アマゾンAWS副社長が語る「日本の普通の企業」がデジタル推進で成功する方法

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さまざまな企業が課題として挙げる、仕事環境の非効率と不合理を解消していく「働き方改革」。

大手外資企業は、こうした取り組みにおいて「リーダー企業」的に扱われることが多い。多くの人にとって疑問なのは、リーダー企業と、後発企業にはどんな違いがあるのか? もっと言えば、リーダー企業はなぜ「リーダー企業」になれたのか?だ。

アマゾンのクラウドインフラ部門であるAmazon Web Service(AWS)のクラウドアーキテクチャ戦略担当副社長であるエイドリアン・コッククロフト氏に、リーダー企業に共通する「成功の法則」を聞く。

「乗り遅れたくない」ならリーダー企業から学べることは多い

エイドリアン・コックロフト氏。

Amazon Web Service(AWS)のクラウドアーキテクチャ戦略担当副社長・エイドリアン・コッククロフト氏( AWS Summit Tokyo 2018にて撮影)。

コッククロフト:日本企業は課題を抱えている、と言われます。でも、日本だけでなく世界中の企業が、同じような課題を抱えています。大半の企業は、リーダーではなく“フォロワー”なのですから。すべての企業がリーディングカンパニーになれるわけではないし、すぐに彼らと同じ組織にもなれません。そもそも、すべての企業がリーダーになる必要はない。重要なのは、誰もが『乗り遅れたくはない』と思っている、ということです。

数年前まで、AWSの顧客は「リーダー」企業でした。特定の顧客とともに、特定の用途に必要なサービスや技術を開発してきました。しかし今は、そうでない企業がクラウドを導入し、仕事の仕方を変えていく時期にあります。フォロワーである側は、「リーダーがどうやったのか」を学び、少しずつ広げていければいいのです。

AWSで使われているシステムの多くは、業界のリーダーである「先進顧客」と共に開発したものだ。

例えば、世界最大の映像配信事業者であるネットフリックスは、自前のデータセンターを一切持たず、すべての処理とネットインフラをAWSのクラウドに依存している。

またアメリカの大手地銀であるキャピタル・ワン・フィナンシャルは、独自システムにこだわることの多い金融機関の中でも、いち早く「すべてをクラウドの上で処理する」ことに舵を切った企業だ。

各種のサービスをクラウド上で実現するには、さまざまな技術の他、法務的な要件・セキュリティ上の要件が必要になる。そうしたことを話し合いながら、AWSは巨大なシステムをクラウド上に構築してきた。

「遅れたくない企業」が焦り始めたデジタル・トランスフォーメーション

AWSのエイドリアン・コックロフト氏

Amazon Web Service(AWS)のクラウドアーキテクチャ戦略担当副社長・エイドリアン・コッククロフト氏。

しかし、今はそのフェーズが過ぎ去りつつある。「遅れたくない企業」が、自らの持つ経営課題の解決のため、いわゆる「デジタル・トランスフォーメーション」を行う時期になっている。

「デジタル・トランスフォーメーション」は、働くために使う道具を変えることを指しているのではない。働くために必要な情報をクラウドへ移行し、より多彩な観点で活用可能にすることを指す。結果として、働き方の効率が変わる。また、クラウドを道具として使い、新しい事業をおこすことも含まれる。

「デジタル・トランスフォーメーション」を行うメリットはなにか。コッククロフト氏はさまざまな利点を挙げるが、特に重要なのは「速度」と「情報活用」だ。

コッククロフト:現在の企業の課題は「速度の変化」です。過去の技術は「年」のサイクルで考えれば十分でした。開発し、データセンターへ導入するとその機能は「フリーズ」され、1年使い続けます。技術の刷新を考えるのは、システムの入れ替えの時で十分でした。

しかし、クラウドでは、そのサイクルが十倍以上速くなります。データセンターへと適用する時のように、機能を「フリーズ」する必要がないからです。使いながら、継続的に変化していきます。もはや、技術を導入する段階から、「その技術は今後も進化し続ける」前提で考えるべきです。使い続けつつ、変化させていくことを考えなければならないのです。

特に大きいのは「情報活用」だ。コッククロフト氏は、AWSに移籍する前、ネットフリックスのシステム開発責任者だった。その時の経験を引用しつつ、次のように説明する。

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コッククロフト:ネットフリックスと既存のテレビ局の違いを考えてみましょう。テレビ局は視聴者のことをあまり知りません。視聴率はわかりますが、そのくらいです。

しかしネットフリックスは、顧客がどれだけの時間、映像を見ていたのかを知っています。次になにを見たのか、どこで見るのを止めたかも知っています。

そうした情報を収集し、「次にこの視聴者が見る番組はこれであろう」といった予測ができますし、「この視聴者はどのくらいの請求まで払ってくれるだろうか」ということまでわかります。

