保育事故、誰が責任を取るのか?安全基準を満たさない施設も無償化の対象に

保育施設

写真:今村拓馬

安倍政権が2017年の衆院選で「目玉政策」として掲げた「幼児教育の無償化」。このほどまとまった具体策に「質の担保がされていない」として、批判の声が専門家や自民党内から上がっている。

認可保育園や幼稚園に加え、ベビーシッターや預かり保育などの認可外サービスや施設も無償化の対象に含まれたことに一定の評価はある一方、指導監督基準を満たしていない施設でも、無償化の対象にしたからだ。

果たして安全より、無償化を優先すべきなのか?

指導監督基準を満たしていない施設に5年の猶予

5月31日にまとめられた報告書によると、認可外施設については、親が働いているなど「保育の必要性」がある場合に限り認めるが、料金設定が自由で高額なところもあるため、上限額を設けるとしている。

保育無償化内容

出典:内閣府「幼稚園、保育所、認定こども園以外の無償化措置の対象範囲等に関する検討会報告書」

また、指導監督基準を満たしていない施設でも、5年間は経過措置として無償化の対象に含まれる。

指導監督基準とは、子どもの数に対して、最低限必要な保育士の数や施設の広さなどを定めたもの。劣悪な施設を、あらかじめ排除することが目的だ。

しかし、現状は全ての認可外保育施設を十分に監督できているとは言えず、2016年に東京都が実施した立入調査結果によると、1017の認可外保育施設のうち、立入調査が実施されたのは180施設のみで、わずか17.7%しか調査が行われていない

調査が行われた180施設のうち、132施設(73.3%)が「指摘あり」と、安全面に関しても懸念が大きい。指摘された内容では、保育士の人員不足や非常口が適切に設置されていない点が挙げられている。

認可外施設立入調査

認可外保育施設1017カ所(2016年調査時点)のうち、苦情が寄せられた施設や長期間立入調査が行われていない施設などを対象に立入調査が行われた。

出典:2017年9月19日東京都福祉保健局指導監査部「認可外保育施設の立入調査について」

こうした指導監督基準を満たしていない「劣悪な施設」を無償化の対象に含め、実質的に5年間も公費で延命させるのが今回政府がまとめた具体策だ。

保育事故に詳しく、『子どもがすくすく育つ幼稚園・保育園』著者である寺町東子弁護士は、「指導監督基準は、これを守らなければ乳幼児が亡くなってしまう、という最低限の基準。実際、保育事故が起きた施設に情報公開請求をすると、基準を満たしていないことが多い。本来は、指導監督基準を満たしていない施設は事業を続けるべきではない」と指摘する。

さらに、こうつけ加える。

「現在各自治体は指導監督を強化しようと、抜き打ち調査を増やしたり、人員を増やしている。今回の政府の決定はこうした流れを止めてしまう。仮に基準を満たしていない施設に公費を出してしまったら、頑張って基準を満たすモチベーションがなくなってしまう

地方自治体や自民党議員からも反対の声

一方、実際に保育所を管理する地方自治体からも、反対の声が上がっている。

横浜市の林文子市長は5月31日、政府の検討会で、「認可外保育施設等についても保育の質の確保はすべき」だと主張。

「横浜市においても年1回の立入調査をほぼ100%の施設に対して毎年行っていますが、認可外保育施設は、事前の審査がなく事後の届出のみで開所できるため、全ての施設において保育の質が確保されているとは言えない状況です。無償化の対象とするのであれば、最低限、認可外保育施設指導監督基準を満たす旨の証明書交付を要件とすべきです」(内閣官房「第7回 幼稚園、保育所、認定こども園以外の無償化措置の対象範囲等に関する検討会」林市長提出資料より)

同様に、4月25日には三重県が同じ検討会で「認可外保育施設は、待機児童の受け皿としてだけでなく、認可保育所等では実施が困難な夜間や休日のニーズについて対応している現状があり、その役割は大きい。一方で、指導監督基準を満たさない施設もあることから、無償化の対象範囲については子どもの安全に関する基準が確保されていることを求めるなど、一定条件を付すること」を要望した(内閣官房「第6回 幼稚園、保育所、認定こども園以外の無償化措置の対象範囲等に関する検討会」三重県提出資料より)。

さらに、こうした批判は与党である自民党内からも上がっている。

産経新聞の報道によると、6月5日に行われた自民党「人生100年時代戦略本部」で金子恭之衆院議員が「(安全性など)質の向上をはかる必要がある。事故が起きたら誰が責任を取るのか」と批判した。

安全より無償化を優先すべきなのか

近年、待機児童が深刻な社会問題となり、保育所の「量」の問題の解決が優先された。だが、その影響で保育の「質」が置き去りにされた部分がある。内閣府が5月28日に発表した報告結果によると、2017年の保育事故件数は前年比の1.5倍。保育の利用者が増えたことや、2015年度に事故報告が義務づけられ、それが周知されてきたことも大きな要因ではあるものの、安全面での配慮が足りているとは言い難い。

寺町さんはもともと日本の安全基準は低く、無償化の前に、保育士の配置基準を変え、保育士の数を増やすべきだと訴える。

寺町東子弁護士

無償化の前に、保育士配置基準の切り上げを優先すべきだと主張する寺町東子弁護士。

写真:室橋祐貴

そもそも日本は他の先進国に比べて、保育施設の安全の基準が低い。日本では保育士1人で20人までの3歳児を見ることができますが、イギリスでは8人までです。今の認可外監督基準も認可基準と一本化し、プラスアルファのところで質を競えば良いと思います」

「無償化の実施は2019年10月で、まだ1年4カ月も先。その間に指導監督基準を満たした施設だけを無償化の対象にすれば良い。安全ではない施設を市場から排除せずに、5年間も放置するのは、どう考えてもおかしいです」

(文・室橋祐貴)

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