デマ、殺害・レイプ予告…日本人女性3人に1人がネットハラスメント被害。日常生活奪われても高い法律の壁

SNSなどインターネットを通じて、性的・差別的な言葉を投げかけたり、個人を誹謗中傷する投稿が横行している。ターゲットにされやすいのは“物言う女性”たちだ。こうした行為は「オンラインハラスメント」「ソーシャルハラスメント」などと言われるが、その被害はネットを越えて、現実にも大きな影を落としている。

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「最近、ストレスがかかることがありませんでしたか?」

仁藤夢乃さん(28)は急な痛みに襲われて駆け込んだ病院の夜間診療で、医師にそう尋ねられた。

思い浮かんだのはある一連のツイートだ。4月、元同級生と名乗る匿名のアカウントが、学生時代に仁藤さんにいじめられたという内容の投稿を繰り返していた。それに呼応して仁藤さんを責めるツイートがタイムラインに溢れた。仁藤さんによると、それらのつぶやきは約80ものまとめサイトに掲載された他、ウェブメディアの記事やYouTubeの動画としてアップロードされたという。

「明らかなデマです。#MeTooのハッシュタグをつけて拡散され、『匿名の告発を推進してきたくせに』などと揶揄されたのもショックでした」(仁藤さん)

身に覚えのないことだったが、攻撃はSNSにとどまらなかった。

仁藤さんが代表を務める、居場所を失ったり暴力や性被害にあった女子中高生をサポートする一般社団法人「Colabo(コラボ)」の問い合わせフォームには、「いじめの説明責任をとれ」「そんな奴が社会活動するな」という意見が大量に届き、仁藤さんの講演会の主催者やColaboに助成金を出している団体には、妨害の電話がかかってきたそうだ。

1日300件もの誹謗中傷、殺害予告やレイプ予告も

こうした嫌がらせは今回が初めてではなく、仁藤さんがColaboの活動を始めた頃から続いてきた。

女子高生に性的サービスをさせる「JKビジネス」の問題を訴えれば、「売春するのは朝鮮人だけだ」「日本を辱めるために嘘をついている」「お前も在日だ」。

児童ポルノに反対すれば、「男性差別主義者だ」「自分はホスト通いして男を買っているくせに」。

そんな脅迫や差別、根拠のない誹謗中傷が大量にツイッターや団体のHPに寄せられた。特にひどかったのは、2016年に性売買の当事者になった女子中高生の声を伝える「私たちは『買われた』展」を企画したときだ。1日で300件の誹謗中傷が届き、殺害予告やレイプ予告も複数あった。

仁藤さんは少女たちの貧困や性的被害の実態を伝えようと数多くの講演を行っているが、今は一人では会場に行けない状況だ。

攻撃は匿名でアカウントを持てるツイッター上で行われることが多い。中には、イラストを作成してまで誹謗中傷を繰り返す人もいた。ツイッター社に報告してそうしたアカウントが凍結されたこともあったが、仁藤さんを執拗に攻撃する人は複数いて、“いたちごっこ”のような状況だと言う。

「気にしない」で拡大し続けた被害、怒りも奪われた

仁藤夢乃

仁藤夢乃さん。これまで数え切れないほどネットでの被害にあってきた。

撮影:竹下郁子

これまでネットでの被害を周囲の人に相談しても、「気にしない方がいい」「見なければいい」「それくらい有名になったってことだよ」と言われてしまうことが多く、仁藤さん自身も、問題に対処する時間的・精神的余裕もなかったため、ブロックやミュートをして自分から見えないようにすることで対応してきた。

むしろ心配だったのは、女子中高生への影響だ。

彼女たちにとってツイッターは重要な情報源。性売買を経験した少女が「体を売る女が悪い」というツイートを見てどう思うだろう。支援している少女が仁藤さんを誹謗中傷するアカウントに対し、「仁藤さんはそんなことしない」とリプライを返すことも多いが、そのことで彼女たちまで巻き込まれて攻撃され、傷つくのは何よりも避けたい。

今回の“いじめツイート”の件では、「最近すごく書かれてるね」「そんな人じゃないって知ってるから」と多くの少女たちに声をかけられた。ただ、それは直接関わったからこそ。少女たちはもともと大人を信じられない環境にいる上に、いじめの被害経験があることも多い。

発端となったツイートはすでに本人により削除されているが、投稿の内容は多くのまとめサイトで見ることができる。これから支援を求めようと考えていた人が、それらを見てSOSを出すのをためらうかもしれない。もう迷ってはいられなかった。

仁藤さんはツイッター社に対し、自身がいじめをしていたと投稿したアカウントの身元を特定する、発信者情報開示の法的措置に踏み切った。今後は名誉毀損で争う考えだ。

「ネットでの誹謗中傷やハラスメントは放置してもひどくなるだけ。私は若い女性で大きな肩書きもないし、ターゲットになりやすいんだと思います。当時は落ち込んで、怒る気力さえ奪われました。でもそれこそが相手の狙いですよね。ここで私が黙ったら、女性の人権や権利のために声を上げると潰される、怖いと思う人が出てきてしまう。だから毅然とした対応を取ろうと決めたんです」(仁藤さん)

3人に1人がネットハラスメント被害に

shutterstock:BigTunaOnline

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セキュリティソフト「ノートン」で知られるシマンテックが、16歳以上の日本人女性504人を対象にオンラインハラスメントの実態を調査したところ、46%、3人に1人が悪意のあるゴシップ、誹謗中傷、セクハラなどの被害を受けていた(2017年)。うつや不安神経症を発症した人は15%で、そのうち48%が専門家による精神医療を受けており、実生活へも深刻な影響があることが分かっている。

