私は2017年6月に大学を卒業した。日本企業と取引がある大連の小さな会社で働き始め、もうすぐ1年になる。 先日、大学の同級生たちと集まっておしゃべりした。
家の近くにあるミルクティーショップ。商品の人気があり、経営も難しくなさそうなので、会社を辞めてミルクティーショップを経営しようと考える若者が増えている。
社会人2年目の私たちの状況を、まず紹介したい。
- Aさん(24歳):大連の銀行勤務。月給は手取りで約4500元(約7万7000円)。両親と同居のため、家賃負担はない。
- Bさん(23歳):大連の貿易会社勤務。月給は手取りで約2500元(約4万3000円)。友達とルームシェアをしており、一人当たりの家賃は500元(約8600円)。
- Cさん(23歳):大連の小規模商社勤務。月給は手取りで4200元(約7万2000円)。社宅に住んでいるため、家賃負担はない。
- Dさん(23歳):北京の会社勤務。月給は手取り5100元(約8万7000円)。友達とルームシェアをしており、家賃負担は1900元(約3万3000円)。
- Eさん(23歳):上海の会社勤務。月給は手取り5400元(約9万3000円)。大学の寮に住み、家賃負担は1700元(約2万9000円)。
やりたいことはたくさん、でもお金が足りない
欲しいものがたくさんあるけどお金が足りない。私たちの共通の悩みだ(写真はイメージです)。
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中国の給料水準はどんどん上がっている。特にITエンジニアは新卒でも月給1万元(約17万円)を超える場合もある。
けれど、私も含めて、周囲の同年代の給料はこんなもんだ。 住居費は特に頭痛の種。社宅があるのは相当恵まれている方で、そうでなければ一人暮らしをすることは難しく、実家が遠い人はだいたいルームシェアをしている。
おいしいものを食べたい、有名ブランドの化粧品を使いたい、旅行に行きたい、おしゃれな服を買いたい、でもお金はない。
友達とのおしゃべりの話題は、たくさんのやりたいこと、お金が足りないこと、給料が少ないこと、その割には仕事が大変なこと、そんな話になる。お金が足りないことは私を含め、周りの女性(たぶん男性も)の共通の悩みだ。
友人のAさんは「会社勤めでは給料が上がらないから、自分で会社を立ち上げたい」と話した。「何の会社がいいの」と聞いたら、「奶茶の店が一番いい、すごく儲かるらしいよ」とのことだった。
「1日100杯売れたら、利益は1000元だよ」
中国人の若者に大人気のミルクティー。最近はメニューを見ただけでは味の想像がつかないほど、商品が多様化している。
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奶茶とは、牛乳が入った紅茶、つまりミルクティーのこと。日本にも「タピオカティー」の店があるが、あのような甘い、いろいろなフレーバーがある飲み物だ。
スタンド式のミルクティーの店は、私が10代の頃からあちこちで見かけた。コーヒーに比べて庶民的でより多くの人に人気があり、最近は、ミルクティーを飲む自分を撮影して、SNSに投稿する人も多い。フレーバーが多様化し、店構えがおしゃれになり、大連ではちょっとしたミルクティーブームが来ている。
Aさんは言う。
「ミルクティーの原価は5元以下なのに、売り値は15元。1日100杯売れたら、利益は1000元(約1万7000円)だよ」
毎月5000元足らずのお金でやりくりしている私たちにとって、それはとても魅力的な数字だ。自分で始めた事業なら、休みが少なくても忙しくても頑張れる。私たちは皆で、「(お金があれば)ミルクティーのお店をやりたいね」と夢を見た。
急増するスタバとミルクティー店
上海に2017年12月にオープンした、スターバックスの世界最大規模の店舗「スターバックス リザーブ ロースタリー上海」。中国では15時間に1店舗のペースでスタバがオープンしている。
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中国人の消費力が高まるにつれ、飲食業界も大きく成長している。スターバックスの店舗は15時間に1店のペースで新規出店をしている。2017年12月には、スタバの世界最大規模の店舗が上海に開業した。店舗面積は2787平方メートルで、「スタバのお父さん」を意味する「星爸爸」という愛称も定着した。スタバのコーヒーは30元~40元(約500~700円)で日々のランチ代より高いが、コーヒーの写真をSNSに投稿するのも流行っている。
ミルクティーのお店はスタバよりも猛烈な勢いで増えているように感じる。自宅の周囲を見てみたら5店舗あり、繁華街のショッピングセンターに行くと、1階だけで4店舗あった。ショッピングセンターのミルクティーの単価は15~30元(約300円~500円)とちょっと高いけど、買えないわけでもないので、ミルクティーを手にショッピングセンターをぶらぶらするのがお決まりのスタイルになっている。
初期費用を親に借り、開業した結果
ただ、友達が言うように、ミルクティーは本当にすごく儲かるのだろうか。 近所では次から次に新しいお店がオープンするけど、数カ月で閉店することも多く、その後にまた、別のミルクティーのお店が開店したりする。
ショッピングセンターでは、ミルクティーを手に歩いている人がたくさんいる。
ミルクティーのお店でアルバイトしている玲玲さん(22)に聞いてみたら、彼女の友人の男性、韓さん(25)がまさに最近、お店を開業したとのことだった。
韓さんは、両親から初期費用として20万元(約340万円)を出してもらい、上海にミルクティーのお店を開いた。しかし、徒歩数分の範囲に、ミルクティーを全国でチェーン展開している「coco」が3店もあり、自分の店には客が全然来なかったという。月の売り上げは4000元(約6万9000円)しかなく、自分への給料どころか、テナント代の8000元(約14万円)も払えず、あっという間につぶれてしまった。
彼は店を開く場所を選ぶとき、周囲の環境をほとんど調査しなかったという。テナント代など、運営コストの予算も考えていなかった。
企業勤めより自分の店が目標
ミルクティーの大手チェーン「coco」。何を注文しても外れなしと、私たちの間でも人気が高い。
中国の若者の起業志向はとても強い。安定した待遇を求めて公務員や国有企業を目指す大学生ももちろんいるが、全体的に「会社勤めでは給料が上がらず、いい生活ができない」という考えは強く、ある調査によると、2016年に卒業した大学生の3%が、就職も進学もせずに起業の道を選んでいる。
中国人のライフスタイルに革新を起こしたシェア自転車のofoも、出前アプリEle.me(餓了麼)も、元々は学生起業だ。彼らの場合は、自分たちの生活が便利になるよう、ITを使って新しいサービスをつくった。彼らのように特別優秀でなくても、お金を貯めて自分の店を持とう、自分が社長になろうと考える人は珍しくない。
しかし、起業の失敗率は90%前後という数字もある。友人Aさんは、初期費用があったら今すぐにでもミルクティーのお店を開きそうだけど、韓さんの話を聞いて、ちょっと怖くなった。
私は取引先のメーカーの黄社長(45)に、起業のコツについて聞いてみた。
「その業界に詳しいことが大前提だよ」と黄さんは話した。
「もう一つ、とても大事なことは、どうなったらその事業を諦めるか、あるいは苦しくてもどういう状況だったら続けるのか、しっかり考えておくこと」
黄さんは13歳で故郷から広州に出てきて働き始め、35歳のときに今の会社を起業した。中学校も卒業していない黄さんの成功を「運が良かっただけ」という人もいる。だけど、この変化の激しい中国で、会社を10年続けている黄さんの言葉は、「ミルクティーは儲かる」という友達の言葉よりも現実味を感じた。
(文・撮影:王夢夢、編集:浦上早苗)