LINEが突如発表した完全無料の名刺管理アプリ「myBridge」。
LINEは後発ながら名刺管理アプリをスタートさせた。Sansan社の「Eight」やWantedly社の「Wantedly People」などの競合がそれぞれのプレゼンスを強めている中で、LINEのアプリ「myBridge」は2018年5月14日に市場投入された。
名刺管理アプリは、スマートフォンで名刺を撮影すれば、その情報が文字認識技術(OCR)と人力などでデジタル管理される。膨大な量の紙の名刺をファイルなどで管理する手間が省け、ユーザー数は国内に限らずアジア域内でも伸びているという。
緑と白のLINEアプリのアイコンカラーではなく、黒地に白文字の「myBridge」アプリはシンプルなデザインで「LINEらしからぬ」存在かもしれない。後発スタートにも関わらず、LINEの最高戦略・マーケティング責任者(CSMO)の舛田淳氏は、早い段階で100万ユーザーを獲得できると自信をのぞかせる。
LINEはなぜ今、名刺管理アプリに乗り出したのか? 勝機はあるのか? 舛田氏にその戦略を聞いた。
myBridgeはLINEとは違う「つながり」をつくる
LINEの取締役・CSMOの舛田淳氏。
── myBridgeはサービス名や機能に“LINEっぽさ”を感じませんでした。LINEは自分たちのサービス基盤や文化の中で事業を展開していますが、なぜmyBridgeは別のアプローチをとっているのでしょうか?
LINEのつながりというのは、プライベートなネットワークです。LINEは国内で月間7500万人以上の方に使っていただいていますが、そのつながりを活かせるものはLINEブランドに乗せる、そうでないものに関しては別のブランドを使うようにしています。
myBridgeはサービスのログイン認証や読み取ったデータのLINE共有機能はあるが、LINEの「連絡先」とは紐付けされない。
myBridgeは、“ビジネスネットワーク”に関する取り組みです。ユーザーの方は、プライベートとビジネスはいっしょにしたくないと考えています。公私混同して使いにくくならないように、あえてLINEのつながりは使わない仕組みになっています。
ビジネスネットワークという領域は、我々にとって新しいチャレンジです。2017年の事業戦略発表会で「※Connected戦略」を発表しましたが、その戦略にあわせたものになります。例えば、「マイナポータル」との接続や、法人向けツールである「LINE WORKS」がありますが、こういったもののひとつとして「myBridge」があると思っています。
※Connected戦略とは:
LINEが2017年6月に開催した事業戦略発表会で発表。LINEアプリ自体の拡充に加え、行政機関との連携や他企業との連携を強めていくというもの。
名刺を管理・活用している人はまだまだ少ない
myBridgeと同様に、スマートフォンで名刺を撮影し、デジタル化するアプリは既に存在する。
── 名刺管理アプリはすでに競合他社がいる市場です。ビジネスのコミュニケーションとしての“名刺”が、今後どのようなものになっていくとお考えなのでしょうか?
