左から、WowooCEOのフジマル・ニコルス氏、Bitocoin.com CEOのロジャー・ヴァー氏、オウケイウェイヴの松田元氏。
シンガポールに拠点を置くブロックチェーン企業のWowoo(ワォー)が開発した仮想通貨Wowbitが2018年5月15日、香港の仮想通貨取引所Bit-Zに上場した。
Wowooは、Q&AサイトOKWAVEを運営するオウケイウェイヴが全面支援している。Wowooが、仮想通貨で資金調達するICO(Initial Coin Offering)を実施したところ、調達額が日本円換算で300億円相当(ただし2017年12月のレート)に達した。現在は、ICOのプラットフォームの開発を進めており、2018年夏をめどにサービスの開始を目指している。Wowooの評議員を務めるロジャー・ヴァー、同社CEOのフジマル・ニコルス、オウケイウェイヴで取締役を務める松田元の3氏がこのほど、トークセッションを開き、Wowooの可能性、ICOの課題、ブロックチェーンの未来について縦横無尽に語り合った。
トークン(引換券、ネットワークの利用権に相当)の上場は、ICOの成否を分けるポイントのひとつと言われている。ICOを実施する企業は、資金を提供してくれた人にトークンを渡すが、このトークンが上場できないと、法定通貨と交換できないため、事実上、トークンには価値がないことになるからだ。
Wowooは、ICOを実施する企業を支援するプラットフォームの開発を進めている。このプラットフォームでの取引に使う仮想通貨がWowbit(通貨単位:WWB)だ。Wowbitが上場されたことで、ICOに参加した人たちも、Wowbitを他の仮想通貨や法定通貨に交換することができるようになった。
今はデリバティブ、FXが出てきたときと似た状況
フジマル・ニコルス氏(以下、ニコルス):今回のプロジェクトは、世界中から注目を集めることができました。すぐに完売になり、思ったより多くの人に届けることができなかったのは少し残念でした。でも、無事にセールをクリアし、発行したトークンの流通性を確保する意味で、目標としていた上場ができました。
松田元氏(以下、松田):2017年、ICO事業を立ち上げようと思ったときと比べると、ICOという言葉が社会的な認知を得ました。良い面と悪い面があるのですが、注目されていると感じます。
一方で、世界的に当局の見解も出てきて、新しい金融商品が出てきたときと、すごく似ています。1980年代にデリバティブ(金融派生商品)が登場したとき、1990年代の終わりにFX(外国為替証拠金取引)が登場したころには、レバレッジ(※)100倍、150倍が当たり前でした。
レバレッジ:「てこの原理」と訳される言葉で、小額の資本で高額の取引ができる仕組みのこと。例えば25倍のレバレッジの場合、4万円の証拠金で100万円相当の取引に参加できる。
当初は、非常に高いボラティリティ(価格の変動の激しさ)でしたが、FXやデリバティブは、しっかりと規制を受けて安定しました。ICOもそうなっていくと思います。
いまはICOで、とりあえずユーティリティ・トークン(※)を出して、「こういうふうに使えます」と資金調達をして、それから上場させるケースが多いですが、ICOは資金調達性も強いものですから、今後はセキュリティ・トークン(※)という形で、規制を受けながら発展していくと考えています。われわれが過渡期にいると考えると、ユーティリティ・トークンからセキュリティ・トークンに代わるタイミングで市場に入ることができ、Bit-Zでファーストリリースができたのは、非常にエキサイティングです。
ユーティリティ・トークン:サービスを利用する対価として用いられるトークン。セキュリティ・トークン:金や法定通貨など現実の価値の裏付けのあるトークン。有価証券と共通点が多い。
フジマル・ニコルス氏は、Wowooの総責任者として、Wowooチームをリードしている。
ロジャー・ヴァー氏(以下、ヴァー):セキュリティ・トークンと、ユーティリティ・トークンと、おカネの三つがあります。トークンは、どんどん使える会社が世界中で増えています。トークンや暗号通貨はどんどん増えて、古い、昔からのおカネはどんどん少なくなっていくと思います。
ニコルス:お客様のヒアリングをして、スマートコントラクト(※)の契約関係から、トークンセール(ICOのこと)、上場までコンサルティングができるプラットフォームを目指しています。
スマートコントラクト:契約を巡る一連の手続きを、ブロックチェーンと自動化のプログラムで効率化する仕組みのこと。
