アップルの本音は「Facebookやグーグルと一緒にしないで」ではないか?:WWDC2018

過去5年間に発売したiOSデバイス

過去5年間に発売したiOSデバイス。これらすべてにiOS12が適用可能、パフォーマンスにも配慮しているという。

日本でも既に火曜日から話題になっているアップルの開発者向け会議「WWDC2018」。77の国と地域から6000名以上の開発者が参加した基調講演で、開発者から驚きの声があがったのが、この秋、正式公開となる「iOS 12」の対応機種について触れられた瞬間だった。とにかく対応の幅が広いのだ。

iOS 12の対象端末が幅広い理由

最新のiPhoneX、iPhone8は当然だが、iPhone7、iPhone6s、iPhone6、さらには2013年リリースのiPhone5sまでサポートするという。

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アップル公式サイトで公開されているiOS 12対応機種一覧。

アップル

しかも、(アップルによると)iPhone6sであっても、iOS 12にすると、アプリの起動は40%早くなり、キーボードの表示も50%高速化、カメラも70%早くなるなど、いいことずくめのようだ。

これまでのユーザー思考としては「OSをアップデートすると動作が遅くなるから辞めておこう」というのが一般的だった。「OSをアップデートした途端、動作が遅くなるのに我慢できなくなり、結局、新しい機種に買い換えた」という話も聞いたりする。

「アップルは買い換えを促進するために、古い機種ではOSをアップデートすると動作が遅くなるようにしているのではないか」。そんなうがった見方をする人もいるほどだ。

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WWDC2018基調講演でアピールした「iOS 12の高速化」を印象づけるスライド。

アップル

しかし、今回の発表は「古い機種でもアップデートをすれば高速化される」という、これまでにはない異例の発表と言える。

では、なぜアップルは古い機種でも最新OSをサポートし、高速化も実現させたのか。

ユーザーからすれば、一つの機種を長く使えれば、それだけ顧客満足度は向上する。また、古い機種でも最新OSが使えると言うことは、それだけリセールバリューが維持され、中古買取業者に持っていっても高値で買い取ってくれることになる。

高値で売ることができたユーザーは、また将来的な事を考えて、iPhoneを購入するようになるだろう。

もちろん、中古端末が長期間、販売されていれば、新興国などでは「新品のiPhoneは手が届かないけど、中古なら買える」という人たちが、iPhoneデビューしてくれるようになる。

「古い端末の寿命も長くする」ということは、端から見ると、新品が売れなくなるように思えるが、長い目で見ると、iPhoneを買い換え続けるユーザーを増やし、さらに中古市場で新しいiPhoneユーザーを獲得することにつながるというわけだ。

一方のAndroidは、最新OSバージョンアップ率が低いし、そもそも、新しいOSが配布されないスマホもあったりする。たとえばシャープが「2年間は最新OSを提供する」と宣言すること自体、珍しい行為と言える。

AndroidスマホはすぐにOSをアップデートできなくなる可能性があるなか、「iPhoneは5年前の機種でも最新OS」という取り組みは、ユーザーフレンドリーと言えそうだ。

アップル・グーグル揃い踏みで始めたスマホ中毒対策

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アプリの利用時間を分析する新機能「Screen Time」。キッズや保護を必要とする利用者向けに制限もかけられる。

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iOS 12ではキッズ向けのスマホ利用制限機能にも踏み込む。アプリ利用時間制限と、利用状況ログを組み合わせた使い方ができるようだ。内容的には、Nintendo Switchの「Nintendo みまもり Switch」に近い。

アップル

もうひとつ、今回の基調講演で気になったのが、「スマホ中毒対策」として、スマホの利用時間などを可視化できる機能が備わった点だ。

実は、筆者は1か月前に開催されたグーグルの開発者無イベント「グーグルI/O」も取材しているのだが、その時もグーグルは次期バージョンとなる「Android P」において、アプリの利用状況を可視化できる機能を発表していたのだった。

まさに同じタイミングでAndroidとiOSが揃ってスマホ中毒対策をしてきたことには、驚きを隠せない。ただよくよく振り返ってみると、アップルはかなり長い期間、こうした取り組みをしていた。

アップルとしては、すでに2008年にiPhone向けペアレンタルコントロールを提供している。その後、継続的に研究開発が続けられ、今年の発表となったようだ。こうした、顧客に向けた「スマホを使いすぎない配慮」に関しては、アップルとしてはグーグルに比べて一日の長がある。

アップルの立ち位置を明確にした、IT企業をめぐる風当たりの変化

ティム・クックCEO

WWDC2018で熱心に語るティム・クックCEO。

これまでもアップルとしては当然のことなら、ユーザーを守る機能開発を続けていただろうが、ここにきて、そうした姿勢を明確なメッセージとして、世間にアピールするようになってきた。

果たして、アップルに何があったのか。

基調講演を改めて振り返ってみると、ティム・クックCEOが冒頭に発言したメッセージにヒントがあった。

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「Customer at the center of everything(顧客がすべての中心にある)」

昨今、アメリカではFacebookで個人情報が流出したり、アマゾンのスマートスピーカーで会話内容が他人に流出したりと、プライバシーの問題が取りざたされている。

そんななか、ティム・クックCEOはことある毎に「顧客のデータを売り物にすべきではない」と、Facebookやグーグルの企業体制を批判している。

今回、顧客を大切にするという明確なメッセージを発信した背景には、アップルとしてはFacebookやグーグルと一緒にしてもらっては困るというのが本音としてあるのだろう。

今回、ハードウェアの新製品発表はなかったが、今後、9月の新iPhoneなど新製品が続々と登場するとみられている。その時も、アップルとして「顧客重視」を訴求したプレゼンが展開されることになりそうだ。

(文、写真・石川温)


石川温:スマホジャーナリスト。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。ラジオNIKKEIで毎週木曜22時からの番組「スマホNo.1メディア」に出演。

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