月給激減、サビ残、家族の時間…非正規社員の僕が正社員を望んでいない理由

非正規雇用労働者がみんな正社員になりたい訳ではない。長時間労働、責任の重さ、転勤、家族と過ごす時間……理由はさまざまだが、Business Insider Japanのアンケートでは、非正規雇用者がみんな正規雇用者を望んでいるわけではない実態が明らかになった。

改正労働契約法により有期雇用の労働者が無期契約に転換できる「5年ルール」や、国会での議論が大詰めを迎えている働き方改革関連法案の「同一労働同一賃金」など非正労働者の待遇改善が進む一方で、従来の「正社員になれればOK」という価値観が揺らいできている。

電車

さまざまな理由で正社員になりたくない人、正社員になったことを後悔する人たちがいる。

撮影:今村拓馬

非正規雇用は“愛人”、正社員は“就社”

Business Insider Japanは4月、日本郵政グループが正社員の住居手当を段階的に廃止するという記事に関連して、「あなたはやっぱり正社員を望みますか?」と題したアンケート調査を行った。有効回答者数は103人。

パート、アルバイト、派遣・契約社員などの非正規雇用の労働者を対象に「正社員になりたいですか」と質問したところ、なりたいと回答した人は14人、なりたくない人は13人と、ほぼ同じ割合だった。どちらでもない人は4人。

正社員になりたい人が求めるのは経済的、そして精神的な安定だ。

定年まで安心して働きたい」(40代以上、女性)

カードやローンなどの審査が圧倒的に不利」(40代以上、女性 )

キャリアアップを考えた時、非正規では全く評価されない日本の雇用体系と固定概念がある」(35-39歳、女性)

「数週間とか1カ月とか2カ月などの短期派遣社員です。仕事が見つからずに無職の状態で仕事探しをする日々の中で、家賃やいろいろな請求書はどんどん届き、貯金はあっという間に減っていきます。眠れなくなり、気づくとストレスで髪が大量に抜けていました。 非正規雇用は、恋愛に例えるならば愛人。将来を保証されずにうまく利用されているだけです」 (40代以上、女性)

一方で、正社員になりたくない人たちも多い。「給料は我慢料」と言われたのは過去の話。サービス残業や転勤など割に合わない負担は避けたいと考えているようだ。介護や子育てなど家族と過ごす時間を大切にしたいという声も男女問わずあった。意外と男性が目立つ。

「社員間の役割分担があいまい。就職ではなく、就社になるので好まない。責任の重さ、仕事の量に比べて報酬が少ない」(40代以上、男性 )

サービス残業があるから」(35-39歳、男性)

「バカな経営者と関わりたくない」(40代以上、男性 )

長時間労働や遠方への転勤になる可能性が高く、家族の介護との両立ができなくなるから」(30-34歳、男性)

家庭との両立のため」(40代以上、女性)

組織と一体化したくない

就活

正社員だからこそ得る安心感。しかしそれは時に理不尽な扱いを強いられることもある。

撮影:今村拓馬

東京都で派遣社員として働くAさん(38、男性)も正社員になりたくないと考える1人だ。今は大手企業で庶務をしている。これまで大手運輸会社や宅配ピザの配達員、家庭教師の斡旋企業での営業などさまざまな仕事をしてきたが、いずれもパートやアルバイトで、1度も正社員になったことはない。正社員という働き方に疑問を持つようになったきっかけは、家族の突然の死だ。

Aさんは「男子新御三家」と呼ばれる名門の駒場東邦中学・高校から東京工業大学に進学。5つ下の弟が亡くなったのは、Aさんが大学院で生物学を研究していたときだ。自死だった。新卒で正社員として入社した会社での研修期間を終え、いよいよ職場に配属というタイミング。遺書もなく原因は今もわからないままだが、友人たちには、「疲れ過ぎて仕事がうまくいかない」「ストレスでじんましんが出る」「休みたいけど言い出せない」と話していたことが後になってわかったという。その後、Aさん自身も体調を崩し、大学院を中退した。

「弟の死後、働き方について、組織について深く考えました。終身雇用、年功序列、我慢して頑張る人だけが評価される、そんな日本企業の体質は私たち一人一人の鏡でもあるんじゃないかって。休みたいと言えなかった弟や、企業が起こした不祥事の報道を見ていると、正社員になったら組織やそのルールを守ることが何より大切になってしまうように思えます。そんな風に組織と一体化するんじゃなく、自由に批判できるような環境で働きたいんです」(Aさん)

正規・非正規にとらわれない働き方を

夫婦

非正規同士の結婚では「子どもをどうするか」は悩みのひとつだろう。

shutterstock/milatas

ひとつの職場にこだわらない非正規だからこそ、空気を読まずに働きたいと考えている。繁忙期にサービス残業を強要されたときも、上司にきつく抗議した。結局、職場にいづらくなり退職することになったが、後悔はしていない。

