージを社員にわかりやすく短い言葉で、繰り返し伝えてきた。

どんな言葉で、いかに伝えるか。常にそのことを考えているという松本には、24歳で伊藤忠商事に就職して以来続けている、気になる言葉があると手帳にメモする習慣がある。故事から現役の尊敬する経営者まで、さまざまな人の「気になる言葉」を記し、読み、推敲し、自分の言葉に昇華させてきた。

こうして人知れず松本が紡いだ言葉は、仕事の本質を考えさせる。

5月8日、4時間にわたり松本が「仕事の言葉」を語り下ろした。本稿では珠玉の10ワードをリーダー論(前編)、仕事論(後編)の前後編として公開する。

松本は、リーダーシップを次のように定義する。

組織を率いて、継続して成果を出し、結果に対して責任をとること

(1)まず与えよ。仕事はギブ&テイクである

プロ経営者・松本晃

リーダーシップとは結果を出して責任をとることと語る。

経営者が社員と向き合うとき、社員は何を求めているのかを考えることは大前提です。

そもそも“豊かさ”とは、時代によって変わります。団塊世代である我々の若い頃は社会全体が貧しかったので、豊かさといえば圧倒的にお金でした。

ところが今の若い人たちは、時間的、社会的な豊かさが第1。2番目がワクワクする仕事、3番目が人間としての成長です。この順番でさえ人によって違います。「豊かさ」ひとつとっても、その考え方は多様、それが現代です。

マネジメントに立つ人は、若い社員が何を求めているかを知らずして経営はできません。従って、自分の求めているものと若い人たちが求めているものは違うという前提に立つことです。

そして、彼らが求めているものをまず与えることです。求めるものをまず与えない限り、彼らは経営者が望むようには働きません。

世の中はギブ&テイク。経営者と社員の間では、ギブが先です。その代わり、会社が社員からテイクするものもありますよ。それは実に簡単。成果です。

私がカルビーでまず社員に与えたものは、時間という豊かさです。働き方改革により、ライフワークバランスを徹底しました。成果さえ出せば、じっと会社にいる必要などない、早く帰って自分の時間を豊かに過ごそうということを奨励しました。2人の子どものいる女性社員を事業本部長に指名する際には、 毎日4時に退社することを約束させました。4時ではムリ、ではない。4時に帰ることを決めると、自ずとそれに合わせて働き方を工夫するものです。事実、彼女はそれが可能だと証明してくれました。

(2)Our Business is People Business

会社は「人」で動いています。企業にとって一番大事なのは「人」です。ですから、社員にお金をかけるのはコストではなくて投資です。例えば、同じ業務を担当している正社員と契約社員の間の休暇や健康診断の健診範囲など、待遇格差があってはなりません。なぜなら、正社員も契約社員も等しく会社にとって大事な「人」だからです。

リーダーは、会社に貢献した人にはしっかり報いなくてはなりません。「ありがとう」のメッセージを率直に態度で表現する、皆の前で賞賛する、十分な報酬を準備するなど、リーダーのバランス力が求められます。

人に対して細やかであることは、リーダーシップには欠かせない条件です。

(3)仕事はコミットメント&アカウンタビリティである

フルグラ

松本が会長になって大きく売り上げを伸ばしたフルグラ。

撮影:竹井俊晴

私のビジネスの1丁目1番地はコミットメント&アカウンタビリティです。

カルビーの会長になってまず最初に、私は社員のみなさんにこのことを言いました。

ビジネスはすべて約束から始まります。そして、約束したことに対する結果に責任をとることが原則です。約束をしたことに対して、説明ではなく結果責任をとらなくてはなりません。

会社と社員の関係も、コミットメント&アカウンタビリティによって整理すると、非常にシンプルです。年度のはじめに会社(上司)と交わした年間の業務上の目標が達成されれば、賞与という形で評価されますし、結果を出せなかった場合は降格もある。もちろん、次の年度に結果を出せばまた昇格や昇給は可能です。

成果主義と言うと厳しいように受け取る人もいますが、厳しめの目標(約束)でなくてはならないというわけではありません。頑張りたい人は頑張れるし、それほどでもない人にもそうした働き方は可能です。ただし、頑張った人には相応の評価が与えられますし、そうではない人にはそれなりの評価になるという合理的な考え方です。

このことと「働き方」は密接に関わります。約束さえ果たせば、決められた時間に会社にいることなどありません。目的は成果であって、会社にいることではないのです。

(4)上は3年で下を見る、下は3日で上を見る

コミットメント&アカウンタビリティを原則とすると、役職にある社員が結果責任をとって降格することもあり得るのが本来です。

そう考えると、本来的には執行役員や部課長のうち、評価が低い一定数は、毎年度入れ替え制にするべきなのです。そのことにより、組織は風通しがよくなり活性化するはずです。

しかし、これは実際には簡単なことではありません。なぜなら、人は自分が指名して役職につけた社員を降格させることに抵抗を感じるものだからです。それはすなわち、自らの任命責任が問われ、さらには自身の「人を見る目」にもかかわるからです。

ですが、組織で働く人なら誰もが実感することだと思いますが、部下はそうした自分に甘い上司をあっさりと見抜くものです。一方、上に立つ人は自分に甘い判断をし続けていると、部下を評価する目が曇ります。

マネジメントに立つ人は常に部下からの厳しい視線にさらされていることを自覚し、戒めることを忘れないようにすることが大切です。

特に、変革にあたっては、既得権益を奪うことにつながるため抵抗勢力とも向き合わなくてはならないでしょう。変革するには、権限をできる限り委譲するなどリーダーがまず変わらなくてはなりません。

(5)大きな夢を語る

日々ワクワクすること、新しいこと、チャレンジングなこと。仕事をする上で欠かせない条件です。しかし、新しくても稼げなくては意味がありません。新しくて、なおかつ、稼げる(=儲かる)可能性があるからワクワクするし、チャレンジしようと思うものです。

プロ経営者・松本晃

理想の未来から逆算した「大きな夢」が組織の変革に必要という。

撮影:今村拓馬

そんなワクワクする大きな仕事の夢を指し示すのはリーダーの仕事です。

例えば、 「現在」を起点に積み上げ式で立てる「中期経営計画」ではなく、「未来」の「理想のあり方」をもとに計画を立てるという考え方です。

カルビーでは実際、売上高1632億円だった2011年度に、7年後の売上高を5000億円にするという目標を立てました。通常の中期計画でいくと、2000億円程度となりますので、2倍以上です。しかし、このような目標を掲げると、達成のために何をしたらいいのか、具体的に課題と解決の方策を検討する方向へと進んでいくことができます。

自ずと、社内の仕事の「棚卸し」も精緻になっていきます。大きな目標があると、人はその達成のために、自ずと仕事の効率化を考えるようになっていきます。組織も同じです。高い目標に向けた計画を実行するためには、会社の仕組みや風土を変えていくことは避けられません。大きな夢と、実現のための計画、組織の変革は一連のものなのです。(敬称略)

(文・三宅玲子、写真・今村拓馬)

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