「光の92世代」1992年生まれが起業する理由。目指すは「メイクマネー」ではない

近年メディアで取り上げられる若手起業家には、なぜか「1992年生まれ」が多い。

「光の世代」とも呼ばれる「92世代」。彼らはなぜ起業をするのか?

92世代

1992年生まれの起業家たち。ユナイテッドとPicApp以外はサービス名。

図:Business Insider Japan

上場企業の執行役員になった92世代も

92世代の起業家が目立つ。年齢でいうと、2018年の今、25歳か26歳。

ダウンロード数1200万を突破したレシピ動画アプリ「kurashiru(クラシル)」を運営するdely社の堀江裕介をはじめとして、仮想通貨ウォレットアプリ「Ginco」の森川夢佑斗(むうと)、給与即日払いサービス「Payme」の後藤道輝も1992年生まれ。

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創業した会社が買収された92世代もいる。キュレーションメディア「MERY」を運営していたペロリはDeNAに買収されたが、1992年生まれの有川鴻哉はその中心メンバーだった。DMMに買収されたPicApp(ピックアップ)社を創業したのは宮本拓。彼も92世代だ。

花房弘也は2014年にGorooを創業、Gorooは2016年にユナイテッド社の子会社となった。その後、花房は親会社であるユナイテッド社の執行役員に就任。「上場企業の執行役員としては最年少レベル」(同社広報)という。

高校卒業、東日本大震災で変わった人生観

92世代の年表

図:Business Insider Japan

バブルが崩壊し「失われた20年」に突入した後に生まれ、ゆとり教育を受けながら育った92年世代。高校1年時には日本でiPhoneが発売され、10代でスマートフォンに触れた、最初の世代でもある。

そんな92世代が高校を卒業する直前に、東日本大震災が日本を襲った

kurashiru堀江

「kurashiru」の堀江裕介は、震災をきっかけに進路を考え直した1人だ。

写真:今村拓馬

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多くの若い世代が震災をきっかけに自分の進路を見つめ直したが、kurashiruの堀江裕介もその1人だったとメディアの取材に対して語っている。

堀江は2011年当時、体育教師を目指して大学に進学する予定だった。国立大学の後期受験を目前とした3月11日、震災に遭った。被災地でのボランティアにも参加したが「自分が救える人の数には限界がある」と挫折を感じていた。そんな時、ソフトバンクの孫正義氏が義援金として個人で100億円を寄付すると宣言した。

影響力を持てば、より多くの人を救える

そう感じたことが、堀江を起業の道へと導いたという。

大学時代、独立系VCスタートアップ全盛期

「Payme」後藤道輝

「Payme」の後藤道輝も、East Ventures、メルカリ、CAMPFIRE、DeNAなどで働いた経験がある。

撮影:西山里緒

92世代が大学時代を過ごした2010年代前半(2011年〜2015年)は、多くの独立系ベンチャー・キャピタル(VC)が創業した年でもある。East Ventures、B Dash Ventures、ANRI、Skyland Venturesなどは、2010年代前半に創業した独立系VCだ。

92世代の起業家たちは、これらの独立系VCから出資を受け、成長している。

「Payme」を創業した後藤道輝は、「20歳前後の若者が、4年おきくらいに起業しているイメージがある」という。VCが資金調達をし、起業家に投資をし、上場準備や売却をし、次のファンドを作るまでの一連のサイクルが、だいたい4年で1周することが背景にある。

後藤曰く、92世代の前後であれば、1988年世代や1996年世代の起業家が目立つのはそのためだという。

もう一つ、多くの92世代の起業家に共通しているのは、「大学時代にベンチャーでのインターン経験がある」ことだ。例えば「Ginco」の森川夢佑斗はメルカリ、ユナイテッドの花房はピクスタ、「kurashiru」の堀江裕介はクックパッドの子会社、コーチ・ユナイテッドなどでインターンをしている。

加えて、92世代にとって大きかったのが「MERYショック」だろう。2012年、有川鴻哉がコアメンバーの1人として創業したペロリは、キュレーションメディア「MERY」で急成長。2014年、数十億円とも言われる価格でDeNAに買収され、大きな話題となった。

25歳で「仮想通貨バブル」を体験

ビットコイン

2017年、日本はビットコイン価格の高騰に沸いた。

写真:今村拓馬

「インターネットに匹敵するイノベーション」とも言われる技術、ブロックチェーンに若くして触れたのも、92世代の特徴だ。

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森川夢佑斗も、ブロックチェーンに魅せられた1人だ。大学在学中にベトナムのブロックチェーン企業で働いたことがきっかけで、「これは世界を変える技術だ」と実感し、起業を決意した。

2018年1月、コインチェックから巨額の仮想通貨が不正流出、国内のブロックチェーン起業ブームは冷え込んでいるが、92世代はこの技術の可能性を諦めていない。

「(コインチェック以降)風向きはいい意味でも悪い意味でも変わりました。でも、ブロックチェーンを社会に普及させるということでは、スタートラインにもまだ立っていない。いまのインターネットのように、みんながブロックチェーンを当たり前のように使う未来は、確実に来ると思っています」(森川)

求めるのは「メイクマネー」ではない

92世代の起業家に共通するのは、「名声やおカネを得るより、人を助けるために大きな影響力を持ちたい」という願望がつよいことだ。

森川は、「今は、影響力の先にお金がついてくることがわかっているので、お金を稼ごうというマインドにはあまりならないですよね」と語る。

ユナイテッドの花房は、会社をイグジット(株式売却)させた後に価値観が変わってきたという。

「インターネットビジネスでは、30代、40代の多くの経営者が活躍している。すでにやれることは“出尽くしている感”があって、同じことをしても二番煎じになってしまう」

「ビジネスの規模も、IPOなら1兆円、10兆円規模で、そのためには日本だけではなくグローバルも狙わないといけない。なぜやるのかという意味に関しても、自分ならではのものを求めている

前述した後藤は、4億円を調達した後も「月給20万円で働いている」という。社員よりも低い額だ。次の年の給与改定時になっても、「そんなに(報酬は)変えないと思う」と語る。

「お金持ちになりたいわけじゃないけれど、(お金は)影響力を持つための通過点として必要だと思います」

後藤は、「今日も丸亀製麺で(無料の)ネギを山盛りにして食べてきました」と言って笑う。

メイクマネー第一主義ではなく、おカネは自分が実現したい未来を叶えるための手段。それを屈託なく言えてしまうのも、「92世代」の特徴なのかもしれない。(敬称略)

(文・西山里緒)

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