売り手市場時代の新入社員が苦しむ「6月病」——悩みを相談すべきは同期や先輩ではない

空前の求人難で、企業の新入社員の受け入れ態勢はより手厚く、丁寧になっているという。かつて環境に適応できない新社会人の悩みは「5月病」と呼ばれたものだが、最近は職場の手厚いフォローのせいか、入社後の迷える時期が1カ月ほど延びて「6月病」と呼ばれることも多いようだ。

梅雨も始まる悩み深いこの6月、新社会人の「次につながる」悩み方について、組織人事コンサルタントの秋山輝之氏(株式会社ベクトル副社長)が寄稿してくれた。

項垂れる若いサラリーマン

新たな環境、慣れない仕事、人間関係。悩める毎日を過ごすうち、人目かまわず崩れ落ちたくなる……真剣に生きていればこそ。

Reuters

「5月病」が「6月病」にシフトした理由

例年この時期は「今年の新入社員は○○で困る」の類いのネタに事欠かないが、2018年も例に漏れず、最近の若者は特に飽きっぽいだとか、根性のない「スーパーゆとり世代」だといった声が聞こえてくる。受け入れる側の反応を見る限り、今年も新たな環境になじめない早期離職者が出て問題になりそうだ。

実はデータを見ると、新社会人(入社1年目)の離職率はこの数年低下している。売り手市場化が進んだために、かつてに比べて学生側が納得して就職先を選べていること、また厳しい求人難の中で人材を獲得、定着してもらうために、企業側も就労環境の改善に取り組んでいることが要因とされている。

受け入れ側の担当者に聞いてみると、「今年は5月いっぱいまでは残業をさせないよう各部署に依頼している」(大手飲料メーカー人事)「入社3カ月までは月3回のランチミーティングを続ける予定」(医療系ベンチャーCEO)など、特別扱いの期間が長くなっている。そのためか、社会人というライフスタイルに呑み込まれていく恐怖や、焦りと違和感で立ち止まる「5月病」の季節は、少し遅れてやって来ているようだ。

新人引き止めのための企業努力が続く一方で、労働市場は積極的な動きを見せている。

若者の絶対数が国全体で不足している現在、第二新卒層は人材ビジネスの草刈り場と化している。就職人気ランキングの上位企業からチャレンジングなベンチャーまで、多種多様な求人情報が、新社会人に「退職して、こっちにおいで」とSNS上で誘い水をかける。大手人材紹介会社の発表によれば、2018年の新社会人は2017年の2倍のペースで転職サイトに登録している

早期離職を防ぎつつ、第二新卒を欲しがる「矛盾」

住友商事の入社式

入社式から辞令を受け、新たな環境でゼロから社会人としての修練を積む。ストレスを感じない人間はいない。写真は住友商事の2018年入社式。

Reuters

日本の企業はこのように、丁寧な受け入れ教育で早期離職を防ごうとしながら、一方で新人向けの求人広告を積極的に打ち、転職市場を成長させている。これはどう考えても矛盾だ。

実際、第二新卒の転職市場拡大には賛否がある。「自分の頃は3年勤めなければ転職できないと言われたが、それでも我慢する中で得られたものは大きかった」という“石の上にも3年”的なアドバイスには、今日もなお普遍的な存在感がある。

逆に、ミスマッチを早期に解消できるとか、ブラック企業から抜け出せるチャンスが確保されたとか、自由な転職の広がりを歓迎する向きも増えている。

こうした変化は少子化の人口構成上、必然的であり、功罪を論じてもあまり意味がない。新社会人が容易に転職活動できる環境が生まれ、企業はそれに応じた動きを取っているに過ぎない。

転職市場は変化したのに「悩み方」は変化ナシ

品川駅の群衆

地方から出てきた新社会人にとっては特に、人混みの中を毎日通勤するだけで非日常的なストレスだ。

Reuters

では、若者の方はどうかと言うと、その多くが相変わらず、かつての「転職できなかった時代の若者」と同じ悩み方をしている、というのが筆者の実感だ。

若者の悩み方が甘い、と上から目線の評価をしたいわけではない。むしろ新社会人たちは、年々慎重に考えるようになってきているようにすら思う。

アルバイト先などで、早期退職後にキャリアが迷走した先輩たちの姿を見たり、直接話したりして、転職失敗のリスクを早くからリアルに学んでいる。また、20代に充実したキャリアを過ごした人と、停滞した職場で惰性的に過ごした人の「その後の格差」を知り、20代の過ごし方に焦りを持っている。慎重に考えるための情報はかつてないほど十分得ているのだ。

