トランプ大統領に知ってほしい「日本のものづくり魂」——アメリカの製造業は高関税では復活しない

トランプ大統領

2018年3月、鉄鋼とアルミニウムに対する関税の発動を命じる大統領令に署名して満足げなトランプ大統領。それで問題は解決するのか。

REUTERS/Leah Millis

ラストベルト(Rust Belt)」という英語をご存知だろうか。

日本語訳すると「錆び付いた地帯」という意味になる。かつては鉄鋼や自動車で栄えた“重厚長大”の産業都市が集中するエリアでは、その後ITやサービスが産業の主流となり、今日では街にあった工場が錆び付いてしまったことからそう呼ばれる。

当然、こうした街には失業者が多い。彼らの多くは白人だ。この人たちが今、トランプ大統領の支持層となっている。

トランプ大統領は2016年の大統領選挙戦において、このラストベルトの白人たちに向かって、「中国や欧州、日本、南米の国々から大量の輸出品がアメリカに流れ込んで、皆さんの職が奪われた。彼らとの貿易交渉をやり直して、皆さんの職を取り戻す」と叫び続け、当選した。

6月8、9日にカナダで行われたG7首脳会合(サミット)でも、トランプ大統領は他の先進国に対して、鉄鋼やアルミ、そして自動車に高関税をかけると迫り、自由貿易を推進する他の6カ国から総スカンを食らった。

しかし、トランプ大統領がひるむ気配は全くない。ラストベルトの人たちから確実な支持を得て、11月の中間選挙に勝つことだけが大統領の最大の関心事で、G7の“ちゃぶ台”をひっくり返すことくらい何でもないのだ。直後に行われた米朝首脳会談も、トランプ大統領にとっては、中間選挙に向けてアピールする格好のステージだったのだろう。

鉄鋼もアルミも、結局は輸入するしかない

鉄鋼労働者たち

2018年5月、2年ぶりにレイオフ(一時解雇)から復帰したイリノイ州グラニット・シティの鉄鋼労働者たち。

REUTERS/Lawrence Bryant

この「ラストベルト」問題は、輸入品に関税をかければ、白人たちが職を取り戻して解決に至るのだろうか。錆び付いた街は元気になるのだろうか。

残念ながらそうはならない。自動車に用いられる鉄鋼やアルミ製品は、特殊な技術を必要とする重要部品なので、関税がかかってもアメリカの自動車メーカーは輸入品に頼るほかない。すると、部品の値上がりによって市場競争力が失われるため、海外に生産拠点を移す自動車メーカーはますます増えることになる。

現にアメリカの自動車業界は、鉄鋼、アルミへの高関税導入に強く反対している。また、欧州なども、もし高関税を取り下げないのであれば、アメリカ製のバイクや農産物に高関税をかけ、報復すると宣言している。貿易戦争が激しくなれば、「ラストベルト」はますます疲弊していくだろう。

では、この問題はどうやって解決したらいいのか。実は、ヒントは日本にある

日本も1985年の「プラザ合意」(先進5カ国の蔵相がニューヨークのプラザホテルに集まり、円買いの協調策に合意。この後わずか半年ほどで、1ドル200円台半ばから100円台前半へと急激な円高ドル安が進んだ)以降、円高で輸出競争力が低下したために、多くの製造業が日本から脱出した。

日産、ホンダ、トヨタなど日本の自動車メーカーはこぞって生産拠点を海外に移し、日本からの輸出を減らした。自動車だけではない。それ以前から韓国などの追い上げを受けていた造船や繊維はもちろん、電機産業も円高により大きな影響を受けた。

しかし、アメリカと違って、日本の製造業は「ラストベルト」にはなっていない

日本が誇る「造船技術」を応用した健康器具

家庭向け歩行用ジャグジー

ナチュラルクリエイト社が発売した家庭向け歩行用ジャグジー「Water Walker & Spa」。

ナチュラルクリエイト

先日、「ナチュラルクリエイト」(大阪市北区)という会社を訪問した。この会社では、造船技術の一部を活用し、家庭向けの歩行用ジャグジーを開発した。長崎の造船技術を得意とする工場で生産している。

