ゆとり世代が日本に抱く危機感の正体。23歳筆者が世界の若きエリートの自由な生き方に触れて考えたこと

国際カンファレンス

日本の未来への漠然とした大人たちの不安を肌身で感じて来た、ゆとり世代の筆者が、世界の若者たちと語って考えたこと。

筆者提供

5月上旬、スイス チューリッヒから車で1時間半ほどの「サンガレン(St. Gallen)」という街で、世界中から若手リーダーが集う大規模なシンポジウムが開催された。サンガレン シンポジウムは、中国アリババ創業者のジャック・マーも参加したとされる、今年(2018年)で48年目の伝統ある会議だ。

日本からの推薦枠で参加した慶應義塾大学の修士課程に在籍する23歳の私が、この謎に包まれたシンポジウムの実態に迫ってみたい。長期の海外留学経験のない私にとって、日本という国が置かれた“いま”を感じる貴重な機会だった。

参加者は「Leaders of Tomorrow」と呼ばれ、特定の企業に所属している人は少なく、修士課程もしくは博士課程に在籍している学生や、卒業後に起業をしているといった若者が多かった。

柔軟な世界のエリートたち

参加者の1人、27歳のダニエルはルーマニア出身で、ドイツの大学の博士課程に在籍している。なんとすでに結婚し、2歳の娘がいた。日本では“高学歴エリート”といえば、大学を4年で卒業して大手総合商社や広告代理店などに入社するコースを想像する人も少なくないだろう。20代は仕事にのめり込んだり、自由な時間を恋愛に遊びにと謳歌したりして、30代で結婚を意識するといった具合だろうか。

しかし、世界のエリートの生き方はもっと柔軟だった。何でそんなに早く結婚したのか、周囲の環境ではそれが当たり前なのかという矢継ぎ早の質問に対して"It depends.(場合によるね)" を繰り返す。

人生の選択はそれぞれのもの。焦って就職する必要もなければ、20代後半になったら結婚適齢期という固定観念に縛られる必要もない。子育てにはお金もかかるが、ないならないなりに、育て方はあるといった具合だ。

日本がいかに特定のレールを強く意識して生きている人の集まりなのか、ハッとさせられた。

参加者の出身地はパキスタン、フィリピン、カナダ、マレーシア、ブラジルなど、先進国から途上国まで様々だ。タンザニア出身で、現在はハーバード大に在籍しているジョシュアは学部時代に医学を学び、大学院では教育を専攻している。彼のように、母国を飛び出し、留学先から参加をしている学生が多かったのも印象的だった。

カンファレンス

世界中から若手リーダーが集うサンガレン シンポジウムは、中国アリババ創業者のジャック・マーも参加したとされる。

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薄まる日本の存在感

そんななか、留学先の選択肢として日本の存在感は今後ますます小さくなっている。

日本学生支援機構(JASSO)によると、2015年に日本に来ている留学生数は20万8379人と、10年前より8万人も増加している。しかし、日本の留学生の受け入れ状況は決して楽観視できるものではないと感じた。

あるパキスタン出身の女性は、シンガポールの大学で学んでいる。メカニカルエンジニアリングを専門とする彼女は当初、日本の高い技術力に関心があったそうだ。だが、そこでネックになるのが日本の英語力だ。

上位校の早慶レベルでも、ほとんどの授業は日本語。英語と母国語しか話せない彼女たちにとって、高いハードルになる。であれば、ほとんどの人が英語を話せる国の大学に留学するほうが賢明なのだ。

また、この会議に参加するためには、エッセイコンペティションを勝ち抜くか、推薦をもらう必要がある。日本は推薦枠10人、エッセイ枠10人が割り当てられていた。推薦枠は10人中9人が日本人。競争を勝ち抜く必要のあるエッセイ枠はなんと、日本人は2人だけだった。残りの8人は、ベトナムやインドネシア、フィリピンなどから日本に留学に来ている留学生だ。

今回スピーカーとしてシンポジウムに参加していた ソニーコンピュータサイエンス研究所長の北野宏明氏はこう語った。

「日本の学生にも頑張って欲しいけど、対等に戦ったら、日本人は2人しか来られない。これが日本のリアルだよね。逆に言えば、そのぐらい優秀な留学生が日本で勉強しているのはすごいこと。彼らが日本で起業したり、活躍してもらえる場を整えないといけない

