米ユニコーン支える元ハッカーのリアル—— Airbnbエンジニアは13歳でiPhoneをハックした

日本でも住宅宿泊事業法(民泊新法)が6月15日から施行され、今最も注目を浴びているユニコーン企業・Airbnb(エアビーアンドビー)。そこで働くのはアメリカ人だけでなく、世界各国から集まった様々なバックグラウンドとスキルを持つ“移民”たちだ。

1995年にオーストリアで生まれ、現在はAirbnbのソフトウェアエンジニアとして働くニコラス・ハウノルド(Nicolas Haunold)さんは、元ハッカーだ。彼がAirbnbに入社した経緯とは?

iOSをハッキングしていた青春時代

ニコラスさん

ニコラスさんのデスク。机にはなぜかシャンパンが置いてあった。

ニコラスさんは1995年生まれ。オーストリアのウィーンで育ち、大学を中退してAirbnbに2016年9月に入社した。入社当時は21歳で、現在はAirbnbで通知機能を担当するチームで働いている。

ニコラスさんがAirbnbに入社した経緯は特殊だ。

13歳頃から、iPhoneのオペレーションソフトウェア (iOS)をハッキングする「ハッカー」となった。

その後、大学生の時にサマーインターンとしてAirbnbで2度働き、大学を中退してフルタイムの正社員エンジニアとして入社した。

ニコラスさんがアップルのハッキングコミュニティに入ったきっかけは、サンディエゴに住む父の友人だった。ニコラスさんが13、14歳だった当時は、iPhoneが発表されてまだ1年足らず。

アメリカの特定のキャリアでなければ使えず、海外にいる人たちの不満は溜まっていた。ハッキングをすることでシステムを改変し、オーストリアに住む人たちもiPhoneを使えるようになる。「これは人類の未来を作るものだ」と確信し、ハッキングに夢中になった。

中学校から帰ると毎日毎日、オンラインのフォーラムにアクセスし、そこに集まるハッカー達とともにコードを書き続けた。

「その場のハッカーたち全員がiPhoneの限りない可能性を信じ、家族のように集まって開発に励んでいた日々を今でも思い出します」

ニコラスさんは懐かしそうに語る。

シリコンバレーでは多くのハッカーが採用されている

ニコラスさん

Airbnbオフィス内にあるコーヒースペース。

現在では当たり前のように搭載されているiPhoneの壁紙設定やキーボードのショートカットなども、当時はそのハッカーコミュニティで先に生まれ、Appleが公式に搭載するという流れが多かった。実際に多くのコミュニティのメンバーが、その後Appleに採用されて実際に働いている

「自分が作った機能をAppleに公式に付けてもらうことで、より良いイノベーションが起こるように働きかけられるって、めちゃくちゃかっこよくありませんか?」

ハッキングと聞くと違法性があるように聞こえなくもない。ニコラスさんに聞いてみると、熱を込めて説明してくれた。

「iPhoneのハッキングは決して違法ではありませんでした。違法なのはAppleの著作権があるソフトウェアを再配布することです。僕たちのコミュニティにはAppleの規約を破らない、という暗黙の了解があったのです。消費者だけではなくコミュニティが危険にさらされることがないよう、とても気を付けていました」

しかしそのハッカーコミュニティも、徐々に活発ではなくなっていく。時とともにAppleの開発スピードや質が高まっていったからだ。それにともない、ニコラスさん自身の興味もiPhoneやパソコン用のアプリの開発に移っていった。

その時は必死で何か新しく熱中できるものを探していたのです

2010年には友人5人で起業も経験した。たくさんのニーズがあるにも関わらず、あまり情報が整理されていないという理由で、弁護士のマッチングサイトを運営した。起業は決して簡単ではなく、ストレスを感じることも多かったが、それ以上にとても楽しかったという。