夏ごろを目標に、ベータ版をリリースしたい。順調に研究、開発が進んでいます。ICOで大々的に資金調達をしたのに、サービスやプロダクトがまったくないケースがありますが、Wowooは、非常に早くプロダクトまでリリースできそうです。今後、いろいろなプロジェクトが控えています。ブロックチェーンを必要としている、さまざまな会社と連携していきたい。
ブロックチェーンの世界では「デザイナー」が足りない
オウケイウェイヴで取締役(CBCO/Chief Block Chain Officer)を務める松田元氏。
Wowooの運営はオウケイウェイヴが支援し、早くからビットコインの普及に取り組んできたロジャー・ヴァー氏も評議員に加わっている。
ニコルス:松田さんがオウケイウェイヴでブロックチェーンのことをやっていて、ロジャーさんとも仲良くされていると聞きました。みんなで知識を持ち寄ったら、意義のあるプロジェクトになると考えました。ロジャーさんが評議員になってくれたのは非常に心強い。
ヴァー:便利なものは活用しないといけません。だから、役に立てるのであれば、評議員を引き受けようと思いました。4年ぶりにオウケイウェイヴのオフィスに来ました。当時ぼくは、ビットコインを広めようとがんばっていました。そのころ、1ビットコインは、3000円か4000円でしたが、いまは100万円まで上がりました。
ニコルス:いま金融界が最も興味を持っているのは、セキュリティ・トークンです。セキュリティ・トークンは、法定通貨や金などの裏付けがあるトークンです。こういうものに進化しないと、仮想通貨は伸びないという問題意識は、ぼくらも彼らも共有しています。今後、規制が緩和され、既存の金融の人たちもセキュリティ・トークンの優位性を見出してくれれば、ブロックチェーンはより広く浸透すると思います。
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松田:ビットコインの課題をビットコインキャッシュ(※)で解決するということが起きているので、ブロックチェーンの技術は改善が起こりやすい。
ビットコインキャッシュ:2017年8月にビットコインから分岐(ハードフォーク)した仮想通貨。ビットコインでは、取引が記録されるブロックが1メガバイトで、1秒間に処理される取引が5〜7回程度にとどまるなどの問題を抱えている。ビットコインキャッシュは、ブロックのサイズを8メガバイトにするなどして問題の解消を目指した。
ブロックチェーンの世界ではむしろ、開発者よりも、デザイナーが足りない。技術を使ってどんなサービスができるか、サービスが社会にどんな変革をもたらせるかという部分で、しっかりとしたリーダーが出てこないと開発が生きません。
日本を「ブロックチェーン立国」に
対談はほぼ日本語で行われた。ニコルス氏は日本語堪能であり、ヴァー氏も日本語を話す。
2017年4月、資金決済法の改正で、仮想通貨の取引所は、金融庁への登録が義務づけられた。世界に先駆けて法制度が整備されたことで、世界のブロックチェーン・仮想通貨関係者から、日本市場への注目が集まった。2018年以降も、国内ではブロックチェーン関連のイベントが連日のように開かれ、世界の有力スタートアップの起業家らが来日している。
松田:世界に先駆けて登録制度にしたのはよかったが、いろんな事件があって、交換業の申請が厳しくなり、課税所得が雑所得(※)とされたのは残念でした。どこよりも早くキャッチアップしたのに、後手後手に回ってしまった。
日本では、仮想通貨の売却や、商品の購入、ほかの仮想通貨との交換で得た所得を「雑所得」として、確定申告の対象になる。現行の計算方法では、FX取引で得た所得と比べて税負担が重くなる傾向があるため、計算方法を見直すよう求める声がある。
とはいえ、まったく遅くはありません。アジアを回っても、日本のほうが感度が高い。いまのうちに軌道修正できれば、十分にブロックチェーン立国になれると思っています。
ニコルス:世界のどこに行っても、日本はどうなんだと聞かれます。かなり世界から注目されているのに、歯がゆい部分があります。ぼくらも、これだけオウケイウェイヴと近いのに、日本人にはICOに参加して下さいと言えなかった。
日本でICOができたら、もっと社会的なインパクトがあったのに、という悔しい思いはあります。この悔しさを日本政府が分かってくれたら、早い時期に改善策が出てくると思います。世界には、日本のマーケットに注目している人がたくさんいます。日本をブロックチェーン立国にできたら素晴らしいと思います。