一般的に企業は、製品やサービスを作っても、顧客と直接関係を築くわけではありません。間には、小売店や流通、対応窓口などが入るためです。どう顧客に届き、どう受け入れられているのか、前後の状況をトラッキングすることができませんでした。

しかし、クラウドベースのシステムを構築すれば、顧客に直接価値を届け、その動きを知ることができます。

クラウドによるデジタル・トランスフォーメーションに着手するのであれば、まず、ウェブ構築などの「効果がわかりやすいところ」から始めるべきです。しかし次の段階では、顧客との関係を構築できるような、新しい用途のアプリケーションから着手すべきでしょう。もしくは、顧客でなくIoT機器の導入なども、同じように効果的です。

成長企業が持つべき指針「Time to Value」とは何か?

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そうした新しい技術の導入は大変だ。しかし「技術はもはや、大きな問題ではない」とコッククロフト氏は言う。

AWSには先進顧客とともに開発した技術が蓄積されているし、導入を助けるシステム・インテグレーターも増えているからだ。むしろ、既存企業のデジタル・トランスフォーメーションを阻害しているのは「技術ではないところだ」と説明する。

コッククロフト:問題は「組織」です。会議が多いとか、稟議が必要であるとか……。「ミーティングを重ねないと意思決定ができません」という話になりがちです。技術による解決なら、ほんの数日で結果が出るものかもしれません。しかし、そこに至るまでの意思決定に数カ月かかることも、往々にしてあります。

リーダー企業が成功している要因は、テクノロジーを変えたことにあるのではありません。まず組織とカルチャーを変えることに成功したことが挙げられます。

キャピタル・ワンは、それまで社外に委託していたIT技術開発を、5年間ですべて「社内開発」に切り換えました。同時に、それを「セル」と呼ばれる小さな組織で行っています。それぞれの小さなチームが、それぞれの責任においてITの「小さな仕事」をやっていくようにしたのです。従来は組織ヒエラルキーがあり、(いわゆる)サイロ化されていましたが、それは持ち込みませんでした。

そもそもアマゾンやネットフリックスは、創業時点から自律性をもった、小さなチームで働く形でした。だからリーダーになれたのです。

しかし、従来型の組織はそうなっていません。私は「その業界でリーダーとなるなら、小さなチームによる組織の運用は必須」だと思っています。

とはいえ、冒頭で述べたように、すべての企業がリーダーになれるわけではない。アマゾンやネットフリックスのように、しがらみの少ない組織体系になっているわけではない。では、「遅れたくない組織」はどうすべきなのか。コッククロフト氏の助言はシンプルだ。

コッククロフト:まず始めるべきです。大きく古い組織であったとしても、少数の「先鋭チーム」をとりあえず作り、自分達で自立して責任をもって仕事をする任務を与える、ということです。

残りは従来型の組織かもしれません。しかし、新しい小さな先鋭チームからは、「早く」「安全に」「安価に」進める結果を出すことができます。

例えばソニーは、ゲーム機「PlayStation4(PS4)」用のネットワーク向けのメッセージングサービスで、小さなチームによる、クラウドを使った素早いシステム構築を行いました。ソニーは大企業であり、全体でいえば、アマゾンやネットフリックスのように「小規模高速回転」の組織構造ではありません。しかし、新しいメッセージングサービスを構築する上では、必要なシステムとそれに関する組織だけをまず、小回りの効くものとして構築し、システムを組み立てました。このような小さな組織から始めることは、どのような企業にも可能なことなのです。

ここで持つべきは「Time to Value」という指針だ。「Time to Value」とは、「着手後、その作業が価値を生み出すまでにかかる時間」のことだ。

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コッククロフト:例えば、私の作業として、「コードを書いて分析する」ということがあるとします。重要なのは、そのコードを書いたことが顧客にどう影響するのか、製品にどう影響するのか。

クラウドであれば、作ったものを「明日」には顧客に届けることができます。だからすぐに結果が出る。従来のデータセンターでは開発に時間がかかり、Time to Valueが3カ月・6カ月と長くなります。組織毎に、自分達の仕事の「Time to Value」がどのくらいなのかを追跡し、測定し、「これは待てる」「これは急がないといけない」という判断が必要です。

結果的に、会議だのチケットの発注だのといった部分を全部取っ払ったり、ステップを自動化してしまったりする必要があるかもしれません。

一貫した指針があれば、結果的に、組織全体も早くなるのではないか、と思います。

(文、写真・西田宗千佳)


西田宗千佳: フリージャーナリスト。得意ジャンルはパソコン・デジタルAV・家電、ネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主な著書に『ポケモンGOは終わらない』『ソニー復興の劇薬』『ネットフリックスの時代』『iPad VS. キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏』など 。

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