しかし会社はスケールすることができず、1年ほどで解散することになる。

ハッカー仲間に誘われてAirbnbに

airbnb

社内には、実際にAirbnbに登録されている各国の部屋が再現されている。

2013年、友人がAirbnbに就職したのがニコラスさんの転機だった。友人といっても、実際に会ったことはなく、オンラインでつながったハッカー仲間だ。

「6〜7年の付き合いですが、オンライン上での友達で、ハッキングコミュニティで一緒にコーディングをしていました。大手動画サイトの動画を無料でダウンロードできるサービスを作ったりしていましたね(笑)」

当時は世界中で使われていた人気のソフトウェアの一つで、収益も出ていたそうだ。

ニコラスさんが高校を卒業した2014年、その友人を訪ねるためにサンフランシスコに2週間旅行した。友人の部屋に泊まりながらいろいろな場所を訪れた。その中でも彼が案内してくれたAirbnbのオフィスで、会社の雰囲気に惚れ込んでしまった。

「彼がインターンに応募しなよと言ってくれたので、応募しちゃいました」

彼にとって、オーストリアを出てサンフランシスコで働くという選択は、とても自然なものだった。2014年夏、初めてのインターンを終えてオーストリアの大学生活に戻ると、サンフランシスコに戻りたい思いがどんどん募っていった。

「ひと夏をAirbnbで働いて過ごすという特権を得てからは、2回目のインターンに応募するのは必然でした」

2015年夏に2回目のインターンを終えた後、少し決断に時間はかかったものの、大学卒業を待たずに中退し、Airbnbに正社員として入社することを決意する。

彼は過去のハッキングの経験をセキュリティーに関する研究・開発とも捉えており、面接時にもオープンにしていたという。Airbnb側も特に問題視することなく手厚いビザのサポートをし、アーティストなど特殊技能保持者に与えられるOビザをニコラスさんは取得する。

“異色”を受け入れるシリコンバレー

airbnb

2018年2月のロイターの報道によると、Airbnbは310億ドル(約3兆4000億円)の企業価値がついている。

Shutterstock / BigTunaOnline

なぜiOSをハッキングするまでのコーディングスキルと、学生時代に起業する行動力を兼ね備えながら、Airbnbに入社しようと思ったのか。

それはひとえにAirbnbのカルチャーとメンバーに惹かれたからだそうだ。

「メンバーの全員が家族や親友のような関係なんだ。全員がよりよいものを作ろうと一緒に働いている」

引き抜きの激しいシリコンバレーのカルチャーにあって、そういった企業文化は非常にユニークなものなのだ。

そんな怒涛の生活を送って来たニコラスさんも、もうすぐ正社員になって2年になろうとしている。今後のプランを聞くとこう答えた。

「起業をした20歳の頃、iOSのハッキングに没頭していた当時を強く思い出しました。なので、(Airbnbを近いうちに退職して)また新しいベンチャーを始めようと思っています。音楽、料理、そしてジャーナリズムに興味があるので、もしかしたらその関連のビジネスかもしれませんね。僕は心から何かを作るのが好きなんです、ずっと持ち続けていくであろうパッションですね」

シリコンバレーには世界中からこういった異色の経歴を持つ若者たちが集まり、新しいものが生まれようとしているのだ。

(文・瀧澤優作、小柳歩、写真・小柳歩、編集・西山里緒)


瀧澤優作:1995年生まれ。大学3年次に休学してサンノゼ州立大学へ。2017年7月からアメリカの大学生向けメッセージアプリを作るスタートアップ、Loopに参画、グロース・マーケティングを担当。シリコンバレーを中心に海外情報を日本のミレニアル世代に届けたいと、休日に取材をしている。

小柳歩:1990年生まれ。東京生まれ、ロサンゼルス育ち。カリフォルニア工科大学で機械工学を学び、スタンフォード大学院でコンピューターサイエンスを専攻。その後、シリコンバレーのユニコーン企業でソフトウエアエンジニアとして働く。自身の経験や経歴を生かし、より日本人が海外で活躍できる環境を整えるため情報発信している。

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