仕事の基本はシンプル。「変えろ・決めろ・逃げるな」「正しいことを正しく」松本晃カルビー会長(後編)

松本晃

仕事の基本はシンプルだと語る松本。基本は倫理観と変わることをそ恐れないということだ。

トップとしてジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人やカルビーで「言葉」の力によって社員の意識を変えてきたカルビー会長・松本晃。

前編では、リーダーとして必要な資質とは何か、長年松本が蓄積してきた言葉の中から5つを選んだ。後編は仕事をしていく上で松本自身が大切にしてきた考えを贈る。

関連記事「リーダーは大きな目標を立てよ。そうすれば会社の仕組みと風土は変わる」松本晃カルビー会長(前編)

45歳でジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人に移籍した松本は、 社是「クレド」との出合いにより、経営観が決定的に変わる。その真髄とは、「倫理観こそすべてに優先されるべき」というものだ。

後編は、倫理観にもとづいた仕事論に関する5つの言葉を紹介する。

(1)倫理観のない企業は21世紀に生き残れない

倫理観が全てに優先される時代です。トップマネジメントが倫理観をしっかりと示していかない限り、会社は生き残ることはできません。

ジョンソンエンドジョンソンの社屋

松本はジョンソンエンドジョンソンの「クレド」に出合って、仕事観が変わったという。

REUTERS/Thomas White

私が1992年から2007年まで日本法人のトップを務めたジョンソン・エンド・ジョンソンには、歴史に残る有名な「タイレノール事件」があります。1982年に鎮痛剤に毒薬が混入され死亡者が出てしまったのですが、クレドに沿って顧客最優先で迅速な回収と注意喚起を徹底した結果、2カ月で売り上げは8割まで回復しました。このケースは危機管理対応の手本として知られています。

倫理観とは危機管理だけの話ではありません。Aという商品をスーパーで500円で置いてもらっているとしましょう。Aをアレンジして原価率の低いBという商品を開発し、Aより高い600 円で置いてもらえることになった場合。スーパーからこうした値段の提案があったとしても、私が営業ならこの値段で売ってもらうことを断ります。

なぜなら、お客様は必ずそのからくりを見抜くからです。生活者は賢い。生活者をあざむくような売り方をすると、仮にその瞬間は売れたとしても、必ず会社の信頼を損なうという形で返ってきます。

(2)正しいことを正しく

正しいことを正しく。これは交渉事でも同じです。

ジョンソン・エンド・ジョンソンの頃、ある医療機器の国内導入を求めて毎日のように厚生労働省の担当部局に行っていました。まだ国内で販売認可が下りていない高度な医療機器ですので、価格設定は厚労省でも難しい。私は原価や開発にかかったコストなどを全て厚労省の人に伝えました。そのうえで、利益はこれだけ必要だから、これだけの価格で売りたいと。結果として、ほぼ希望通りの価格で販売認可が下りました。

プロ経営者・松本晃氏

ウソは所詮、ウソをついたことを忘れたりして必ずバレるものです。

正しいことを正しく。これは仕事の仕組みややり方を検証する際にも当てはまります。

習慣化している仕事の仕方を問い直し、果たしてそれは正しいかを見直す。カルビーでは業務の棚卸しを年に2回行い、状況の変化に対応できず惰性で続けている業務をやめるなど、点検をしてきました。

私はカルビーの60年の歴史を知りませんので、社員のみなさんに6〜8人のグループをつくって議論するスタイルをとり、考えてもらいました。日本人は大勢の前では発言しませんが、これくらいの小さなグループだと抵抗なく議論できます。こうしてミーティングの形も変えました。前提としては「No Meeting, No Memo」です。ムダな会議、ムダな資料はつくらない。

正しいことは何かを考えながらやれば、本来、ビジネスはそれほど難しいものではないのです。ビジネスは「原則論」ありきなのです。

(3)自分の頭で考える。

おいしいものは飽きる。まずいものは慣れる。

こう言うとギョッとするかもしれませんが、おいしいものは案外飽きるし、青汁のような決しておいしいとは言えないものでも人は習慣にできます。

世の中とはそういうものだと知っているかどうかは、ビジネスにおいて重要です。

プロ経営者・松本晃氏

主力商品・ポテトチップスの中でも、成形チップスという分野においてカルビーは後発でした。先行するライバル会社が250億円市場の圧倒的なシェアを誇る市場をとりにいくにあたって、カルビーは技術力が高いため、ライバル会社以上においしいものをつくれてしまいます。

しかしビジネスでは、おいしいものをつくることも大事ですが、それ以上に売れなくてはなりません。圧倒的シェアを誇るライバル企業の商品の味に慣れてしまっているお客様にとって、スタンダードと違う味は「食べたい味」ではないのです。人は味覚に関しては、それほど頑固なのです。

スタンダードとして定着している圧倒的シェアに立ち向かうには、お客様の味覚に合わせてシェアをとりに行くのが正しい。

おいしいものをつくってはいけないということではありません。しかし、おいしいものをつくれば必ず売れる、ということでもありません。

食品業界が長いわけではないのにどうして分かるのかと聞かれますが、それは常に「これはどうしてだろう?」と考えているからです。私は毎週末スーパーやコンビニの棚を眺めますが、自社商品だけではなくあらゆる商品を常に1グラム=何円かという目線で見ます。1グラムあたりいくらを超えると値段とおいしさのバランスがとれなくなる(売れない)、という物差しも持っています。

算数の物差し、そして常に「どういうことなのか?」と考えることです。

(4)「59点」=現状維持是即脱落

RIZAP社長の瀬戸健氏(左)とカルビーCEOの松本晃氏(右)

松本の次の仕事場はRIZAP。同社社長の瀬戸健(左)を世界に通用する経営者に育てたいという。

撮影:小島寛明

カルビーを退任する際の会見で、自己評価を「59点」と話したのは、自分で自分にやすやすと合格点を出して満足したくないからです。

人は誰しも自分のしたことを守りたい、肯定したいという気持ちが生じてしまいがちです。私はどちらかというと過去を肯定したくありません。肯定してしまうと、新しく変わっていけなくなってしまいます。だから、今まで取り組んだこと、結果を出せたことでも、また変えてしまおうということもあります。

現状に満足することは停滞を意味します。

なによりも、日々変革、日々チャレンジがないとおもしろくないでしょう。

(5)「変えろ・決めろ・逃げるな」

新しく始まるRIZAPの仕事ももちろん面白いはずです。すでにワクワクしています。仕事とは大変なものですが、集中して働いた後の充実感のある疲れは心地いいものです。朝目が覚めた時に「よし、今日もやるぞ」と思えることが大事です。そんな仕事環境を持ち続けるために、煎じ詰めれば「変えろ・決めろ・逃げるな」こそ、私が「こうありたい」と考える仕事の基本の構えです。

テクノロジーによる環境変化や中国の台頭など、時代のスピードにキャッチアップしていくためには自分自身、変わり続けていくこと、新しいことへの好奇心を持ち続けていくこと、そして仕事でワクワクし続けていきたい。死ぬまで働くかもしれません。

(文・三宅玲子、写真・今村拓馬)

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