myBridgeをリリースした時に、「もう紙の名刺は要らないよね?」「LINEには紙の名刺ではないことをやって欲しかった」と何人かの方に言われました。
でも、まずは紙の名刺というものを効率化させないと、次のステップにはいけません。
いままでも、“デジタルの名刺”のようなソリューションやツールは世に出てきましたが、みなさんそんなには使っていませんよね? 現状、ビジネスネットワークの塊がどこにあるかと言われれば、紙の名刺にあるんだと思います。
LINEを作ったとき、LINEのコアバリューとなっていたのは電話帳でした。電話番号はプライバシー性の高い情報だとみなさんが思っている。電話番号を交換したということは、リアルの距離も近いということです。
myBridgeも名刺交換をしたという事実をデジタル化する。この先、紙というものをどんどんデジタル化していけば、紙がいらなくなる可能性はあるし、そうしたいと思っています。紙がなくなったとしても、ビジネスネットワークというものはなくならない。そこのサポートをしていくのがmyBridgeのミッションです。
「複数枚同時スキャン」や「スキャン代行」も計画・検討中
シンプルに設計されたmyBridgeのユーザーインターフェイス。
── ビジネスでは名刺をベースに、myBridgeのネットワークを構築している段階ということですか。
そうです。電話番号はまだリストになっているからいいですが、名刺はまだリストにすらなっていません。名刺をお持ちの方には数種類のレイヤーに分けられると考えています。
“名刺管理ツールをすでに使いこなしている方”、“フィジカルでは管理されている方”、そしてほとんどの方は“名刺はあるが、とりあえず積んでいる方”です。名刺管理ツールを使っている人たちは、名刺を持つ人たちのほんのひと握りでしかありません。
いろいろな統計を調べていますが、年配の男性の方ほどデジタルで名刺管理をしようとしています。でも、女性の社会進出や個人で働く方も多くいらっしゃいます。そこの数字が上がってこないと、本当の意味のデジタル化は起こっていないと考えたほうがいいでしょう。
── シニア向けではなくオールカテゴリーでやりたいということですか?
はい。インターネット自体が個人のものになってきて、“個人のブランド化”ということが言われるようになりました。個人として動くことが、より許される環境になっていくでしょう。
「myBridgeの法人向けサービスもやらないのか」と聞かれることもありますが、法人向けというより、いまのmyBridgeの延長線上にチームやプロジェクト単位で使えるソリューションにしていきます。
法人向けにアカウントをいくつで売る、といったビジネスも当然あるかもしれません。しかし、大元の考え方としては、myBridgeのPR文「名刺は、わたしの力になる」とあるように、人脈といったものはその人に根付いているものだと考えています。
自身も名刺を大量に所有していると語る舛田氏。
── 年配の方ほど大量の名刺が手元にありそうですよね。
私自身もものすごい量があります(笑) 若い方々にある種アドバイスとして申し上げたいのは、「名刺は早めに電子化しておいたほうがいい」ということです。
これは私たち自身も課題に感じているのですが、いまは名刺を1枚1枚読み込む必要があります。これを複数枚でもできるようにする機能は、計画しています。
あと、例えば段ボールごと私どもに送っていただき、それをデータ化しますといった「代行スキャンサービス」のような仕組みも検討しています。
「まずは100万ユーザー達成」の先に見えるビジネス
LINEはAI・IoTといった領域などに投資を続けている。
── LINEは現在、決算としてはかなり厳しい状況です。先日、出澤剛社長からは、いまは投資を加速させる時期とうかがいましたが、myBridgeの立ち位置はどこでしょうか?
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私たちは今「スマートポータル構想」を掲げ、LINEが中心にあって周囲にFinTechなど領域を置き、さらにポスト・スマートフォンとしてスマートスピーカーなどのIoT、AIの世界を広げています。実は、myBridgeはこの文脈とは別の文脈なんです。
事業をつくっていく戦略としては、“成功したものの延長線上に、ビジネスを足していく戦略”と“あえて非連続でチャレンジしていく戦略”の2つがあります。myBridgeは後者の方です。
myBridgeプロジェクトに自信を見せる舛田氏。
── myBridgeのストーリーは完成といった形はないと思いますが、どのぐらいの期間で形になっていくものなのでしょうか?
myBridgeのチームには、早々にユーザー100万人を達成しようと伝えています。
当然、100万でいいというわけではなく、100万まで乗せると一定のコアなユーザー層が出てきます。そこをベースに次に進むということです。先ほど申し上げた女性やいまは名刺管理ツールを使っていない人に届けるには何ステップか必要なのです。ただ、そのスピードはなるべく速くしたいです。
社会人になったとき、初めて名刺交換をしてうれしかったというような体験がありました。同じような体験をmyBridgeを通して、していただけるようにしたいと考えています。
(聞き手・構成:小林優多郎、佐藤茂、撮影:今村拓馬、小林優多郎)