また、日本人の学生は日本国内でもインターナショナルな競争になっていることも理解する必要があると指摘した。

キャリアの選択肢多様化を

このシンポジウムから、私たちが学べることは何だろうか。

まずは、日本において若い世代の柔軟なキャリアの選択肢が、認められるようにするということだ。

日本では4年で大学を卒業し、大きな会社に就職する。しばらくは仕事にのめり込んで、30歳前後で結婚と出産をという、決まり切ったコースがどうも頭から離れない。

世界中から来た参加者

世界各国から来た若者たちと、筆者の新居さん(左から2番目)。

筆者提供

しかし、これでは博士課程に進む研究者の割合も一向に増えず、起業などのチャレンジを若い段階で試みようとすることも難しい。文系で修士に進めば「モラトリアム」と揶揄され、起業しても大企業に入った友人たちと収入を比べて惨めな気持ちになりかねない。

肌感としては休学等の選択が認められつつあるように感じるが、文部科学省によると休学者は2007年度に14.4%だったものが、2012年度には15%と微増にとどまっている。

私が大学を休学したいと申し出た際、父からは「学ぶために大学に入っているのに休学とは何事だ」と激怒されたこともあった。

また、大学時代に友人が妊娠した際も、多くの人が就職活動が難しくなるのではと眉をひそめた。

もし、仮に大学時代に結婚出産したとしても、しばらく子育てに専念してからいくらでも仕事ができるとしたら、もう少し早い段階での出産を決める人も増えるだろう。卒業後に起業をして失敗したとしても、いくらでもやり直せるとしたら、もっと自分の好きな仕事でチャレンジしたいと思う人が増えるだろう。

好きなタイミングで選択し、失敗してもやり直せるという感覚は、挑戦する人の背中を押し、閉塞感漂う日本からイノベーションを生み出す、とても重要なポイントだ。

大人たちの危機感の正体

そして、私たちがもう一つ学べることは、他国の若者の日本での挑戦を受け入れる土壌を整えるということだ。

フィリピンのトップ校を卒業し九州工大に留学中のサントスは、卒業後はフィリピンに戻ってエネルギー系のスタートアップにCOOとして参画する予定だ。しかし、今回サンガレンで先出の北野さんと出会い、日本で働くことや、参画予定の企業における日本での事業の展開についても興味を持ち始めた。北野さんも「彼みたいな優秀な人は、ぜひうちの会社にも欲しいよね」と話す。

その声を受けて、帰国してわずか2週間後、東京にやってきて、面会したのだ。ビジネス面でのパートナーシップなど、発展的な議論が繰り広げられたという。そのスピード感と身軽さに、チャンスをつかむ勘の鋭さを見た気がした。

彼らはどの国であっても、魅力的な環境でチャレンジがしたいのだ。

若者イメージ

日本のもっている資源と、海外からやってくる若者のハングリーさを掛け合わせれば、これまでにない未来をつくっていくことができるかもしれない。

日本の人口減少は止まらない。日本企業がどんなに良い技術を持っていても、使える人がいなければ、永遠に宝の持ち腐れだ。私たちは、海外の優秀な若者の力を借りて、日本がこれまで蓄積してきた財産を活用して、次の未来を作っていくことを真剣に考えなければいけない。

まだ、日本の文化や環境、そして日本人の人柄に惹かれて、言語の壁を超えて日本に来る留学生はたくさんいる。私たちが変わるなら、一刻も早い方が良い。日本のもっている資源と彼らのハングリーさを掛け合わせ、これまでにない日本の未来をつくっていくことが、日本の未来を切り開くヒントになるかもしれない。

ゆとり世代と呼ばれ、キャリア教育の盛り上がりの中で、高校・大学時代を過ごした私は、大人たちの漠然とした日本の未来への不安感を強く感じていた。 そして「これまでの詰め込み型の教育を続けていては日本は立ち行かなくなる」。そんな大人たちの焦燥感を感じては「私たちの世代に押し付けないでよ」と思っていた。

今回ついに、その危機感の正体に触れた気がする。危機感を押し付けられた世代としてではなく、混沌を楽しみながら、よりよい未来へ突き進む。そんな世代に私たちは、なれるかもしれない。初めて、そんな気持ちになれたのだ。


新居日南恵(manma代表): 株式会社manma代表取締役。1994年生まれ。 2014年に「manma」を設立。“家族をひろげ、一人一人を幸せに。”をコンセプトに、家族を取り巻くより良い環境づくりに取り組む。内閣府「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」・文部科学省「Society5.0に向けた人材育成に係る大臣懇談会」有識者委員 / 慶應義塾大学大学院システムデザインマネジメント研究科在学。

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