あなたの見ているニュースを隣の人は見ていない。ニュースはここまで“最適化”されている

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毎日届くニュースアプリのプッシュ通知や配信されている記事が「自分と他人で違う」ことに気づいている人はどのくらいいるだろうか?

メディアの記者をやっていると、毎日届く各ニュースアプリのプッシュ通知はとても気になる。プッシュ通知が「うざい」という声もあるが、プッシュされるとその記事は確実に読まれる。なので、スマートニュースやNewsPicksなどのプッシュに編集部一同一喜一憂しているのだが、すぐに気がついた。あれ、自分にオススメされているニュースが、他の人にはプッシュされていない。

あるときに自分が書いた記事がプッシュされたので、喜んで編集部内のSlackに書き込んだ。すかさず他の編集部員から来た反応は、

「え、来てないけど」

そこではじめて、ニュースアプリではニュースが相当「パーソナライズ」されていることに気づいた。

パーソナライズとは:個人の属性や行動履歴に基づいて最適化されたサービスを提供すること。

パーソナライズによる情報の分断が顕在化したのは、2016年のアメリカ大統領選だった。アメリカではその懸念が早くから叫ばれていたが、こうした「分断化」が厄介なのは、ユーザーが知らないうちに「勝手に」パーソナライズされている点だ。 他人と自分でどのくらい見ている情報が異なるのか、知ることはできない。

現状、日本のニュースアプリはどこまでパーソナライズされているのだろうか?主要ニュースアプリに実態を聞いた。

公共性と偶然性と行動を重視するヤフー

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Yahoo! JAPANのトップページには「公共性」や「新しさ」などの観点から編集部員が選んだトピックが並ぶ(6月2日のトップページ)。

出典:Yahoo! JAPAN

パーソナライズ、と言っても、その意味するところは広い。ここでは、ユーザーが主体的にカテゴリーを並び替えたり地域を設定することではなく、サービスの運営側が機械的に個別最適化した部分(アルゴリズミック・フィード)を見ていくことにする。

まずは、日本最大のニュースプラットフォームであるYahoo!ニュース。月間ページビュー(PV)数は150億を超え、Yahoo!ニュースのトップにあたるYahoo!ニューストピックス(通称、ヤフトピ)の社会的影響力は大きい。

その「公共性」の高さから、Yahoo!ニュースでは基本的にはこれまでパーソナライズを進めて来なかった。

「会社としてはデータの会社になろうとしており、パーソナライズしていく方向性ですが、守らなければいけないこともある。Yahoo!ニュースは社会的関心に応えて多くのユーザーに日々使ってもらえる場を作りつつ、公共性の高いニュースを広く届けることを重視しています」(ヤフーメディアカンパニートップページWEBサービスマネージャーの奈須川信幸さん)

こうした「公共性」や「社会的関心」は人間でないとなかなか判断できないことから、編集部員が手動でトピックスを選んでいる。

一方、ポータルサイト・アプリである「Yahoo! JAPAN」はパーソナライズを強化しつつあり、トピックスの下にあるタイムラインは閲覧履歴や性別、年代などの属性をもとにパーソナライズされている。

実際に複数人の画面を見比べてみると、その違いは明確だ。

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左が30代前半女性、右が20代後半男性。同じW杯の話題でも女性には「妻」が主語のニュースが並ぶ(6月1日時点のYahoo! JAPANトップ画面)。

出典:Yahoo! JAPANアプリ

個人の属性や嗜好に沿ってニュースを最適化する理由について、Yahoo! JAPANのトップページ管理に携わる奈須川さんは「気付きを与えるため」だと話す。

「その人が好きなニュースを届けるだけではなく、セレンディピティ(偶然の発見)を重視しています。例えば、サッカーに興味のある人に、セルビアの国際情勢のニュースを混ぜるとか、その人の視野を広げるような記事を提供できることこそがヤフーの強みだと思っています」

単にその個人の属性や嗜好に合わせていくだけだと視野が狭くなってしまうことを意識しているというわけだ。今後は「知って終わり」だけでなく、より行動につながる形でパーソナライズを強化していきたいという。

「今タイムラインに並んでいるのはニュースが主体ですが、ここに映画の情報だったり、ネイルの新商品を見せてそのまま買えるようにしたり、もっと日常的に体験につながるようなコンテンツを入れられないか検討しています」(奈須川さん)

「多様な視点」試行錯誤するスマートニュース

同じくマス向けのニュースアプリで、よりパーソナライズを強化しているのがスマートニュース。

スマートニュースの前身となる「Crowsnest」は、自分がフォローしているユーザーやフォロワーが話題にしているニュースをパーソナライズして届けていた。それをパーソナライズせずにより多くの人が注目しているニュースを届ける形に変え、2012年12月に誕生したのがスマートニュースだ。

最近、パーソナライズを「再び」強化する方向になっている。

2017年秋頃に、「おっ、と思わせるような記事を提案していきたい」(藤村厚夫執行役員)という考えから、トップの下の部分(スクロールした部分)に「あなたにおすすめ」を設置。

