なぜいまメルカリは上場なのか?その本当の目的を読み解く

今日の記事では、ついに株式上場が承認されたメルカリに関して考察してみたいと思います。

メルカリのロゴ。

東証マザーズ上場が秒読みのメルカリ。その決算書から、真意を読み解く。

撮影:今村拓馬

売り上げ・営業利益

まずは売り上げと営業利益を見てみましょう。

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2017年6月末までの1年間で、売り上げが221億円、営業利益が△27.8億円となっています。売上ベースでの前年同期比の成長率はプラス80%と、非常に高い水準で成長していることがよく分かります。

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また今期の第3四半期までの9カ月での数字を見ると、売り上げが261億円、営業利益が△19億円と、こちらも大きく成長していることがよくお分かり頂けると思います。

ユニットエコノミクス

今回の上場目論見書は、実はあまりビジネスに関しての記載が詳しくないため、分析するのはかなり難しいのですが、出来る範囲でやってみたいと思います。

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ここにある3つのグラフは、左から累計のダウンロード数、登録MAU、流通総額となっています。このグラフから読み取れることを、いくつか書いておきます。

一つ目は、登録ダウンロード数10に対してMAUが1になる傾向にある、ということです。つまり、ダウンロードした人の10%ぐらいが月間でアクティブなユーザーになるイメージです。

二つ目は、約1,000万人のMAUに対して四半期あたり1,000億円の流通総額ということになりますので、1 MAU あたりの流通総額は月約3,333円という計算になります。

ここで注意したいのは、MAU のグラフは右肩上がりに直線的に上がっている傾向のように見えますが、流通総額のグラフは直線で上がっているのではなく、指数関数的にカーブの勾配が大きくなっているように見えるという点です。これは、メルカリのCtoCフリマビジネスというのがネットワーク外部性が非常に大きいビジネスで、ユーザー数が増えれば増えるほど指数関数的に流通総額が増えるビジネスになっているためです。

この点に関連しますが、三つ目のポイントとしては、アメリカでのビジネスが全く立ち上がっていないという点になります。ダウンロード数は3,700万ダウンロードもあるにも関わらず、流通総額への貢献は四半期あたり60億円という規模に留まっています。

まだ全く立ち上がらないアメリカでのビジネス

アメリカでの累計ダウンロード数が3,700万となっていますが、日本で累計ダウンロード数が3,300万であった2016年6月頃を見ると、流通総額が四半期当たり390億円程度となっていますので、ダウンロードあたりの流通総額への貢献で見ると、アメリカの方が約6倍~7倍ほど効率が悪いことがよく分かります。

上でも述べましたが、C2Cのフリマビジネスはネットワーク外部性が大きく働くビジネスになっています。単純計算でアメリカは日本よりも3倍以上人口が多いため、同じだけのネットワーク外部性を働かせるには、少なくても日本の3倍程度の MAUが必要だという計算になります。

また物価の違いも大きな要因になります。広告費が日本よりもずっと高いだけではなく、日本のテレビCMのように国内全てに広くリーチする広告手段もなく、また人件費ベースで考えるとシリコンバレーでの人件費は日本の少なくても2倍~3倍程度は必要になります。

一方で絶好調な日本でのビジネス

今回の目論見書では、連結での決算と単体、つまり日本法人の決算が両方開示されていたので比較をしてみました。

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こうして見ると、日本においては経常利益ベースで年間約45億円もの利益を上げていながら、アメリカにおいて約72億円の損失を出している計算になります。

日本でも、メルペイなど新しい事業を立ち上げていくという計画が既に発表されていますが、年間80%も成長しており、経常利益が45億円も出ているのであれば、株式上場という大きなコストを払ってまで資金調達をする必要もないかもしれない、と思ってしまうのが一般的な見方ではないでしょうか。

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またメルカリのバランスシートを見ると、現時点で現金が約536円億円あります。売買代金の未払い分などを考慮して、単純に流動資産から流動負債を引くと、それでも約200億円程度のネットの現金(相当)があることになります。

つまりこれだけ絶好調な日本でのビジネスを見る限りにおいて、「日本の国内市場において多角化をしていくだけであれば、少なくてもこのタイミングで株式上場をする必要は無かった」とも言えるでしょう。

資金調達額は約445億円

そういった背景を踏まえて、今回の資金調達の規模を見てみたいと思います。

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こちらに記載されている通り、今回の株式上場においては約1,800万株を新規に発行します。そしてそのうち約429万株を日本国内で、1,387万株を海外で募集すると、いう計画になっています。

今回の株式上場に関して、想定仮条件が一株あたり2,200円~2,700円となっており、その平均価格で計算すると、今回の総資金調達額は約445億円という非常に大きな規模になります。

マザーズへの上場で、これだけ大きな金額を調達するというのは非常に異例のことだと思いますし、海外への割り当てがこれだけ大きな割合になっていることも、とても珍しいのではないでしょうか。

なぜこれだけ巨額の資金調達額が必要だったのか?

すでに現金相当が約200億円程度あり、それにプラスして約450億円もの資金調達を行うということは、これらの資金用途はほぼ間違いなく、海外市場、特にアメリカの市場におけるシェア拡大に使われる予定なのだと考えるのが自然でしょう。

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メルカリはこれまで、ドルベースで見ると$116M(約116億円)の資金を調達し、日本市場で十分なネットワーク外部性を持つことができるC2Cのビジネスを立ち上げることに大成功しました。

一方で上で述べたように、アメリカのマーケットというのは人口だけで3倍、さらに物価が日本よりも相当高い状況で勝負せざるを得ず、日本で資金調達をしてきた$116M(約116億円)程度では全く太刀打ちできない、ということがよくお分かり頂けるかと思います。

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例えば、完全に同じサービスではありませんが、似たようなフリマサービスで見ると、letgoというアプリは$475M(約475億円)調達しています。

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OfferUpは$222M(約222億円)調達しています(OfferUpはあまり資金調達情報を開示しないため、もしかするともっと大きな金額を調達している可能性もあります)。

アメリカの市場では、これらのプレイヤーが人材獲得だけではなくマーケティングにも非常に大きな投資を行い、Winner takes allであるフリマのCtoC市場を独占しようと切磋琢磨しています。

メルカリがこれらの競合とアメリカ市場で戦っていくには、今回調達する450億円程度の非常に大きな投資が必要なことは明らかであり、それも長い期間に亘って少しずつ投資をするのではなく、今回調達する450億円を1、2年の間に一気に投資して、マーケットシェアを取り切ってしまわないと勝ち目がないとも言えるでしょう。

日本というマーケットで安住しているのであれば全く必要がないようにも見える今回の株式上場、そして大型資金調達ですが、この調達金額から発せられている唯一のメッセージは、本気でアメリカ市場に大きく投資をするという覚悟だと思いますし、その「目線の高さ」に改めて驚きました。

今後もメルカリには是非、アメリカでも頑張って頂きたいと思いますので、引き続き注目していきましょう。


シバタナオキ:SearchMan共同創業者。2009年、東京大学工学系研究科博士課程修了。楽天執行役員、東京大学工学系研究科助教、2009年からスタンフォード大学客員研究員。2011年にシリコンバレーでSearchManを創業。noteで「決算が読めるようになるノート」を連載中。

決算が読めるようになるノートより転載(2018年6月5日の記事

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