欧州中央銀行の6月発表で本当に重要なのは量的緩和打ち切りではない

6月14日に開催された欧州中央銀行(ECB)政策理事会が*量的緩和の年内打ち切りを発表したことが話題である。

ECB本部

ドイツ・フランクフルトにあるECB本部。

REUTERS/Kai Pfaffenbach

量的緩和とは:英語ではQuantitative Easing(QE):市中銀行が保有する中央銀行への預金残高量を増やすことで緩和効果を狙う政策の一つ

海外の中央銀行がこうしたタカ派(強気)寄りの金融政策を決定すると、日本では直ぐに「日銀が置いてかれる」というトーンで解釈したがる向きが多く、今回も例によって「QE打ち切り」とのヘッドラインが目立った(※タカ派の反対の弱気派はハト派)。

しかし、市場の反応を見れば分かるように、この会合で示された本当に重要な情報は「QE打ち切り」ではなく「*マイナス金利の継続」だ。理事会後のユーロ相場急落からも分かるように、QE打ち切りを前向きに捉えてユーロを買い進めた向きが多かったわけではない。

マイナス金利とは:市中銀行が保有する中央銀行への預金金利をゼロ未満に設定する政策。

それもそのはずであり、ECBのQEの年内終了はもともと既定路線と言われていたものだ。あえて意外だった点を挙げるとすれば、その発表が7月と思われていたところ6月だったことくらいである。

今回の見どころは①QE終了②保有資産の再投資継続③当面のマイナス金利継続の3点が決定されたことだ。メディアのヘッドラインでは①が華々しいが、今後にとって重要な意味を持つのは②や③である。特に、②に関し「2019年夏以降、できる限り長く、政策金利を現行水準(≒マイナス金利)に据え置く」という表現が用いられたことが、強烈なユーロ売りにつながったのである。

以上の論点を中心に今回話題となったECB政策理事会を解説したい。

「QEはタカ派」「利上げはハト派」双方に花を持たせた格好

まず①に関しては、繰り返しだが、そもそも既定路線だった。「年内で終わり」という方向で意見集約は進んでいたし、それが市場予想でもあった。その方針を7月ではなく6月に早出しした理由は定かではないが、筆者はタカ派への配慮があったと読んでいる。

一部報道にもあるが、政策理事会メンバーの中には金利に関し、「2019年半ばの利上げ可能性を示唆して欲しい」という強気な意見もあったという。しかし、上で見たように、今回から加えられた低金利方針に関する「2019年夏以降、できる限り長く」との表現はそのようなタカ派好みの強気な意見とは全く相容れない表現である。

ゆえに、せめて(既定路線である)QEに関してはタカ派の意を汲んで早期に終了宣言を出すことにしたのではないか。総裁会見でも今回の決定について記者から「ハト派とタカ派の均衡ないし妥協」だという感想が漏れている。結局、「QEはタカ派」「利上げはハト派」といったように、2つの重要論点について双方に花を持たせようという政治的な配慮が働いた可能性があると筆者はみている。

もたもたしていると「選挙の罠」にはまる

マリオ・ドラギ

マリオ・ドラギ欧州中央銀行(ECB)総裁。

REUTERS/Kai Pfaffenbach

なお、②の保有資産の再投資継続に伴うバランスシートの規模維持に関してはまだ情報に乏しい。これはどういうことか。

ECBがこれまで購入した国債は順次償還を迎えるので放って置けば、バランスシートの規模は縮小していくことになる。そこで満期が到来した国債に関しては、その償還資金を使って再びその国債に投資をするのである。これによりバランスシートの規模およびこれに伴う緩和効果は維持されることになる。「新たな国債も買わないし再投資が継続されない」となればバランスシートは縮小し始め、本格的な引き締め局面に入り。昨年秋よりFRB(米連邦準備制度理事会)はこのような局面に入ったが、ECBはまだ、というわけだ。