相談すべき相手に相談していない新社会人

就職説明会の学生たち

同期や学生時代の友人に頼りたくなる気持ちは皆一緒……でも、それだけでは現実問題は解決しない。

写真:今村拓馬

そうした情報を踏まえて考えてみてもなお、退職すべきではないかと心から悩んでしまうとき、誰に相談し、何をするべきなのか。それが問題だ。

多くの新社会人は、この相談を学生時代からの友人や同期で済ませようとする。無理もない。両親に相談すれば「親ブロック」がある。上司に相談すれば、「石の上にも3年」アドバイスが来るのが目に見えているのだから。

大手企業だと、集合研修時の人事担当者との個別面談や、近年流行の「ブラザー・シスター制度」で、先輩との相談機会を設けてくれたりもする。ただ、そういう対話の中で転職を勧められたという話はあまり聞かない。人事担当もブラザー・シスターも、初めから退職させないことをミッションとして背負っているのだから、当然のことだろう。

とはいえ、そういう結果が見えているからと言って、転職エージェントだけに相談するのも違和感がある。家族や会社とは逆に、転職エージェントは転職させるのが商売だ。それこそ、相談して転職を勧められなかったとしたら、紹介先がない人物と評価されたと思って間違いない。

転職の可否を判断する3つのポイント

転職は別に悪いことではない。すでに述べたように、かつては早期離職はタブーだったが、今や大手名門企業ですら第二新卒の転職者を歓迎する社会に変わっている。

問題は、転職には大きなリスクが伴うということだ。人事コンサルタントとしてこれまで見てきた数々の転職例から考えて、次の3点を正確に把握することなしに、正しい判断は期待できないと断言できる。

  1. 今の会社で得られるキャリア(まだ自分に見えていない、今の職場で得られる可能性)
  2. 自分の能力や適性(実際に働いて分かった、能力や性格、現職場や会社全体との適性)
  3. 退職した場合の適した転職先と、そこへの到達方法

これらの点を正確に把握するために相談する相手として、同期や友人はもちろん、職場の先輩でもたいていは役不足だ。

同期や友人ではなく「経営陣に直接相談」すべき

就職活動

内定をもらったときの感動と感謝は忘れることはない……が、やっぱり社会人になるといろいろある。

Shutterstock

筆者が強くお勧めしたい相談相手は、(あなたが相談できる限りの)社内の上位職者だ。ベンチャーなら社長に直接相談するのが一番いい。力がある人であればあるほど、若いうちにしっかり悩んでいるものだ。退職を考えていると相談しても、驚かれることもなければ、失望されることもないだろう。

この時期になると、「期待の新人が、本人よりポテンシャルが低い上司だけに内々で相談してしまい、大した可能性も示されずに退職に至ってしまった」(化粧品大手の取締役事業部長)「ミスマッチしていた新人が、さらにミスマッチしそうな会社に転職していった。相談を受けていれば、知人の会社に紹介したかった」(アプリ開発社長)といった話をよく耳にする。

新人のキャリア相談を受けられる人が社内に実はそう多くないことを、経営層はよく知っているので、それは自分たちの役割だと考えているのである(そうでないとしたら問題だ)。

今悩み、不安に感じていること、自身の能力やスタンスに対する正直な評価、社会人の先輩としての立場から見て自分にどんな選択肢が適していると思うか……真摯に尋ねてみるのがいい。もしあなたが職場に違和感を覚えているのなら、職場側もあなたに違和感があるかもしれない。社内外で成功を収めてきた経営層なら、その経験をもとに、具体的な変化をあなたに求めてくるかもしれない。

職場・キャリアには相性というものがある。合わない人が無理に残ることは、会社にとっても不幸なことだ。やみくもに引き留めず、良い転職エージェントや転職活動のための(休暇や給与など)配慮を考えてくれることもあるだろう。

もし経営層に相談する勇気がない、会社規模が大きくて経営層への相談は難しいということなら、先に挙げた3点だけに絞って相談すると決め、社内の誰かに話してみるといい。

自分の悩みへの共感を得たいだけなら、同期や友人に慰めてもらいながら運に身をまかせればいい。しかし、今後のキャリアを真剣に考えて悩んでいるのなら、「自分の評価を聞く」勇気を持つことだ。


秋山輝之(あきやま・てるゆき):株式会社ベクトル取締役副社長。1973年東京都生まれ。東京大学卒業後、1996年ダイエー入社。人事部門で人事戦略の構築、要員人件費管理、人事制度の構築を担当後、2004年からベクトル。組織・人事コンサルタントとして、のべ150社の組織人事戦略構築・人事制度設計を支援。元経団連(現日本経団連)年金改革部会委員。著書に『実践人事制度改革』『退職金の教科書』。

ソーシャルメディアでも最新のビジネス情報をいち早く配信中