一方で、両親は複雑な思いだったようだ。

「今からでも遅くない。医者を目指したらどうだ」

両親は研修医の奮闘を描いた漫画『ブラックジャックによろしく』を大学院を中退した直後のAさんに手渡し、そう懇願した。

「キャリアで“つまずいた”僕に汚名返上して欲しかったんでしょうけど、全くそんな気はありません。両親はその後も正社員になって欲しいと思っていたようですが、他のきょうだいに子どもができてからは何も言われなくなりましたね。

正社員の上司より給与が高いこともありましたし、仕事の内容は正規・非正規で変わらないことも多い。正社員は大事な仕事をする人、非正規はそうじゃない人という偏見は今の時代に合っていません。すべての人が社会参加するためにも、正規・非正規にとらわれない多様な働き方が必要だと思います」(Aさん)

昨年、同じように非正規で働く妻(36)と結婚した。世帯収入は年間約500万円。「収入と引き換えに夫婦の時間を減らしたくない」という妻の願いで、ダブルワークもやめた。今後の懸念は子育てのことだ。妻は早く子どもを欲しがっているが、産休育休や出産手当金などもない不安定な雇用のため、どうやって安全に出産・子育てできる環境を整えていくか、Aさんはもう少し考えてから決断したいという。

やっぱり子育てや家事と両立できない

哺乳瓶

正社員も非正規も今の待遇を変えたいという理由に「家庭との両立」をあげる人がいた。

撮影:今村拓馬

アンケート調査では正社員68人を対象に「非正規社員やフリーランスになりたいと思いますか」とも聞いている。結果は、なりたくない人が36人(53%)と半数以上を占めた。

「収入が不安定で家族が反対する」「キャリアをしっかり積みたい」という理由がほとんどだったが、「弱い立場になるとパワハラやセクハラの懸念がある」という声も。非正規から正社員になるために12年、20年努力したという人もおり、まだその魅力は健在のようだ。

一方、非正規やフリーランスになりたい人は12人、どちらでもない人は20人いた。理由を見ると、ワークライフバランスのない職場がまだまだ多いと感じる。

「残業や休日出勤など、子育てをしながらでは厳しい。保育園の迎えで帰る際も同僚が残っており帰りにくい。正社員なのだから働けと思われているように感じる」(30-34歳、女性)

家族との時間を大切にしたい」(30-34歳、男性)

家事の時間を確保したい」(30-34歳、女性)

一方で、副業解禁や終身雇用の揺らぎなど社会の変化を感じ取っている人も。

「これからの時代、正社員は安泰神話は崩壊する」(20-24歳、男性)

「今の仕事が順調なので当面は非正規やフリーランスになる予定はないが、今後の社会の変化によっては、そのような働き方になることもあり得るという認識でいる」(30-34歳、男性)

月給が半減? 地域限定社員の悲鳴

日本円

厚生労働省によると、就活を開始する時点で「 地域限定正社員」への応募意向がある学生は72.6にのぼる。

shutterstock/SakarinSawasdinaka

非正規で働く人は全国で2117万人(総務省「労働力調査」2018年1~3月期)。ファーストリテイリング、スターバックスコーヒージャパン、ファンケル、日本航空など大手企業を中心に、非正規を正社員化する動きが広がっている。しかし、中には正社員になったことを後悔する人も出てきた。

Bさん(30、男性)は高校卒業後、大手総合スーパーで契約社員として携帯電話などの販売員をしていた。当時の月給は約30万円ほど。スマートフォン・モバイル実務検定などの資格も取得し、意欲的に取り組んでいた。

しかし、キャリアアップを目指して約3年前に転勤のない地域限定社員になると、月給は約16万円になった。そこから社会保険料や労働組合費などを引かれると手取りで約12万円ほどしか残らないという。ここまで給与が下るのは予想外だった。それまでは一人暮らしをしていたが、とても暮らしていけないと、今は実家に戻っている。

結婚を考えているパートナーもいるが、自分の方が収入が低いため、「何とかしないと」と焦る。

「月30時間のサービス残業に客のクレーム対応。正社員になって給与は下がったのに割に合わないことばかりですよ。結婚する予定の彼女は『収入は気にしない』と言ってくれてますが、転職も考えています。こんなはずじゃなかったのに……」(Bさん)

正社員もメリットばかりではない。しかし、無期雇用の転換を前に、雇用期間の終了時に使用者が契約を更新せずに労働者を辞めさせる「雇い止め」に合ったという声もアンケートにはあり、非正規がいまだ不安定な立場であることも事実だ。

あなたは正社員になりたいですか?


「あなたはやっぱり正社員を望みますか?」アンケート:2018年4月にBusiness Insider Japanで実施。回答者は63%が男性、32%が女性。20代が8%、30代が33%、40代以上が55%。独身が44%、既婚で子どものいる人が33%、既婚で子どもはいない人が19%だった。小数点以下切り捨て。

(文・竹下郁子)

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