会見では「再投資はどのくらい続けるつもりか。利上げ開始時期との関連はあるのか」と尋ねた記者もいたが、ドラギ総裁の回答は「再投資方針は議論していない。将来議論する」と素っ気なかった。やはりまだ現実感を持って検討できるような論点ではないのだろう。

思い出して欲しい。景気循環に恵まれ、通貨(ドル)高をさほど気にかけないFRBですら2014年10月にQEを終了させてから再投資を停止するまでに丸3年かかった。これから景気循環がピークをつける可能性が高く、ユーロ高を嫌がりやすいECBはFRBよりも出口戦略のペースはどうしても落ちるのではないか。

そもそもユーロ圏のインフレ率は当分2%に届きそうにないユーロ高は輸入物価の下落を通じて物価状況をさらに悪くする可能性があるだけに、やはり出口へ向かうスピードは控えめになると予想したい。なお、仮に、FRBと同じ3年で道筋をつけたとしてもバランスシート縮小の決断は2021年6月というイメージになる。

図①

これらの議論と総合すると「2019年9月に利上げ開始、2020年中にプラス金利へ復帰し、2020年後半から2021年にかけてはバランスシート縮小」ということになるだろうか(図①)。

しかし、時間をかけるほど欧州は各国の重要選挙が循環的に巡ってくる。特に、2019年秋にはギリシャやポルトガルといった財政上、大きな問題を抱えそうな国々が総選挙の季節を迎える。ちなみに2021年まで引っ張れば、ポスト・メルケルを賭けた総選挙がドイツで行われるし、2022年まで行けばフランス大統領選挙がある。欧州ではもたもたしていると直ぐにこうした「選挙の罠」にはまる。

2019年は利上げ「ゼロ回」も。タイミングが悪すぎる

イェンス・ヴァイトマン

ドイツ連邦銀行総裁のイェンス・ヴァイトマン氏。

REUTERS/Heinz-Peter Bader

ECBが金融政策の正常化を進める上で最も頭を抱えるのは、それに乗じて発生するユーロ高の存在である。今回改訂された見通しによれば2018~20年までのユーロ圏消費者物価指数は+1.7%であった。「2020年まで見通しても+2.0%に到達できない」という状況で、一段と通貨高を促しかねない政策運営が可能なのだろうか。

マイナス金利を導入した2014年以降、ECBは実に3年以上にわたってユーロ安を享受してきた。この際、ECBが頻繁に主張してきたのが対米金融政策格差の存在だった。

確かに、2015年12月から数えて7回もの利上げを行ったFRBに比べて、その間のECBはほとんど何もできなかった。その間、しっかり欧米金利差は拡大し、これに応じてユーロ相場の軟調が続いてきたことは確かに正当性もあった(図②)。

図②

しかし、順調にいけば2019年秋のFRBは「利上げの終点」に到達している可能性が高い。今回の声明文を見る限り、ECBが最速で利上げできるとしたら正にその頃であり、タイミングとしては非常に悪い時期が想定されているように思える。「FRBが利上げを止める」タイミングで「ECBが利上げを始める」という政策運営が本当に可能なのだろうか。

そもそも、ただでさえ長い景気循環がこれから衰えてくるかもしれないと言われている今、あえて引き締めをする胆力がECBにあるのだろうか。ドイツ人であるヴァイトマン次期(?)総裁(現・ドイツ連邦銀行総裁)ならやりかねないが、バランス重視のドラギ現総裁はそのような無理はしないと筆者は考えている。

これら諸要因を踏まえる限り、2019年の利上げは最大でも9~12月に1回、経済・金融情勢を踏まえればゼロ回という可能性も払拭できないだろう。6月政策理事会の要諦は「ECBのQEが年内で打ち切りになる」という人気の見出しではなく、「2019年夏以降も低金利を変えることが叶わない可能性が高い」という点だと筆者は考えている。

※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。


唐鎌大輔:慶應義塾大学卒業後、日本貿易振興機構、日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局に出向。2008年10月からみずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)国際為替部でチーフマーケット・エコノミストを務める。

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