今でも体育会学生は就活で人気か——「絶対服従人材はいらない」採用やめた企業も

日本大学のアメリカンフットボールグラウンド

撮影:今村拓馬

日本大学アメリカンフットボール部の悪質タックル問題が世間を騒がせている。アメフト部では、監督・コーチが黒だと言えば、たとえ白でも黒と言わなければいけないという絶対服従の体質があったと報じられた。

こうした絶対権力者に逆らうことが許されない体質が染みこんだ日大アメフト部出身者はなぜか、一流企業に就職している人が多いのだという。日大に限らず企業は好んで体育会系学生を採用している。企業にとって体育会系学生の何が魅力なのか。

上下関係や規律に忠実な人材

以前に大手ファイナンス企業の人事課長がこう語ってくれたことがある。

「不条理な世界を経験しているからです。体育会に入ると、上級生の命令は絶対です。たとえ間違っていても耐えながら従うしかありません。その世界を生き抜いてきた学生は不条理だらけの会社人としての耐性を備えているからです」

上下関係や組織の規律に忠実な人材として体育会系の学生を評価しているのだろう。日大アメフト部にも通じるものがある。確かに日本の企業組織は「就社」という言葉に象徴されるように、会社への帰属意識や一体感を重視する親密な集団主義の下で“出る杭”が許されない風土があった。

ラグビーの試合の様子

不条理なことにも耐えられる。そういう理由で体育会系学生を採用する企業もある。

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実際に各社の新卒採用の中で、体育会系出身者は多い。大手鉄鋼会社の人事部を取材したことがあるが、取材対応してくれた3人の人事担当者は見るからに体つきが尋常ではないぐらい大きかった。聞けば3人とも体育会系ラグビー部出身だった。 今でも大手不動産会社や住宅販売会社では多くの体育会系出身者を採用している。

住宅販売会社の人事担当者は採用理由についてこう語る。

「団体スポーツで鍛えた学生を主に採用しています。元気と馬力があるのは当然ですが、チーム全体のことを考えて行動する訓練ができている。一人ひとりの役割が明確ですし、自分がチームに貢献するために技能を磨く資質も備わっている。先輩・後輩の上下関係に忠実だし、部下に使えば言われたことをきちんとやる。とくに営業は人に好かれてなんぼの世界です。理屈もいいですが、親近感が感じられる人間的魅力を持った学生はいいです」

営業は体でぶつかるものという会社にとって、体育会系の魅力は昔も今も変わらないのだろう。こうした企業は体育会系出身者の採用枠をあらかじめ決めているケースが多い。

体力・馬力だけの学生は通用しない

就活

ビジネスモデルの転換によって、新入社員に求める資質も変わってきている。

撮影:今村拓馬

一方、業種によっては好んで体育会系出身者を採用するのをやめたところもある。すでに5年前に採用をやめた大手製薬業の人事部長はその理由をこう語ってくれた。

「一つはビジネスモデルの転換です。営業の主力のMR(医薬情報担当者)の仕事は、以前は医師に対して早朝から夜遅くにかけて営業をかける体力勝負。ゴルフなどの接待営業も頻繁でした。しかし、今では医師も忙しく病院でなかなか会うことはできないし、業界の規制で接待もだめになっている。医師も必要な情報はネットで見ることができます。MRにとって大事なのは、医師が関心を示す海外の医療情報をいかに集めて提供できるか。そのためには今まで以上に勉強しなければいけないし、学習意欲がなければついていけない。正直言って体力や馬力だけの体育会系学生では通用しなくなっています」

もちろんすべての体育会系出身者が通用しないわけではないだろうが、営業スキルの変化に対応できない人が多いという。

30歳以降に伸び悩む

この話で思い出したのが楽天だ。楽天と言えば創業期は体育会系出身の社員が多く、業績拡大に大きく貢献した。だが、楽天が英語公用語化に踏み切ると、バイリンガル出身者など多くの外国人が採用される一方、会社の定めた英語力の基準をクリアできない体育会系出身者が辞めていったという話を聞いたことがある。

また、大手IT企業も体育会系出身者を特別枠で採用していたことがあったが、近年は普通の学生と同じ一般採用枠で選考することになった。同社の人事部長によると、30歳以降に伸び悩む人が多かったからだと言う。

JULY 13 Team Japan in the huddle at the Football World Championship on July 13, 2011 in Graz, Austria. Canada wins 31:27 against Japan.

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「合併を機に人事・賃金制度を欧米型に近い職務給制度に変えましたが、それによって年齢に関係なく昇進・昇格が可能になりました。今では若くても企画力や開発力に加えて部下指導力があれば、抜擢します。ところが体育会系出身者は20代の頃はそれなりの営業成績を上げていても、次に求められる創造力やクリエイティビティに欠ける人が少なくありません。だんだん普通の人に埋没していきます。また、ある社員の指導力を見込んで課長に抜擢したことがありますが、部下であるかつての先輩に対して厳しいことを言ったりできないのです。こちらがいくら助言してもなかなか変わらない。とくに同じスポーツ系の先輩についてはなおさらです」

目上の者に対しては逆らわないという上下関係に忠実な体質が染みついているからであろうか。

教え方や指導が昔のまま

一方、人材サービス会社の人事教育担当者からこういう話を聞いたことがある。

「うちの会社にも体育会系出身者が多くいます。実際に彼らは顧客にも好かれますし、営業成績も抜群によかった。親分肌で部下の信頼も厚いのですが、問題だと感じているのは新人の育成が下手なことです。最近の新卒は人間関係の作り方や情報の伝達手法をスマホで学んだデジタルネイティブ世代と言われます。昔のうちのタイプとは価値観も違います。OJT(職場内訓練)でも丁寧に説明し、納得しないと動きません。にもかかわらず、新人が『どうしてこれをやるんですか』と聞いても、『黙って言われたことをやっていろ』とか『文句を言うのは10年早いんだよ』と言う人が少なくありません。教え方や指導が昔のままなのです」

これも体育会的気質なのだろうか。

企業は人事制度や教育システムの改革など組織構造の変革にも力を入れている。同時にビジネスモデルの転換や会社の次の成長のカギを握るイノベーションの創出を最重要課題に掲げている。

体育会系の持つ封建的な絶対服従の精神や協調性、チームワーク力だけでは企業自体が回らなくなっている。


溝上憲文(みぞうえ・のりふみ):人事ジャーナリスト。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て独立。人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマに執筆。『非情の常時リストラ』で2013年度日本労働ペンクラブ賞受賞。主な著書に『隣りの成果主義』『超・学歴社会』『「いらない社員」はこう決まる』『マタニティハラスメント』『辞めたくても、辞められない!』『2016年残業代がゼロになる』『人事部はここを見ている!』『人事評価の裏ルール』など。

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