根底にあるのは、セクシズムやレイシズムだ。

政治アイドルの町田彩夏さんが自身が就活中に受けたセクハラを告白したところ、「売名」「胡散臭い」「この程度でセクハラ?」という投稿が寄せられた。

北九州市議の村上さとこさんは、4月に前川喜平・前文部科学事務次官らの講演会の司会を務めたのをきっかけに、SNSや手紙などで脅迫されるようになり、女性用下着が大量に送りつけられた。こうした行為は女性蔑視の思想によるものだと批判し、刑事告訴すると発表。ツイッターでの攻撃に対しても「嫌がらせ行為はやめて下さい」と呼びかけ、「デマ、デマのまとめサイト」に対しては「これから粛々と対処していきます」とツイートしている。

ジャーナリストの伊藤詩織さんは、レイプ被害を実名で告発した直後から「オンラインバイオレンス」の被害にあったという。「SNSやメールなどで中傷や、「死ね」などといった脅迫を受け」「恐怖で外出すらできなく」なり、イギリスへ移り住むことになったと述べている。(プレジデントオンライン『セクハラ被害は雑誌に訴えるしかない現実』より)

ある在日コリアンの女性は、ツイッターで大量のヘイトスピーチを受け、外では子どもと「他人のふり」をしなければならないほどにまで追い込まれた。5月、投稿者の一人は脅迫の容疑で書類送検されたが、奪われた日常が戻るわけではない。

1匿名アカウントに50万円、証拠集めは精神的負担も大きい

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仁藤さんを繰り返し誹謗中傷するアカウントは複数ある。投稿を保存する作業もつらい。

撮影:竹下郁子

ネット上の匿名の悪意にどう対抗するか。

特にそうした被害が多いとされるツイッターでは、ツイートの削除や、仁藤さんのように被害を受けたアカウントの発信者情報を開示する仮処分申請を裁判所に申し立てることができる。 仮処分が認められても、開示されるのはIPアドレスというコンピュータに割り当てられた識別番号だけ。それを元に、次は日本のプロバイダに名前や住所を開示するよう訴えるのだ。通常、 IPアドレスの保存期間は3〜6カ月と言われている。 その期間内に2つの裁判をする必要があるため、スピード勝負だ。

これらはすべてツイッターのアメリカ本社に対しての裁判になるため、アメリカから資格証明書(商業登記簿)を取り寄せ、書類を翻訳しなければならない。仁藤さんの代理人を務める神原元弁護士によると、資格証明書とその翻訳で約6万円、申し立て書の翻訳で5~10万円、さらに弁護士費用などを含めると、1つのアカウントを特定するために約50万円はかかるそうだ。

本人の作業としては、ツイートをスクリーンショットに撮り、URLを保存しなければならないが、自身への誹謗中傷を改めて見なければならないため、精神的な負担はかなりのものだ。

「今、東京地裁の保全係が扱う仮処分申請の大半はSNS関係の裁判だと言われています。それくらい被害は深刻ですが、一方で、泣き寝入りしない人も増えてきたということです。ただ、高額な費用や何度も裁判をしなくてはならないなど民事訴訟は被害者の負担が大き過ぎる。女性やマイノリティが狙われているのは明らか。悪質な投稿には罰金や懲役などの刑事罰を課し、警察が犯人を捜査できるよう法整備すべきです。ネット上のモニタリングや差別的な投稿を削除できる仕組みも整えていく必要があります」(神原さん)

すでにドイツにはSNSなどの運営企業に対して、ヘイトなどの違法な書き込みを放置した場合、最大5000万ユーロ(約67億5000万円)の罰金を科すことができる法律がある。

ツイッター社は「情報を一切保有していない」と回答

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撮影:今村拓馬

しかし、現実は厳しい状況だ。

仁藤さんらが行った発信者情報開示請求に対し、ツイッター社は「情報を一切保有していないことが判明した」「したがって、本件申立ては直ちに却下されるべきである」と回答してきたのだ。 弁護士らがIPアドレスの保存期間や、情報を保有していない理由について尋ねたが、明らかにしていないという。6月18日に東京地裁で弁論期日が設けられたが、ツイッター社側は欠席した。

「すぐに対応したのに、これでは被害者の救済も名誉回復もできません。IPアドレスの保存期間も含めて法整備が必要です」(神原さん)

ツイッター社によると、2016年に日本の法的機関などから1709件の情報開示請求があり、そのうち約62%は何らかの情報が開示されている(『透明性に関するレポート』より) 。

ツイッター社の『執行機関/捜査機関向けガイドライン』には、「請求された情報の範囲が広すぎる場合は絞り込んだり、捜査の内容が不明確な場合には背景の説明を求めたり、さまざまな理由で請求を差し戻すことがあります」と記されている。これ以外にどんな場合に請求を差し戻すか問い合わせたところ、「個別の事案に関しては回答していません」(同社広報部)とのことだった。

仁藤さんの戸惑いは、私たちの多くに共通することだろう。

「こんな展開になるとは思っていなかったので、驚きました。ツイートは事実じゃないと証明したいのに、その手段すら絶たれたということですよね。匿名の悪意にこれからどう対抗していけばいいんでしょうか……」 (仁藤さん)

編集部より:初出時、「町田彩香さん」としておりましたが、正しくは「町田彩夏さん」です。また、シマンテックのオンラインハラスメント調査の対象者は506人ではなく504人でした。お詫びして訂正致します。 2018年6月26日 13:30

(文・竹下郁子)

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