大人の発達障害、LGBTs……部下が「みんな違う」時代のマネジメントとは

かつて私の組織に、攻撃的なコミュニケーションをとるメンバーがいました。そのメンバーは社内外からの評判も高く、同僚からの信頼も厚かったのですが、急に特定の条件で、特定の人たちに対して攻撃的になることがあり、対応に苦慮していました。

そんな私に対して、上司からアドバイスがありました。上司によると、そのメンバーは「大人の発達障害」ではないかというのです。

会議イメージ

Michael H / Getty

リクルートワークス研究所の「マネジメント行動に関する調査2017」によると、発達障害の部下を持った経験のある管理職は8.1%とあります。そのうち71.7%の管理職が「マネジメントストレスがあった」と回答しています。

この調査を見て、マネジメントに苦労しているのは私だけではないと分かりました。私自身はそんな中、「大人の発達障害」「LGBTs」「リカレント教育」「金子みすず」という、一見関連がなさそうなテーマがつながって、考え方が変わっていきました。私は「普通」で、そのメンバーが「違う」という考え方が変わり、すべての人に認知の「ゆがみ」があると気づき、最終的には「みんな違って、みんないい」が心の中に染みてきたのです。今回は、そんな私の気づきを、紹介したいと思います。

大人の発達障害には上司が歩み寄ればいい?

ミーティングの様子

Shutterstock

恥ずかしながら当時、私には「大人の発達障害」について基本的な知識もありませんでした。そこで薦められた本を4、5冊読み、全体像を把握しました。 本を読んだことで、私は発達障害についてまったく何も知らない「無知」から、私との「違い」を理解することができました。

特に『部下がアスペルガーと思ったとき上司が読む本』で、理解が深まりました。周囲を攻撃をしていたメンバー自身が、かなりつらい思いをしている可能性があることが分かったのです。この本を読むまでは、攻撃する人が変わるべきだと考えていたのですが、上司側が歩み寄ることがポイントだと書いてありました。 相手ではなく、私が変わればよいのです。これならできそうです。

ただし、それは「普通」の側が「違う」側に歩み寄ればよいという理解レベルです。後から考えると恥ずかしい理解なのですが、当時の私は、かなり把握できたと少し自信を持ち出していました。実際、相手に変化を要望するのではなく、極力相手の話を聞くようにコミュニケーションを変えたことで、関係も平穏になっていきました。

全ての人に認知のゆがみはある

部下や同僚との関係で悩んでいる管理職はたくさんいるので、私が得た知識や理解をシェアすべきだと考えました。そこで、私と仲間3人で4年前から毎月実施している「良い組織を作るための勉強会:TTPS勉強会」のテーマとして「大人の発達障害」を取り上げました。

専門家として、「保健農園ホテルフフ山梨~こころとからだのリゾートのProgram Director」の春日未歩子さんに来ていただくことになり、事前に勉強会の流れなどの打ち合わせをしたのです。この事前打ち合わせが、私にとって「目からうろこ」の経験になりました。

打ち合わせでは、春日さんからはとても重要な示唆を頂きました。それは「全ての人に(認知の)ゆがみがある」ということでした。絵がうまく描けない人。歌が上手に歌えない人。踊りが上手にできない人。音が聞こえすぎる人。人の話のポイントが理解しづらい人。自分の意図を上手に伝えられない人。全て、認知のゆがみなのです。

「普通」と「違う」ではなく、全ての人に認知のゆがみがあるのです。つまり誰もが「普通」とも言えるし、だれもが「違う」とも言えるのです。現代の仕事に必要なスキルに関連する認知のゆがみがある人たちは、仕事がしづらくなっているのです。つまり、時代が変わり仕事に必要なスキルが変われば、大人の発達障害と認定される人も変わる可能性があるということです。

「普通」から「違う」に歩み寄るというスキルの話ではなく、全ての人が「違う」ということなのです。つまり、

無知→理解1(ただし「普通」と「違う」がある)→理解2(「普通」から「違う」に歩み寄ればよい)→理解3(全ての人に認知のゆがみがある=みんな「普通」だし、みんな「違う」)

ということに気づいたのです。

LGBTsについての2つの気づき

6月9日にブルガリアで行われたプライドパレード

REUTERS/Stoyan Nenov

翌月のTTPS勉強会のテーマはLGBTsでした。ちまたで使われているLGBTだけでは表現できない人たちも多数いるのでLGBTsと表現しました。

当日は、グラデーションファシリテーターの藤原加代さんにレクチャー頂きました。ここでも2つの新しい気づきがありました。

LGBTについてよくご存じの方にとって当たり前かもしれませんが、LGBとTは「語る切り口」が違うのです。LGBは、Lは女性同士、Gは男性同士、Bは男女両方と、恋愛対象の話です。そしてTは自分の性に関する認知の話なのです。本来、並列して取り扱うのはおかしいということです。