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閲覧履歴やチャンネルの設定などによって表示されるコンテンツは異なる。一番左がアプリをDLしたばかりの30代前半の女性、真ん中が仮想通貨や政治ニュースをよく見ている30代前半の女性、一番右が政治や大学改革のニュースをよく見ている20代後半の男性(6月1日時点のトップ画面)。

出典:SmartNews

閲覧履歴やチャンネルの設定などによってパーソナライズしているが、興味・関心に合った記事だけではなく、その人が普段から見ているニュースと隣り合う分野や、少しだけ離れていて興味を持ってもらえるかもしれない記事、「パーソナライズされたディスカバリー(発見)」(藤村さん)を重視しているという。

また、プッシュ通知も個人に最適化している。朝・昼・晩の定刻にプッシュされる記事の数は2〜3タイトルと毎回同じではないが、全員に共通の記事とパーソナライズされた記事が同時に送られている。

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プッシュ通知の本数はタイミングによっても異なるが、届く割合としては、全員共通の記事よりもパーソナライズされた記事のほうが多いという。

出典:SmartNews

2011年、アメリカのインターネット活動家、イーライ・パリサーは著書『閉じこもるインターネットーグーグル・パーソナライズ・民主主義―』の中で、インターネットによって人々の思考の分断化が進む現象を「フィルター・バブル」と呼んだ。

パーソナライズを強化するほど分断のリスクは高まるが、スマートニュースでは社内で皆この問題意識を共有しているという。「多様な視点をどう提供していくか試行錯誤している」と藤村さんは語る。

「例えばアメリカでは政治的に二極化が進んでいるので、US版では、保守系の人に逆側の記事を表示するなど、政治的な中立性を形成するようなアルゴリズムを開発しています。日本版ではまだ実装していませんが、国際カテゴリーで注目度の高い日韓・日中問題だけを取り上げるのではなく、さまざまな国を取り扱ったり、欧米のメディアなど情報源も多様化させています。普段あまり見ないような“食わず嫌い"の記事を見てもらうという意味でも、パーソナライズは重要だと思っています」

NewsPicks「キーワードはAIとブロックチェーン」

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「マイニュース」は閲覧履歴によってパーソナライズされたニュースが流れてくる。

出典:NewsPicks

こうしたフィルター・バブルに問題意識を持って2013年9月に生まれたのがNewsPicksだ。

2011年11月にサービスが開始されたGunosy(グノシー)は、ユーザーの興味に合わせてパーソナライズした記事を届けることを特徴とし、ユーザー数を拡大した。一方、NewsPicksは「見方によってニュースの意味は大きく変わるので、多様な見方をしないと正しい情報に近づけないんじゃないかという考えから作られた」(ニューズピックスCTOの杉浦正明さん)。

ニュースの多様な見方を提供するために、コメント機能をつけ、専門家のコメントも見られるのがNewsPicksの大きな特徴だ。

こうした考えから、パーソナライズされている部分は少なく、プッシュ通知や総合トップなどは、編成部員が「ビジネスパーソンが読むべき記事」として手動で選定しており、全ユーザーに共通。唯一「マイニュース」のみが閲覧履歴からパーソナライズされている。

ただ今後については、パーソナライズの強化も考えているという。

目指しているのは好奇心の拡張。本人が知りたいことを狭めるのではなく、むしろ広げるような、次の情報をどうやって提示できるかを模索しています。キーワードはAIとブロックチェーン。将来的には(NewsPicks内だけではなく)各メディアの垣根を越えて、読者が面白いと思ったデータを共通の基盤に蓄積させて、表示するコンテンツを変えていきたい」(杉浦さん)

現時点ではコンテンツのパーソナライズ自体はあまり実装されていないが、ブロックチェーン技術を使ってピッカー(ユーザー)にポイントを送る機能が実装されたβ版のテストが2018年6月11日から開始される(NewsPicks「サンクスポイント」とは)。

こうして各ニュースアプリの現状を見ると、2011年頃に広がったパーソナライズはいったん縮小傾向になったものの、最近再び強化されつつある。しかし、興味を狭める形ではなく、より広げる意味でパーソナライズしている背景には、フィルター・バブルへの問題意識が共通して存在する。

Facebookでニュースを読む人が増えている。狭い世界に閉じ込められ、今の政治は極端に分裂してしまった」(Netflix「2018年1月12日公開 デヴィッド・レターマン:今日のゲストは大スター」より)、現代の人々の情報への接触の仕方について、バラク・オバマ前米大統領はこう危機感を示す。

2016年米大統領選では、ロシアによる情報工作にFacebookが使われたと指摘され、プラットフォームの倫理的責任が問われている。一方で、グーグルの検索結果などにおいても、今後さらにパーソナライズが強化されていくのを避けることは難しく、ユーザーとしても、自分と他人では見ているニュースが異なることを意識した上で、情報収集をする必要があるだろう。

(文・室橋祐貴)

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