飲み会のカンパを集めるためのブロックチェーン
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Wowooが開発しているブロックチェーンのプラットフォームは、今後、どのように活用されていくのだろうか。
ニコルス:知見はないけれど、自分たちのプロダクトやサービスにブロックチェーンを活用したら、すごいシナジー(相乗効果)が生まれそうだと、漠然と思っている人たちをターゲットにしたい。
大きな企業だけではなく、大学のサークルの飲み会のカンパを集めるためだけに使うブロックチェーンなど、小さなレベルのものを簡単にできたらいいなと思っています。ただ、それはまだはやすぎるので、いまは大きなプロジェクトに集中しています。
いまはスピードを最優先に、ユースケースを早くつくることにフォーカスしています。2018年だけでも、10プロジェクトぐらいから話をいただいています。
オウケイウェイヴは、仮想通貨交換業に進出する準備を進めている。
松田:オウケイウェイヴとして仮想通貨交換業の申請をしています。金融庁に、検討しうるビジネススキームを説明しています。今後、われわれのビジネスの中で、日本の企業のICOを支援することもあり得るので、引き続き、仮想通貨交換業の申請に向け、万難を排して取り組んでいきます。
公開企業として、十分なガバナンスや組織の態勢を持っていますので、できるだけはやく登録をしたい。個人的には、年内を目指しています。
オウケイウェイヴには150万人のユーザーがいて、4600万のデータベースがあります。仮想通貨が登場する前から、「ありがとうポイント」を一定のロジックで付与してきました。近視眼的なマネーゲームのためではなく、交換業者として登録することが、いかに社会にインパクトがあるかを説明していきたい。
ICOは世界的な注目を集める一方で、日本を含む各国の当局が規制のあり方を議論している。
IPOよりもICOがメジャーになる日は来るのか?
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ヴァー:いずれはICOのほうがIPO(新規株式公開)よりも人気になる可能性があります。一般的な会社も、IPOではなく、ICOを実施する可能性もある。IPOの場合、どの証券取引所に上場するのかが大事ですが、ICOの場合は、より広く、世界中から資金を集められる。
ニコルス:ICO、仮想通貨の強みは、直接つながれるところです。ぼくは、もともと環境のことをやっていましたが、すごい企業が世界中にたくさんあります。応援したいなと思ったときに、「応援しています」とメールを送ることもできますが、金銭的な支援するには高いコストがかかります。でも仮想通貨なら、世界中どこからでも、スマホさえあれば参加できます。
松田:企業が株式を上場するまで、すべてのプロセスに関わった経験がありますが、監査、内部統制やコンプライアンスはすべて、嘘をついていないかどうかをチェックします。
ブロックチェーンは、嘘をついていないかをチェックする仕組みなので、IPOでは当たり前だったチェックがいらなくなる。このことにみんなが気づけば、相当はやく広がります。スマートコントラクトもうそのつけない仕組みで、すべての取引記録が残ります。監査のプロセスがブロックチェーンに置き換わることで、セキュリティ・トークンに切り替わるのも、意外にはやいと思います。
いまは、日本のスタートアップも国外でICOを実施して、ある程度力をつけてから日本に戻ってくる流れがあります。
OmiseGO(※)はタイで拠点をつくって、発行したトークンの時価総額をトップ20前後まで上げてきました。最近、渋谷に逆上陸するという話も出ています。法規制がはやく整備され、日本で健全な形でICOができるようになるといいなと思います。
Omise:タイに拠点を置くスタートアップ企業。複数のブロックチェーン間での取引できる決済プラットフォームOmiseGOを開発している。
ロジャー・ヴァー(Roger Ver):2011年2月から、ビットコインの普及に取り組み、「ビットコインジーザス」とも呼ばれる。現在は、Bitocoin.comのCEOを務めている。
松田元(まつだ・げん):早稲田大学在学中に、アズを創業。現在は、オウケイウェイヴのブロックチェーン推進担当取締役や、オウケイウェイヴの海外子会社OKfinc(マレーシア)の社長を務めている。
フジマル・ニコルス(Fujimaru Nichols):国際ビジネス分野で経験を積んだ後、WowooのCEOに就任。