もう1つの気づきはLGBもデジタルにオン・オフではないということです。勉強会では、「身体」「心」「恋愛対象」「性の表現」の4軸について、自己評価をしました。私の場合、ざっくり身体は10点満点に近く男性。但し、遺伝子的に測定すると分かりません。さらに心は10点か?と問われると、女性的なところがいくつも思い当たります。7点ってところでしょうか。恋愛対象は、基本女性ですが、10点かというとこちらも違います。性の表現は男性です。「身体」「心」「恋愛対象」「性の表現」の4軸で自己評価すれば、私に限らず、すべての人が男性と女性という2つの性だけで説明できる人は限られているのではないでしょうか。

この知識に得たことで、LGBTs に対しても理解3(全ての人に違いがある=みんな「普通」だし、みんな「違う」)へとステップが進みました。

大学卒業時に就職しないと損は当たり前?

2017年5月に行われたUSCの卒業式

REUTERS/Patrick T. Fallon

会社のメンバーとの会話の中で、家族の話になったことがあります。1年ほど前に娘が大学を辞めて、その後、海外の短期留学後、やりたいことを見つけて働き出した話をしました。私が今働いているFIXERという会社は多国籍で、その時の会話した人たちの出身国はアメリカ、アルジェリア、南アフリカと日本でした。私の話に対しての反応の「違い」が面白かったのです。

アメリカ、アルジェリア、南アフリカの3人は「やりたいこと」を見つけたことに着目し、自分のことのように喜んでくれました。一方の日本のメンバーは「大学を辞めた」ことに反応し、聞いてはいけないような顔をしたのです。

会話を進めると、日本以外の3人は何度でもやり直せる、特に大学はやりたいことが見つかったら学び直しができると思っているのです。いわゆるリカレント教育です。実際、各国では大学卒業すぐに就職している割合は7割以下(日本は9割以上)。20代の間に決まると良いなという状況なのです。

大学卒業時に大企業に入社できなければ、負け組だと思っている日本。各国での学生時代の話を聞くと、日本の学校では、「みんなと『同じ』」が求められます。一方で、他国では「『違い』を見つける」ことを求められます。それぞれメリット・デメリットがあります。同じことを求められるのは窮屈だけれど、違うことを求められるのも大変です。

ただ、日本は教育の影響や共通言語として日本語や日本の歴史が通じるということもあり、「普通、〇〇する」とか「〇〇するのは、当たり前」という暗黙知の範囲が広い気がします。FIXERは100人強の会社ですが、イギリス、フランス、イタリア、アルジェリア、南アフリカ、インド、アメリカ、中国、韓国、日本と10カ国の人が集まっています。当然ながら日本の常識の押し付けは通じません。世界から見ると、日本の常識は世界の非常識だからです。例えば、頻繁な異動や転勤などは世界の常識ではありません。

「みんなちがって、みんないい」が増えれば

私は、金子みすずさんの「わたしと小鳥とすずと」という詩の「みんなちがって、みんないい。」というフレーズが好きです。

かつてリクルートテクノロジーズの社長だったころ、このフレーズをモチーフに会議室をデザインしました。机の形は角が一か所もなくて、でこぼこな形にしました。椅子もすべて色も形も変えました。天井からぶら下げた照明は長さも傘の色もすべて変えました。そして、壁には少女(わたし)と小鳥と鈴を描きました。棚には、触ったり、見たりして気持ちの良いグッズを並べました。

ここで打ち合わせをすると、発想が広がるとメンバーから好評でした。

こうするのが「当たり前」。これが「普通」。というのは皆が「同じ」ことをすることがよかった時代には役に立った考え方かもしれません。今後は多様な人たちが集まり、その人たちの「違い」を認め合い、その人らしくいられる「Diversity&Inclusion」できる組織、国に優秀な人材が集まってくると思います。

最近はMBO(目標管理制度)を止めて、リアルタイムフィードバックをする会社や、OKR(Objectives & Key Results)や1on1ミーティングなどを通じて個別マネジメントを行う会社が出てきています。FIXERでは、これらも参考にしながらもオリジナルの月次でMutual Evaluation(相互評価:メンバーのミッション評価と上司の支援評価の相互を行う)のトライアルを始めたり、評価の振れ幅を選べる人事制度を作ったり、1人1人にあった仕組みを導入しだしています。

他社や他国がやっている当たり前や常識を疑って、「みんなちがって、みんないい」そう思っている人が生きやすい、そんな組織、会社、世の中にしたいですね。


中尾隆一郎: 株式会社FIXER執行役員副社長。大阪大学大学院工学研究科修了後、リクルート入社。リクルート住まいカンパニー執行役員(事業開発担当)、リクルートテクノロジーズ社長、リクルートワークス研究所副所長などを経て、現職。株式会社旅工房の社外取締役も兼任。

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