この歩行用ジャグジーが今、中東地域の富裕層の間で大人気となりつつあるという。中東は暑さが厳しいために屋外での歩行が(とりわけ高齢者にとっては)難しいため、高齢の腰痛患者らのリハビリ、あるいは成人病予防のための運動器材として、個人やスポーツジム向けの販売が増えている。

技術としては、船が方向転換を素早く行うために、舵とともにノズルを回転させて水流を作り出す「流体制御」を応用している。この歩行用ジャグジーには、水流を起こすノズルが18カ所に装備されており、ユーザーの症状や体力に合わせて、水流の速度、角度を調節し、目的に応じた最適の状態を作り出すことができる。

また、水深を調節して浮力を効かせることで、高齢者でも歩行やリハビリ運動が可能となる。スポーツモードに設定することもでき、プロサッカー選手から「トレーニング用として使いたい」という要望も出ているらしい。

中東の富裕層から熱烈なラブコール

doi_mono_UAE

高さ356メートル、世界一の高層ホテル「ゲボラ」。アラブ首長国連邦(UAE)のドバイにて。産油国富裕層の消費欲は衰えを知らない。

REUTERS/Satish Kumar

設置費も含めると1台1500万円もするこの機械が、アラブ首長国連邦(UAE)の政府関係施設、ウェルネス施設をはじめ、中東地域ですでに100台以上のオーダーを得ていると聞く。

話を伺った開発者の但馬安俊氏は筆者に次のように語ってくれた。

「造船という日本の伝統的技術で勝負したいと思った。我々はスタートアップ企業だが、技術、デザイン、品質において一流を目指した。中東では一流以外は受け入れられないからだ。今後は人工知能(AI)を導入する。現在インストラクターが行っているユーザーへのメニュー指導を、今後はAIができるようにしたい」

かつては世界を席巻した日本の造船技術が、こうして姿を変え、新たなビジネスを作り出しているのである。

トヨタを魅了した山形の木工技術

天童木工ホームページ

将棋の駒から成形合板家具の製造、さらには高級自動車の内装まで手がける天童木工のホームページ。どんな製品にも木工職人のものづくり魂が底流にある。

天童木工HP

もう一つの例は、山形県天童市。将棋の駒の生産地として知られる。かつては一家に1セットあった将棋の駒の9割が天童で作られていた。多くの木工技師を抱え、町は栄えたが、時代とともに将棋の駒は売れなくなっていった。

地元の木工技師たちの組合に端を発する「天童木工」は、これではいけないとアメリカから「薄い合板を強力にする技術」(高周波加熱用発振器)を導入。コンサート会場の椅子やデザイン家具などへ事業転換を図り、一定の成功を収めた。

その技術に目をつけたトヨタが、2000年にレクサスの木製ハンドルの生産を委託した。ジャガーやメルセデスなど欧州の高級車も、内装の一部に木製部品を使っている。レクサスも、最先端の技術に日本独自のデザインと伝統工芸を取り入れ、欧州の一流ブランドに対抗したわけだ。

かつては将棋の駒を作り出していた技術が、今はレクサスという世界最先端の自動車とペアとなり、高級ブランドの一翼を担っているのである。

ものづくりの魂は「地域と人」に宿る

この他にも、地方の製造業の成功例は数多くある。岩手県の南部鉄瓶はパリで人気となっている。京都の西陣織も、最近は欧州高級ブランドショップの壁紙として使われている。このように、日本のものづくりは伝統的な技術を残しながら時代の変化に適合し、今日も生き残っているところが多い。

アメリカのラストベルトのようになっていないのは、ものづくりの魂が「企業」ではなく、「地域と人」に宿っているからだろうと思う。

トランプ大統領には、アメリカのラストベルト問題は関税を高くしても解決しないことを、早く理解していただきたい。2019年のG20サミットで来日する際は会場の大阪だけでなく、ぜひ地方にも足を運んでもらい、日本のものづくり魂に現場で触れて帰ってほしいと思う。


土井 正己(どい・まさみ):国際コンサルティング会社「クレアブ」(日本)代表取締役社長/山形大学特任教授。大阪外国語大学(現・大阪大学外国語学部)卒業。2013年までトヨタ自動車で、主に広報、海外宣伝、海外事業体でのトップマネジメントなど経験。グローバル・コミュニケーション室長、広報部担当部長を歴任。2014年よりクレアブで、官公庁や企業のコンサルタント業務に従事。山形大学特任教授を兼務。

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